ルーツ国へ出発
港に着いたのは昼を過ぎた頃だった。
時間にして午後三時あたり。
「あー。お腹すいた。」
「さっき榛名さんから貰ったの食べたでしょ。」
「育ち盛りの私には足りない…!」
「鈴ちゃんはそれ以上食べても育たな―。」
「あ!?」
「食べる子は育つよ!うん!」
「アラスさんもこういってるし食べに行きましょう」
「あー。こうしよう。アラスと鈴はなにか食べに行ってこい。俺たちはギルドで待ってる。」
「賛成!アラスさん行きましょう!」
「了解だぜえ!」
そう言うとアラスと鈴は満面の笑みで歩いて行った。
「なんか二人共元気だったわね。」
「どうせ鈴は食べ物、アラスは女性と二人っきりの食事だろ。」
「ああ、そうだな…。」
「ありえるのぅ。」
「とりあえず、ギルドに行こう。何か依頼来ていないか確認しないといけないからな。」
「わかったわ。行きましょ。」
イルミス達はギルドへ行くと適当なテーブルに座り、イルミスが受付へと行く。
「何か依頼や話きてないか?」
そう言うとギルドカードを受付の女性に差し出す。
「少々お待ちください。」
受付の女性職員はクリスタルを操作し、イルミスに関する情報を引き出す。
そして羊皮紙にメモを取り始めた。
そしてギルドの判を押すとイルミスの元に戻ってきた。
「ルーツ国からあります。」
「聞こう。」
「はい。新兵器と兵科の披露宴の招待状になります。この羊皮紙が証明書になるため絶対になくさないでください。また、再発行は致しかねますのでご注意ください。」
「分かった。感謝する。」
女性職員はギルドカードと羊皮紙をイルミスに手渡す。
「ご利用ありがとうございました。」
イルミスはカードをしまうと手渡された羊皮紙を手にアーム達が座っているテーブルへ向かった。
「イルミスどうだった?何かあったか?」
「あったぞ。」
「何があったの?」
「そうじゃ。もったいぶらないではよ教えるのじゃ。」
「分かったから。ルーツ国から披露宴の招待状が着てる。今日からだと…あと五日後だな。」
「披露宴?」
「なんで私達に披露宴のお知らせなんて来るのよ。」
「新兵器と兵科と書いてあるが。」
「うむ?なぜそんな国の行事に一冒険者の妾たちが呼ばれるのじゃ?」
「これ絶対あれよね。」
「ああ。そうだな。」
「なんじゃ?なんじゃ?」
「飛鳥は知らないわよね。実は―。」
アイリスはルーツ国であったことを話し始めた。
アゼリアの襲撃の事。
教皇の王女暗殺、国家転覆事件。
闇ギルドの関与、国王殺害。
そして王女のアゼリアが即位したこと。
その中でも鈴が大きな影響を与えていた事を話した。
「ふむぅ…。鈴の銃がのぅ。」
「おそらくそのことだろうな。ルーツ国からギルド経由で送られてきた披露宴の招待状だ。今日から出れば一日前には間に合うだろう。断るわけにはいかないからな。」
「そうだな。アラスと鈴が返ってきたらルーツ国に行こう。」
「そうね。」
「ところで歩いていくのかえ?」
「いや、おそらく定期馬車が居るはずだが。」
「それなら探しておこう。」
そう言うとアームは立ち上がりギルドから出て行く。
「頼んだぞ。」
「ああ、任された。」
「それにしてもルーツ国と繋がりがあるとは驚いたのう。」
「そういえば私達の環境が劇的に変わったのは鈴がパーティに入ってからよね。」
「そうだな。鈴が居なければ俺たちは策略に気づけなかったからな。」
「それにルーツ国も結構変わったしね。」
「こう聞いてると、鈴殿は運命の転機だったのかもしれぬな。」
「そうだな。色々変わったしな。」
「私なんて魔法の方向性が百八十度かわったわよ。最初は一般的な炎だったのに今じゃ蒼白よ。」
「妾はまだ変わってないのう。そういえば、リン殿とは一戦交えたがスズ殿とはやってないのう。こんど挑んでみるか。」
「(親があれなら子もそうなるのね…。)」
「楽しみだのぅ。リンと戦った時は限定状態だったからあの勝負は無効じゃな!さっそくあとででも…。」
「飛鳥。ここからルーツ国へ行くためには一部魔物が多い地域を通らなければならない。一応馬車にも魔物よけの魔道具がついてると思うが、強い魔物には効果がないからな。いざって時の体力を残しておけよ。」
「了解じゃ!」
「…鈴じゃないけど、おなか減ったわね。」
「そうじゃな。今になってきたのぅ。」
「俺が何か適当に買ってきてやるからまってろ。」
「あら。ありがとう。」
「ありがたいのぅ。」
そう言うとイルミスは席を立ち、ギルドの外へと出て行った。
その数分後、アームが帰ってきた。
「ん?イルミスは何処に行った?」
「お昼買ってるのじゃ!」
「ああ、そうか。」
「馬車どうだったの?」
「そのことはイルミスが帰ってきてから話そうと思う。」
「そう。わかったわ。」
アームは空いている席に座ると持ち物のチェックを始めた。
「金、食料、防具の破損なし、武器大丈夫。よし、いつでも行けるな。」
「私も大丈夫よ。」
「妾は…ちと食料が少ないのぅ。あとで買い足しておくか。」
「そうだな。四日かかるからある程度食料を買い足しておけ。」
「うむ。ま、途中で街に寄るじゃろう。そこで買えばある程度は大丈夫じゃな」
そこまで話していると、イルミスが戻ってきた。
手にはクラーケンフライの串刺しが四本握られていた。
「もどったぞ。」
「おかえりじゃ。」
「おかえり。」
「俺も戻ったぞ。」
「アームの分も買ってきたから喰っとけ。」
「すまんな。」
イルミスは三人にクラーケンフライの串刺しを手渡す。
「これ食べたこと無いわね。」
「つい最近出来た食べ物だそうだ。クラーケンフライとかいう物らしい。」
ちなみにクラーケンフライの串刺しとはイカフライのことである。
「これもなかなか…生より歯ごたえがあっていいわね。」
「うむ。やはりおいしいのぅ。」
イカには美肌効果もあり、体にいいのはまだ知られていない。
「で、馬車はどうだった?」
「あと二時間ほどで出発だそうだ。魔物よけの魔道具もきちんと馬車に装備されていた。護衛はすでに雇っている。俺たちは馬車でゆっくりできるわけだ。」
「そうだな。…後はアラスと鈴に酒を飲ませなければ大丈夫だ。」
「大丈夫でしょ。本人も反省してた気がするし。」
十分後。
鈴とアラスが帰ってきた。
どことなくアラスがやつれているような気がする。
そして鈴は満面の笑みを浮かべて帰ってきたのだ。
「たっだいまー!」
「…代償はでかかったぜ…」
「何があったか若干察しはつくけど、おかえり。」
「二人が帰ってきたからもう一度話しておこう。これから馬車でルーツ国へ向かう。そこで開かれる披露宴に呼ばれている。」
「披露宴?」
「新兵器と兵科の披露だそうだ。」
「あー。あれですか。もう実用化できるところまで来たのね。」
鈴は思い出したように頷いている。
「ふむふむ…それで招待されたんですね。」
「おそらくそうだ。」
「推薦してくれたのはアゼリアかエルガーさんかパーラさんかな?」
「まぁ、国としては発案者を呼ばないのはまずいんだろう。」
「そうなんですか?」
「国と国同士の威厳があるんだろう。例えば、我が国には新兵器の概念や特殊な技能を持っている人材がいるとかな。それだけでその国の価値観は上がり、同盟もより深いものになる。」
「な~る。」
「それじゃ、そろそろいきましょう。」
「そうじゃな。馬車が満員になる前に行こうぞ。」
「そうだな。行こう。」
イルミス達はギルドから出ると馬車が止まっている中央広場まで歩いて行く。
「あ、ちょっといいかのう。ちと食料が足りぬからそこの露店で買い足したいのじゃ。」
「そうだ。イルミスさん。私も食料がちょっと…だいぶ無いので買い足したいです。」
「わかった。待ってるから買ってこい。」
「よし!飛鳥いこ!」
「うむ!」
二人は露店まで走って行き、商品を選び出した。
「いらっしゃい。冒険者さんならこっちの干し肉はいかか?」
「干し肉かー。五個ください!」
「なんじゃ干し肉食べるのか。それじゃ妾も干し肉三個頂こうかのう。」
「はい。一個二百銅貨で、五個一銀貨、三個六百銅貨です。」
「一銀貨ですね。はいどうぞ。」
「六百銅貨じゃな。」
「はい。たしかに。有難うございましたー。」
鈴と飛鳥は干し肉を袋に詰め込むと、イルミス達の元へ戻っていく。
「買ってきました!途中途中で村や街に寄るんですよね?」
「そうだ。」
「ならこの量で大丈夫ですね。」
「鈴は大食らいだからのぅ。アラス殿。」
「ハハハ…そうだね、飛鳥ちゃん。」
なぜアラスがこのような反応を見せるかというと時間は少し巻き戻る。
食事に出かけた二人は近場にある料亭へ入っていった。
だがそこの料亭は美味いかわりにとても高いと評判の店であった。
「よーし。俺がおごっちゃうぞー。」
「本当ですか!やったー!アラスさんありがとう!」
「いやー、ハハハ!」
「いらっしゃいませ。二名様ですね。こちらのお席にどうぞ。」
アラスと鈴は店員に促されるまま席に座るとメニューを受け取った。
「おお、採れたての刺し身とか焼き魚があるのか!」
「どれでも頼んでもいいぜ。」
「アチの照り焼きって絶対ブリだよね。それじゃこれとご飯と―。」
鈴がメニューを読み上げて行くとともにアラスの表情が崩れ始めた。
「(ってここの店たっけぇ!てか鈴ちゃんどんだけ食べるの!)」
「―でお願いします。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
「はーい!…タダ飯よりうまい飯はない!」
などと鈴は言っておりアラスは顔面蒼白になっていた。
「(これ全部払えるのかな…。)」
そして不安げなアラスを他所に鈴は満足気に運ばれてくる料理を食べていたのだった。
「お会計二十二銀六百銅貨になります。」
「(よ、よかった!足りた!)二十三銀貨でお願いします。」
「はい。お釣りは四百銅貨になります。お確かめください。」
「大丈夫。(七銀貨しか余ってないぜ…。まじめに依頼をやらないと…。)」
っと、言う具合な事があったのだった。
時間は戻り、鈴達が買い物を済ませた時間だ。
一行は中央広場まで歩いて行くと、馬車が数台止まっておりルーツ国行きと声をあげて宣伝していた。
「失礼。六人分の席空いているか?」
「はい。ございます。お乗りになりますか?」
「ルーツ国まで乗るぞ。」
「ルーツ国まででしたらお一人三銀貨になります。」
「三銀貨ですね。はい。」
皆が手渡していく中アラスは残り少ないお金をイルミスに泣く泣く手渡したのであった。
「はい。確かに。一号車は満員なので二号車にお乗りください。」
「わかった。皆行くぞ。」
馬車は幌馬車になっており、リール国に来た時と同系列の馬車であることがわかる。
中に乗り込むと、二人の一般人が乗っていた。
そこに六人が乗ると満席になってしまった。
ちょうどいいタイミングだ。
そして一番後ろには護衛契約の冒険者が馬車に乗っている。
こちらは幌馬車ではなく、屋根がついていない。
「んー!お腹いっぱい食べたら眠くなってきました。」
「護衛も居ることだし、寝たらどうだ?」
「分かりました。おやすみなさい。」
鈴はあっという間に寝付いてしまった。
「…早いな。アラス、お前金あるのか?」
「あれ、バレた?」
「お前のことだから俺がおごってやるぜとか言い出しそうだからな。」
「仰るとおりです。」
「で、いくらだ?」
「残り四銀貨…。」
「ずいぶん少ないな。どれだけ食べたんだ。」
「いや、俺は食べてない。支払いが心配で食えなかった…!」
アラスは料理を食べたかったと言う表情に涙を浮かべ後悔していた。
「あ、でも鈴ちゃんの寝顔見れたからいいや。」
前言撤回、アラスは後悔などしていなかった。
さすがにこれには馬車の中に居たすべての人が引いていた。
それからしばらくすると外からチリンチリンと言う音が聞こえてきた。
御者が座り、馬車が動き始めた。
鈴は動き出した時に生じた慣性により隣に座っていたアイリスに倒れこむ。
「ちょ、まったく。しょうが無いわね。」
「アイリスちゃん!そこ変わって!」
「何言ってるのよ。」
「くっ!」
アラスとアイリスがそんなことをやっていると、同じ馬車に乗っていた男の子が反応した。
背丈から言って五歳か七歳ぐらいだろう。
「おかあさん、あのおにいさんなんでくやしがってるの?」
「えぇ?」
母親は困ったような声を出した。
そこをカバーするように飛鳥が声をかけた。
「良いか?こういう大人になってはいけないぞ?」
「うん!」
「ちょ!飛鳥ちゃんひどい!」
「そうよ。いい?お母さんの言うことは聞くのよ?ここにいるチャラ男みたいになっちゃ駄目よ。」
「わかった!」
「俺の立場が…飛鳥ちゃんとアイリスちゃんが厳しい…。」
「手を胸に当てて考えてみろ。」
「うーん。わからん。」
「お前なぁ…。」
それでも馬車は進んでいき、現在はリール国内の山沿いの道を走っている。
道幅は約三メートル。
ぎりぎり二台の馬車が通れる幅だ。
そんな道を進んで行く。
「んあ。」
「あら、起きたの?」
「うん~。いまどこ~?」
「山よ。」
鈴は小窓代わりの布を持ち上げると外の様子を見た。
「おおおおお!高い!落ちたら死ぬ!」
「そうね。」
「それにしても曇り空になってるね。昼ごろは晴れてたのに。」
"山の天気は変わりやすいって知らなかった?“
『そのぐらいしっとるわ!』