なにこれ怖いから蜂の巣にするわ!
鈴は直ぐに火縄銃を消すと代わりにグロッグ18を出現させフルオートモードに設定した。
「アゼリア。この銃を一応持っておいて。」
「こ、これをどうするのだ?」
「もし敵が入ってきたらこの引き金を引いて。そうすれば銃弾が発射されるから。」
「わかった。」
そう言うと鈴はデザートイーグルを手元に出現させ、アイリスと共に外に飛び出した。
「この魔物は…?」
「リビングアーマーだ!魔石の核を壊せば勝手に自壊する!それか操っている術者が近くに居るはずだ!」
「了解!」
鈴はデザートイーグルの照準を鎧の頭に合わせると引き金を引く。
甲冑に穴を開け、貫通し、吹き飛んだが何事もなかったかのように甲冑が空を舞い元の位置に戻ったのだ。
「怖っ!」
鈴は何発か違う部位に攻撃をしていたがなかなか核が見つからない。
「んー!誰か核見つけましたか!?」
「いや!まだだ!そもそもフルアーマー仕様だから剣が効きにくい!」
「こうなればどうにでもなーれ!M4カービン!」
振るわれる剣をデザートイーグルで受け流すと後方へ下がりデザートイーグルを消し、M4カービンを出現させ引き金を引いた。
連続する発砲音と金属の音が鳴り響く。
その中で何か割れる音が聞こえた。
カキンっという音とともにコッキングレバーが下がり弾切れを表した。
直ぐにリロードを行うとレバーを下げ、初弾を装填した。
「うん?鎧が崩れた?そういえば何かが割れる音が聞こえたような…。」
「よくやったぞ!で、何処に有った!」
「蜂の巣でよくわかりませんが恐らく腹部かと。」
鈴はそう言うと次の的に向けて銃撃を行った。
今度は腹部目掛けてだ。
鎧の腹部に当たると玉は鎧を貫通し、穴を開けていく。
そして半分ほど打ち終わった時何かが割れる音が聞こえた。
恐らく核の魔石だ。
「腹部中央可動部の真ん中辺りです!」
「了解した!」
鈴は周りに敵が居ないか確認すると半分撃ち切ったマガジンを交換した。
敵が馬車無いへと入らないように馬車に背を向け戦う鈴とアイリス。
アイリスは鎧事ファイア・ボールで吹き飛ばし、魔石が露出した所にウォーター・カッターで追撃をしている。
他の兵士やイルミス達も場所を調節しながら鎧の腹部に剣を突き立てている。
徐々にでは有るがリビングアーマーは数を減らしていく。
「このまま殲滅するんだ!」
「了解!」
鈴もリビングアーマー目掛けてM4カービンで銃撃していく。
リビングアーマーも残りあと少しという所で馬車内では異変が起こっていた。
「な、なんだ?」
「ふふふ。予想外だわ…まさか私のリビングアーマーがああも簡単にやられるとは。」
「お前は教皇派の暗殺者だな?」
「何のことでしょうね?まぁ、冥土の土産に教えてあげるわ。教皇派はお前の死を望んでいる!死ね!」
そう言うと魔法使いは鉄の杖をアゼリア目掛けて振りかざした。
杖の尻は刺のように尖っていて突き刺されたら致命傷になるだろう。
アゼリアは直ぐ様グロッグ18を構えた。
「そんなもので何ができる!死ね!」
「それはこちらのセリフだ!」
アゼリアが引き金を引くと同時にフルオート設定された弾丸が魔法使いを蜂の巣にする。
反動に耐え切れないアゼリアの腕では照準が狂い集弾率が下がる。
しかしそのおかげか、相手の体の色々な場所へ銃弾が命中した。
魔法使いは体中から血を吹き出しゆっくり馬車の中に倒れる。
至近距離で撃たれたせいか魔法使いは即死していた。
アゼリアが覗きこむと全身から血を流し目を開けたまま死んでいる魔法使いが目に写った。
「私が…人を殺めてしまったのか?こんな…意図も簡単に?」
銃声を聞きつけた鈴が誰よりも早く馬車の中へと戻ってきた。
「アゼリア大丈夫!?」
しかし、アゼリアの反応はない。
銃を床に落とし、両手を見ている。
鈴は床を見ると穴だらけになった黒いローブを着た魔法使いが倒れていることに気がついた。
それを見てアゼリアはグロッグ18の引き金を引いたのだろうと言うことが容易に予測できた。
そして人を始めて殺した罪悪感にさいなまれているのだろう。
鈴は馬車から死体を退かすとグロックを消し、アゼリアの両手を掴んだ。
「す、鈴。私は…。」
「覚悟していたんじゃないの?」
「か、覚悟はしていた。しかし、実際に殺してみると…」
「私だって最初はそうだったよ。」
"殺しちゃった…殺しちゃった…でもこれが現実、リアルなんだ。 "
「鈴もそうなのか?」
「そう。私もそうだった。これは現実。もう起きたことなんだよ。」
「起きたこと…現実。」
「そう。いい?やらなければやられる。弱肉強食の世界。アゼリア、貴方はそういう立場にいる人間なんだよ。貴方がしっかりしなくてどうするの!将来国民を引っ張っていくんでしょ!しっかりしなさい!」
「鈴…そう…だよね。私がしっかりしないとだめだな…。」
「今回のことはその教皇派とやらにぶつけてしまえばいいんだ!」
「そうだね…よし!教皇派め!私は許さないぞ!」
その頃外では。
鈴が外に放りだした死体を見ていた。
「これはギルドに貼ってあった似顔絵とそっくりじゃね?」
アラスがそういう。
「あー。たらしのアラスがそう言うならそうなんだろう。」
「なんだとう?」
「五月蝿い。」
「うぼああ!」
杖で薙ぎ払われ腹部を強打したアラスが腹を抱えてうずくまる。
「確かに、この顔には見覚えがあります。」
「鈴がアゼリア様に渡した銃が役にたったみたい。」
「そうなのか?アイリス?」
「ええ。襲撃時に、何か有ったら困るから銃を渡していた。この穴は銃の跡。」
「体中穴だらけだな。」
「とりあえず証人はルーツ姫にしてもらい、この死体は埋めてからいこう。」
「ああ。そうだな。さっさと埋めないと魔物が寄ってきちまう。」
「だがどうやって埋めるんだ?道具なんて無いぞ?」
「犬みたいに手で掘るか~?ワンワンってな。」
「馬鹿か。」
イルミスは何かを考えるとアイリスの方を向いた。
なら腐敗しないように燃やしてしまおうと。
「アイリス、こいつを燃やしてくれないか?」
「分かった。<炎よ。>」
術名を指定しなかった魔法はただの炎となり前に放たれる。
その炎はローブに引火し黒いローブの主を燃やしていく。
「これで腐敗したり食べられたりすることはないだろう。」
「そうだな。とりあえず馬車に戻ろう。」
兵士たちが馬車に戻ってくるとルーツ姫の心配を始めていた。
「大丈夫でしたか!」
「大丈夫だ。鈴のお陰で助かった。」
「そうでしたか。鈴殿ありがとうございます。」
「いえいえ。良いんです。」
「皆怪我は無いな?では出発だ。」
そう言うと王都へ向けて歩き出した。
魔物の襲撃は無く、先ほどの暗殺者一回きりだった。
途中脇に広い空間が広がっている場所に止まった。
どうやら馬を休ませたり食事を取る場所のようだ。
インターチェンジと似ているだろうか。
さすがに店は無いが馬車の中にあった日持ちするパンや干し肉を食べている。
「(パン硬い…。)」
「どうした?」
「いえ。なんでもありません。」
兵士の一人が飲水を取りに行くことになり桶を持って歩き出した。
それを皆で見送ると各自の装備の確認をした。
リビングアーマーを突き刺したり鍔迫り合いを行ったため刃が欠けている者が多いようだ。
鈴には関係ないことだが、刃が掛けると切れ味が鈍くなると同時に相手の肉に引っかかる可能性も出てくる。
結構危ない問題なのだ。
「こりゃあ王都付いたら買い直しだな。」
「おお、それぐらいなら城の剣を授けよう。私を守ってくれた礼だ。」
「ほ、本当ですか!有難き幸せ。」
「硬っ苦しい。」
城の剣は普通の剣比べ刃こぼれし難く、折れにくい性質を持っている。
現にリビングアーマーと戦った兵士の剣はあまり欠けていない。
イルミス達は携帯型砥石で刃を研いでいる。
そこへ水を汲みに行った兵士が帰ってきた。
「水を持って参りました。」
「でかした。これで水が飲める。」
昼食を終え、イルミス達の剣の一時的な研磨も終わり一行は王都へ向けて再び進みだした。
「で、さっきの銃なんだが、火縄銃と違って弾が沢山でたな。」
「あの銃は火縄銃より約五百年後に開発されたグロッグ18という銃です。」
「五百年か…遠いな。」
「小銃事態はもっと早く出来ていました。」
「ふむ…火縄銃を小型化できるか?」
「できるにはできますけど、命中精度とか飛距離落ちますよ?」
「それで良い。我が国の近衛騎士に持たせるのだ!これなら剣と同時に携帯できる。」
「火縄銃でも鎧ぐらいは貫けますから気をつけてくださいね。後、携帯させるならこっちのフリントロック式銃がいいと思いますよ」
そう言うと違う種類の銃を取り出した。
「これはいちいち火を付けなくても良いタイプ。火打石を打ち合わせることで火花を起こして火薬に引火するタイプ。」
「ほう。こっちのほうが便利そうだ。火打石なら有るぞ。」
「なら後は火薬と鉄の造形が問題だなぁ。」
「私にはよく分からないが、造形ならどうにかなるかもしれない。」
「ほほうー。なら火薬か。」
「うむ…火薬は一体何で出来てるのだ?」
「なんだっけなぁ…忘れちゃったなあ。」
「そうか…そこは研究有るのみだな。」
「うん。人は成長するからね。」
馬車は王都への街道へ入り、ゆっくりと進んでいた。
馬車は時々商人を乗せた馬車とすれ違う。
その度にこちらの馬車を見てくるのだ。
あきらか護衛の数が馬車に対して大きいのと、商人は馬車の車体を見ていた。
どんな人物が乗っているのか見定めるためである。
「王都まで後少しだな。鈴達全員城に招待してやる!城の食事はうまいぞ!」
「お?それは楽しみですね。」
「冒険者の私達には縁のないものだと思ってた…。」
「ふっふっふ。持てなせるだけの料理を鈴達に振舞ってやろう!お父様にはそう言っておくのだ。」
「楽しみにしてます。」
「うむ。楽しみにしているが良い。後技術協力も頼むぞ。」
「了解~。」
「そうだ!思い出した。鈴よ、私は教皇派へ挨拶に行く。その時護衛を頼む。」
「あー。それなんですが、街中と言うことも有りまして。なるべく高い建物からの支援を行いたいです。両脇は兵士で固めてください。恐らく攻撃してくるなら敵は遠距離で攻撃してくるでしょう。(私の勘だと矢に毒とか付いててそれを教皇派が助けるふりして手遅れでしたー。でも助けようとしましたよ?っていう話に。)」
「そうだな…協会から射られることは無いだろう。協会側に確か見張り台が有ったな。そこを使うといい。私の権限で鈴以外入れないようにしておこう。」
「はい。後念のため解毒剤を持って行ってください。これは私の援護が間に合わなかった時ようです。」
「そうか…わかった。癒が使える王宮魔法使いと薬を持って行こう。なるべく鈴が倒してくれるのが理想なのだが…。」
「私だって人間ですから絶対は無理ですよ。そういえばアイリス、毒に癒の魔法って効くの?」
「癒は体の自然治癒速度を上げてるにしか過ぎないの。毒に対しては効果がない。でも解毒剤があれば、その効果を魔法で底上げして毒を早く解毒することができる。」
「ふむ…。ちなみに解毒剤で解毒できない種類の毒って有るの?」
「有るには有る。でも取れる場所も限られてるから相当な値段がする。」
「今回の暗殺に使われる可能性有りか。」
「教皇派は資金も沢山あるからな。それぐらいのことたやすいだろう。」
「何としてでも成功させないとね!」
そんな作戦会議を開きながら馬車は進んでいく。
中で三人がそんなことを考えているなど外にいる兵士やイルミス達は知らなかったのである。
夕暮れ時一行は王都の外壁門前まで到着した。
王都へはギルドカードの提示で大丈夫だった。
どうやらカードが身分証明書になるようだ。
「おい!一旦城に向かってくれ!お父様と話がしたい。」
「わかりました。皆一旦城に向かうぞ!」
「了解。」
馬車は大通りを通り城の有る通りを進んでいく。
鈴は異世界の町並みが珍しく周りをキョロキョロと見渡している。
「鈴。」
「ん?どうしたのアイリス?」
「何か思い出せそう?」
「え、えっと…ちょっと思い出せそうにない…。ごめんね。(ぐわ~罪悪感が私を蝕む~。)」
「そう…。」
鈴は町並みを眺めながら元の世界のことを考えていた。
そして唯一の元の世界の物"銃"を手に出現させ、摩っていた。
「(元の世界かぁ…。私の居ない世界ってどんな世界なんだろう。元の世界…繋がりがあるのは銃だけか…。ホームシックってやつかなぁ…。)」
元の世界の町並みをこの町並みに重ね合わせる。
しかし、元の世界にあった鈴の記録は移動により削除修正されてしまい、元からなかったことになっている。
今更戻れると言われても戻る場所など何処にもないのだ。
「(頑張れ私!夢にまでみたファンタジーの世界じゃないか!頑張って足掻いてでも生きてやる!)」
そんな鈴を見ている二人は記憶が戻るように祈っているが、相変わらず鈴と二人の考えはズレているのであった。