知識をくれと言ったが、使えないものまで入れてくるなよ
宿に戻るとイルミス達の部屋にいた。
「イルミス!お前たちは私が王都まで戻るまで護衛を頼む!」
「…はい?」
「だから!護衛を頼むと言っているのだ!」
「え、は、はい!わかりました。この身を盾にしてでも守り通して見せます。」
「良い心がけだ。」
「では明日出発するぞ。すぐに帰ってこの事をお父様に報告するのだ。」
そう言うと鈴とアイリスを引っ張って部屋へ戻っていってしまった。
「…巻き込まれてしまいましたね。」
「…そうみたいだな。」
「お互い頑張りましょう。」
「おう。お互い頑張ろう。」
「ふむ。見事だったぞ鈴。それに癒の魔法も上手であった。」
「魔法が取り柄ですので…。」
「銃が取り柄ですので…。」
「明日もっと色々な種類の銃を見せるのだ!もっとあるのだろう?」
「ありますけど、見てどうするのです?」
「興味が有るだけだ。」
「わかりました。(夜のうちに知識のチェックしておこう。…そういえば銃火器と爆発物の知識ってどの範囲まで適応されてるのかな?リアル?それともゲームの銃まで?)」
「さてすっかり夕方だな。何もすることがないと暇でしょうが無い。」
「私はちょっと記憶について考えてるのでお二人でお話しててください。」
「思い出すと良いな。で、癒の魔法とは一体どうやっているのだ?」
「癒はちょっと複雑で――。」
鈴は椅子に座り考え始めた。
神に貰った膨大な知識を紐解く。
一瞬めまいがしたが耐えられそうだ。
「(爆発物はダイナマイトから反物質爆弾…はぁ?)」
いきなり現実世界では到底ムリな部類の兵器がでてきたのである。
そもそも反物質とは物質と反対の性質を持ち、物質と触れると対消滅してしまうため確保が非常に難しい物質なのである。
これを閉じ込めるには磁場を形成し閉じ込めるしか無い。
しかしこれは数秒しか閉じ込められていなかったはずだ。
「(うーん。これはどう考えてもゲームの知識が入ってると思える…。もちろん使えるんだろうなぁ。)」
次に銃のバリエーションを見ることにした。
さすがにプラズマライフルなど超科学の産物はないようだ。
「(えっと一番強いのは…レールガン?いや、持ち運び式のレールガンなんて聞いたことが…とりあえず詳細見てみよう。)」
鈴はレールガンについての知識を引き出した。
そこには事細かくレールガンについて書かれていた。
「(アメリカで極秘開発された歩兵用小型レールガン?そんなもの作ってたのか…さすがUSA。えっと、弾数はマガジン一つで一発?マガジンには銃身冷却用液体窒素、発射用超高電圧コンデンサと高出力バッテリー。全長二メートル?でかっ!重さ四二.五キロ…?お、重いぞ。弾丸にはタングステン合金弾を使用。なにこれ怖い。…さすがにトライポッドはついてるか。)」
鈴は先程の反物質爆弾の知識を引き出してみた。
やはり反物質爆弾はゲームからの知識のようだった。
簡単に説明するとこうなる。
半径三十メートルの物質を円形に対消滅させる。
「(絶対に使わない。)」
他にも銃火器や爆発物を見ていくが対人にはオーバーキル気味な武器が多数見受けられた。
「(あの神、VLSとか単体でどう使えっていうのよ…。トマホークやらなんやら、使えないのまで入ってるじゃない…。)」
「鈴難しい顔をしているな。」
「きっと必死に思い出そうとしているのでしょう。」
「(あー!銃の種類が多すぎる!ゲームの武器まで入ってるとか聞いてないし!もういい!ゲームの武器は封印!ついでに核爆弾とか反物質爆弾とか火星破壊爆弾とかも封印!)」
そんなことなかった。
鈴はゲーム系の銃の知識をしまうと現実に存在する武器だけを知識から取り出した。
今のところ最強なのはレールガンである。しかしコンデンサへのチャージ時間が若干掛かるため直ぐに発射とは行かないようだ。
「(小型の魔物にはデザートイーグルで、中型、大型の魔物にはアサルトライフルで十分かな?魔物の硬さがわからないからなぁ…。…ドラゴンとか居ないよね…?)」
ドラゴンはどのゲームにおいても防御力が高く、物理攻撃が通じづらいと言う特性が有った。
鈴はもしかすると銃弾が弾かれるかもと考えていた。
「(まぁ…その時はレールガン先生の出番かなぁ…一応レールガンはそこらの銃とは威力も桁違いだからドラゴンにも通じそうかな。でもRPG7とかAT-4もあるし、そっちがいいかもしれないかなぁ。)」
使える武器だけをリストアップして行くと明らか身体強化されていても使えない武器が一つ有った。
「(GAU-8とかどうやって持ち上げるのよ…それ以前に反動で腕が壊れる…。)」
さすがにGAU-8はリストから外し、現在のリストの状態はこうなった。
ハンドガン
・デザートイーグル .50AE弾
・ベレッタM92F 9mmパラベラム弾
サブマシンガン
・MP5SD3 9mmパラベラム弾
アサルトライフル
・M4カービン 5.56mmNATO弾
スナイパーライフル
・バレットM82A1 12.7mmNATO弾
・M24A3 サプレッサー付き 7.62mm
ハンドガンにはデザートイーグルとベレッタの二丁。
主にベレッタは対人に使う為だ。
サブマシンガンは隠密、狭い通路などの戦闘に備えるため。
M4カービンは中型大型の魔物に対するため。
バレットM82A1はアサルトライフルで貫通出来ない装甲を持つ魔物や長距離射撃に使われる。
M24A3は対人に使われる。
「(M82とか対人に使ったら真っ二つ…。)」
思い浮かべただけで少し吐き気がしてきた。
口元を抑える鈴。
それを見ていた二人は鈴が無理をしているのではないかと心配になってきたのだった。
そんな二人の心配を裏切るかのようにまったく違う事を考えていたのであった。
「(まあ…多少の心配はあるけど、この構成で大丈夫かなぁ…なんとかなる!よし!)」
「少し元気が出たみたいですね。」
「そうだな。記憶はゆっくり思い出せば良いのだ。」
「よし寝る!私は椅子で寝るから二人はベッド使っても良いよ。」
「断る。鈴もベッドにはいるのだ。」
「え?だってベッドは二人用…。」
「アイリスは一人で、私と鈴は一緒に寝るのだ。」
「えぇ!?」
「なんだ?嫌か?」
「嫌ではないですが…。」
「なら早く来い。さっさと寝るのだ。」
「あ、火を消すので待っててください。」
鈴は照明となっているろうそくを吹き消すとベッドへ入っていく。
「明日はよろしく頼むぞ。」
「任せてください。(それにしても狭い…。)」
翌朝、鈴が珍しく早く目を覚ました。
息苦しいのだ。
「ん…んん?」
鈴はアゼリアに抱き枕代わりにされ胸に埋もれていた。
「んー!んー!(ちょ!くるし!これなんて天国…いや!死ぬ死ぬ!)」
「んー。五月蝿いな。少し…黙ってろ…。」
アゼリアの拳が勢い良く鈴の首もとに直撃し、鈴は気を失ったのだった。
「鈴起きなさい。」
「…。」
「…。」
ゴンっと言う音とともに鈴が気を取り戻した。
「あいた!」
「おはよう。」
「おはようございます…何か死にかけてたような…。」
「おお。起きたか、出発の準備をするのだ。もしかすると戻っている途中に襲われるかもしれんからな。」
「?」
「連絡係が既に王都についていた場合、盗賊より強い暗殺者が送られてくるかもしれない。まぁ、鈴の銃があれば避けることも出来ずに死ぬだろうがな。」
「(暗殺者か…大抵漫画とかだと下手に倒すと死ぬ間際に悪あがきをする場合があるからデザートイーグルで確実に殺しきろう…。)」
その後イルミスと兵士達と合流し、ギルドから馬と一頭借りたのだった。
そして先日襲われたところまで行くと怪我をした馬が餌を待ちわびていた。
兵士は馬からサドルを外すと馬車に紐を付け怪我した馬を連れて行くことにした。
その作業を行いながら餌を上げている。
ギルドから借りてきた新しい馬は馬車に取り付けられ、これで馬車を引く事ができそうだ。
「よし!出発だ!…皆が乗るにはちと狭いな…。ええい!男どもは降りろ!降りてあるけ!鈴とアイリスはここに残るがいい。」
馬車の外に追い出された男たちは皆顔を見て頑張ろうと表情で語っていたのだった。
速度を歩き程度に下げた馬車に兵士とイルミスパーティが護衛を行う。
中ではデザートイーグルを片手に待機している鈴といつでも魔法を撃てるように集中しているアイリスの姿があった。
「暇だな…。鈴よ。銃は色々な種類が有るようだが、どのような違いが有るのだ?」
「剣と同じですよ。銃によって貫通力、速度、大きさ、威力、精度が違います。このデザートイーグルはハンドガン…拳銃の中でも最強の威力を誇ります。」
「ほほう。しかし、まだ一回しか見たことがないが、銃が我が国の兵士に採用出来たら世界最強の国になりそうだ!」
「銃は維持が大変ですよ。」
「そうなのか?」
「考えてみてくださいよ。銃弾を作る施設と火薬を量産する施設などなど、銃のメンテナンス、大量の資源を使います。私はその問題はありませんが、実際に使うとなるとこれらの問題が発生します。しかもこれほど精巧に作る技術など無いでしょう?」
「ぐぬぬ…それはそうだが…。」
「火薬さえ発明出来れば火縄銃程度なら作れそうですね。」
「火縄銃とはなんだ?」
「これですね。」
デザートイーグルを握っていない片手で火縄銃を出現させる。
「ほう。これが火縄銃か。」
「引き金を引いたら発射されるので気をつけてください。」
「わかった。…これの構造は簡単だな。城に帰ったらこれを写させてくれないか?城の技術班にこれを作らせてみる。」
「いいですよ。ただ、銃と言うのは一般人でも手に持てば魔物でも殺せます。即ち暗殺に使われる恐れもあります。こうなった場合兵士で固めても意味がありません。分厚い鎧を着ない限り銃弾が体を抉ります。」
「恐ろしいものだ。」
「後火縄銃は雨の日使えませんよ。」
「?どうしてだ?」
「火薬が雨で湿ってしまうからです。火薬は湿気が大敵なんです。」
「そうなのか…。まず火薬作りからだな。」
「そうですね。火縄銃は銃口から火薬を入れて鉛球を入れてから棒か何かで奥まで押し込みます。その後ここに火薬を盛りつけてこの縄に火を付けます。その後狙いを定めて火蓋を開けて引き金を―――」
パァンっという音と共に銃弾が発射され馬車の布部分に穴を開けた。
アイリスはその音に驚き集中が途切れてしまった。
「ひゃい!?」
「ひい!?」
「うわあ!」
「どわあ!」
「姫様!何事ですか!」
「今のはなんだ!」
兵士やイルミス達が一斉に馬車へ詰めかけてきた。
そこには驚いて腰を抜かしつつ煙を吹かしている火縄銃を持つアゼリアとそれに驚き固まっているアイリスと引き金を引くとは思わず驚いている鈴の姿があった。
手綱を握っていた兵士も驚き更には馬まで驚いていてしまったため馬車が若干揺れていた。
「…何時まで見ている!散れ!」
そう言われると兵士とイルミス達は持ち場に戻っていった。
「あーびっくりした。アゼリア様が引き金を引くから。」
「す、すまん。どんなものか使ってみたくなってな。」
「びっびっくりしました。集中集中…。」
「結構腕に来るな。肩痛いぞ。」
「そういうものですからね。」
馬が落ち着くと再び一行は歩き出した。
馬車の中では火縄銃のリロードについて実演が行われていた。
アゼリアはそれを一動作も逃さぬようにガン見していた。
「これでリロードは完了です。」
「ほう。これでまた撃てるのか。」
「はい。でも先程みたいな事になるので撃っては駄目ですよ。」
「分かっている。しかし、不便なものだな…鈴の銃みたいに連射が出来ない。」
「数百年前の武器ですからね、それはしょうが無いです。」
「これが数百年前の武器だと…?私達も負けては居られない!やはり城に帰ったら技術班に直ぐに火薬とこれの作成をやらせよう。しかし火薬は一体どうやって出来てるのだ…。これが出来たら戦闘に革命が起きるぞ…!」
「アゼリア様って意外と色々な事に目を向けているんだね。」
「む、それは当たり前だ。上に立つものとして一点だけを見ていては駄目なのだ。常にあらゆる所に目をつけ知識をつける。それが上に立つものとしての責任なのだ。」
「ふむふむ。アゼリア様はいい王女様になりそうだ――」
「敵襲!」
「ルーツ姫!馬車から絶対に出ないでください!」
「わかったぞ。」
そう言うと手綱を握っていた兵士が剣を抜き降りていった。
レールガンの重さを調整