ビーチフラッグス
イルミス達も海に入り、五人はビーチボールで楽しんでいた。
「イルミスいくよ!バーニング!シュート!」
「甘いぞ。と、言うか何だその名前は。」
イルミスに軽く流される。
流されたボールはアイリスの元へと飛んで行く。
「それ。」
アイリスは普通にビーチボールをトスする。
「妾じゃな…アーム殿覚悟!」
「ん?」
「全力全開じゃ!」
「そういう遊びじゃないだろ!?」
「食らうのじゃ!」
飛鳥からとんでもない速度のスマッシュが放たれる。
「ぐはっ。」
直撃したアームはその場でひっくり返る。
ざばんっと水しぶきを上げて盛大に倒れる。
ビーチボールは跳ね返り鈴の元へと戻っていく。
「アーム撃沈!」
「撃沈じゃな。」
「ぶは!海水少し飲んだな…。」
「よし…次は…。」
鈴はアイコンタクトで飛鳥と意思の疎通をはかり、狙う相手を決めた。
「いくよー!」
鈴は飛鳥にビーチボールをふんわりと投げると、飛鳥はアイリスの方向に体を捻り全力でビーチボールをスマッシュする。
「そい!」
「甘い。」
アイリスはこれまた魔力で強化された腕でビーチボールを弾く。
これでもかと言う威力になったビーチボールは浜辺へと飛んで行く。
空気抵抗で減速するだろうが、それは近くにいる人へと飛来する。
「あ。」
ビーチボールの行き先を見ていた五人はその先に居た人物を見て口から声が漏れた。
「へい彼女!俺と一緒に遊ばない?」
「え?私友達待ってるので…。」
「じゃ、その友達も一緒に遊ぼうぜ?」
「で、でも、そういうの困ります!」
「いいじゃんいいじゃん。せっかくの海だぜ!海みたいに大きな心を持って行こうじゃないか!」
「友達がなんていうか…。」
「大丈夫さ。俺が説得してやる。俺に任せろ。」
「け、結構です!ごめんなさ――あ。」
「ん?」
女性が自分の後ろを見ていることに気がついて振り向こうとした時だった。
「ぶべえぇ!?」
必殺の威力まで加速したビーチボールがアラスの横顔にクリーンヒットした。
その不意の一撃にアラスは体勢を崩し、倒れた。
「お待たせー!待ったー?」
「ううん。大丈夫。」
「で、こいつだれ?」
「ナンパ男さんだよ。」
「放っておきなさい。きっと下心持って近づいてきたんだよ。あんた体格いいんだから!」
「ちょっと変なところさわらないでー!」
そんな会話をしながら女性二人は離れていった。
「ちくしょう…一体何なんだ…。」
アラスは起き上がると地面に転がっているビーチボールを手に取る。
「なんだこれ?…こういうのは大抵リンちゃんが出したもの…!すなわちこれが飛んできた方向は!」
アラスは海にクワッっと視線を向ける。
そこにはこちらに視線を向けている集団が居た。
アラスが視線を向けると同時にその集団は目をそらしたのだ。
「イルミスー!てめぇなんてことしてくれとんじゃあああ!」
「違う!俺じゃないぞ!アイリスが弾いたんだ。」
「はて。なんのことかしら。」
「そうじゃのぅ。」
「そうだね。」
『と、言うかあのビーチボール頑丈すぎない?』
"かなり丈夫に創造したよ。それはもう、私の全力に耐えれるくらい。"
『だからあんなに乱暴に扱っても割れないのね…。』
「アーム。お前は見てたよな。」
「……ああ?なんだって?」
アームには女性陣からの鋭い視線が突き刺さり、とても見ていたといえない雰囲気だった。
「お前もか…。」
「ねぇねぇ、そんなことよりアラスさんも遊ぼうよ!」
「よしきた!」
「今のは良いのか…。」
アラスも輪に混ざると鈴からビーチボールの遊び方を教わる。
「なるほどな。こうするのか!」
「甘い。アラスにやられるほど俺は鈍っちゃいないぞ。」
「チッ。さっきの復讐果たせず。」
「だから、俺じゃないと…。」
イルミスはビーチボールを弾くと、ビーチボールは飛鳥の元へと飛んで行く。
「それ。」
それをアラスへともう一度回す。
「こうなったら…!鈴ちゃん!俺の愛を受け取ってくれええええ!」
そう言いながらアラスは思いっきりビーチボールを鈴に向けて叩いた。
『リン。』
"はいよー"
人格が入れ替わるとビーチボールを遊撃しに入る。
「お断り。返すよ。」
リンは全力でビーチボールを叩くとアラスへと戻っていく。
ビーチボールはリンの言ったとおりリンの全力でも壊れない謎物質で構成されている。
しかし手触りはビニールなので大したダメージにはならないはずなのだ。
「そ、そんな―ぶふうう」
しかし、近距離でとんでもない速度で飛んでくるビーチボールは必殺の威力を持っていた。
「アラスが沈んだぞ。」
「良かったじゃない。イルミス。」
「これで頭を冷やしてほしいものだ。」
「ふっかあああああつ!鈴ちゃんが駄目ならアイリスちゃんだ!うおおおおお!」
その後、アイリス、飛鳥に全力でビーチボールをぶつけられ、いつの間にか五体一になって的当てになっていたのだった。
「つ、疲れたぜ…」
「次はビーチフラッグス!やってみたかったんだよね!」
「ビーチフラッグス?」
「教えてあげよう!ビーチフラッグスとは走力と反射神経を鍛えるスポーツで旗を二十メート離れた場所に立てて顔を旗と反対側に向けるの。そしたら合図と共に立てた旗を取りに行くの!」
「だが人が居るからそんなに場所は取れないぞ?」
「それなら巻き込めばいいのよ!」
『リン!拡声器!』
"私は何でも屋じゃないんだけど…。"
『ビーチフラッグス、リンなら行けるでしょ?』
"勝ちに行くのね…なら頑張ろうかな。"
手元に拡声器を創造するとそれをアラスに手渡す。
「なんじゃこりゃ?」
「拡声器っていう道具。それで周りの人に呼びかけて。使い方はここに向かってしゃべるだけ。」
「どれどれ。あーあ!?声でけえ!」
キーンっと高い音が発生し、周りの視線がこちらに釘付けになる。
「よし今!アラス喋って!」
「何を?」
「いい?……。」
「……分かった。俺にまかせろー!」
「あーあー。浜辺に居る紳士淑女の皆様。これからビーチフラッグスと言うスポーツを行いたいと思います。瞬発力に自身がある方、反射神経に自身がある方、興味がある方を募集しています。ぜひ参加してください。…でいいのかい?」
「大丈夫。」
しばらくすると珍しがって人が集まりだした。
拡声器を使ったため通りまで声が届き、人々が浜辺を覗いている。
「はーい。参加する人はこちらにいらしてくださーい!」
それなりに体格のいい男性や所々に女性が興味がてらに混じって列に並んでいる。
鈴は参加すべく、整理をアラスに任せ自分も並んでいる。
「締め切るぞー。じゃぁ、第一回ビーチフラッグスを始めるぜ!」
「うおおおお!」
「キャー。」
参加する人々から声が上がり、会場が浜辺にステージが出来上がっている。
アラスには予めルールの説明をしてあるので鈴はフラッグを創造してそれを取ればいいだけだ。
加護の都合上フラッグは二個までしか出せないため一回戦は四人になる。
「ルールは簡単だ。一番早くあそこにあるフラッグを取った人の勝ちだ!準備はフラッグから二十メートル手前のラインにフラッグとは反対側を向いて仰向けで寝っ転がるだけだ!試合開始の合図は言わずもがな俺の”ドン”の合図だ!では一組目よろしく!あ、あと、怪我しない程度になら妨害いいぜ。」
その言葉と同時に一組目の出場者がニヤついた。
「はい。一回戦始めるぜ。」
「……。(水よ。彼の者を縛れ)」
「……。(風よ。暴風となり彼の者を吹きとばせ)」
「ふん!(妨害などしなくても俺が一番だぜ!この筋肉!)」
「何か心配…。」
「よーい…ドン!」
「ウォーターバインド!」
「ウィンドバースト!」
「ぬわああああああ!」
「やっぱりー!」
始まった瞬間サイドに居た魔法使いが魔法を発動させ中央二人が魔法の被害を受けた。
筋肉男は暴風が吹き荒れ、海へ吹き飛ばされた。
そしてひ弱そうな女性は水の鎖により拘束される。
「旗は私のよおおお!」
「いや、俺だあああ!」
「うおおおおおお!!」
普段は後衛の魔法使い二人が何故か同じ旗めがけて走って行く。
二人して雄叫びを上げながら。
「よっしゃ!とっ―」
「ウィンドバアアアストオオオ!」
「なんじゃあああそりゃああああぁぁぁぁ!」
「獲った!私の勝ち!」
「あ、水の拘束が解けた…旗取りに行こう…。」
魔法使いの男が吹き飛ばされたことで、参加者の一人の水の拘束が解け旗を駆け足で取りに行く。
「ふふ。最後の最後で油断するとは情けない男ね。」
「よいしょ。旗ゲット。」
「旗を手に入れた人は旗を元の位置に戻して勝ち組のエリアに行ってくれ!次の参加者、用意だ!」
一番手の選手達が退場すると二番手の選手四人が入ってきた。
全員筋肉モリモリの見るからに脳筋の男達だ。
「俺が!」
「いや俺が!」
「いやいや俺が!」
「いやいやいや俺が!」
「俺が勝つ!!」
脳筋四人衆が同時に勝利宣言を掲げる。
「(暑苦しいな…)それじゃ、よーい…ドン!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」
筋肉がぶつかり合いながら四人は雄叫びを上げている。
「(うわ…。)」
筋肉モリモリの男たちが互いに体をぶつけながら砂浜の二十メートルを疾走している。
「なんかこれは…。」
「これは無いのぅ…。」
「さすがにむさいわ。」
その後試合は進み、鈴の出番がやって来た。
「(ふふふ…加護に酔って強化された俊敏性、反射神経を活かす時が来たのだ!)」
"せこい"
『ふはははは!なんどでもいうがいい!ふははははは!』
「それじゃ位置について…よーい…ドン!」
「しゃ!いくぞこらあああ!」
「アースバインド!」
「砂が砂岩に!?ペルソナアア」
"いけリン!そんな魔法ぶち破って一気にいきなさい!"
『はいよー。』
リンは足に力を込めると、魔法の拘束を無理やり解除し、硬くなった地面を強く蹴った。
弾丸のように飛び出したリンは唖然とした参加者を追い抜かすと旗を一本獲った。
「よし。」
その後一秒差で三人が旗に群がり決着がついたのだった。
目の前で見ていたアイリスと飛鳥は鈴がめちゃくちゃな事をしていることに気がついている。
いや、アイリスや飛鳥だけではない。
魔法が扱える人間は皆わかっているだろう。
生身の人間が拘束を目的とした魔法をいともたやすく破壊したことを。
「ねえ?あの子今拘束魔法破壊したよね?」
「ああ。間違いない。アレはAランク…パワー系ならわかるが…。」
「でもあの子普通の子に見えるし、そんな冒険者がいれば言わずと知れるはず…。」
自分のことを言われてるとも知らずに鈴は元気に楽しんでいた。
『ふふふ…我らに不可能はないのだー!ふははははは!』
"スズテンション高いね。"
『だってこんなに楽しいことだよ!これが楽しまずには居られないよ!』
"そっか。"
「はいはい、次の試合に出場する参加者はステージへ~。」
試合は進み、勝ち残った人たちも少なくなっている。
筋肉モリモリの男たちは途中で魔法の妨害で脱落している。
勝ち残りメンバーは魔法使いが大半だ。
しかし、魔法使い達は集まり何か話しているようだ。
魔法使いの視線の先には鈴がいる。
「さっきの見たよね?」
「うんうん。見た見た!」
「…見たよ。」
「あの子の身体能力は普通の人間の比じゃない。たかだか一回程度拘束してもすぐに解除されるのが落ちよ。」
「それじゃーどうする?」
「…三人同時に魔法を発動させる。ただし使う属性は土だけ。」
「そう。使える属性は土だけなの。水と風では拘束力が低いし、土は水と風に削られるからね。」
「それじゃ三人で土の拘束魔法を重ねがけすれば…!」
「…いけるかもしれない。」
「よし。それでいこう!」
そんなことを知らない鈴は自分の出番を待っていた。
『また何かあったらリンよろしく。』
"あいあいさー。"
さり気なく保険を掛けるスズであった。
「さて次のステージだ!参加者はステージへ入ってくれ!」
「よーしがんばるぞー!」
「いい?作戦通りにやるのよ。」
「わかってるって。」
「…うん。」
「その後は敵同士だからね!」
「望むところ!」
「…覚悟。」
「よし。では準備してくれ。」
四人は砂浜に仰向けになると開始の合図を待つ。
魔法使い三人は小声で詠唱を始めていた。
「……(土よ。その大地の大いなる力を持って彼の者を拘束せよ。)」
「よーい…。」
「勝つのは私…フフフ。」
「ドン!」
「アースバインド!」
三人の魔法使いは鈴に対してアースバインドを同時に発動させた。
「は?」
スズはすぐにリンと入れ替わると体に巻き付こうとした土を破壊する。
しかしすぐに重ねがけされた魔法がリンの手足を絡みとる。そして最後の魔法が鈴全体を覆い尽くす。
「やったわ!」
「やったね!」
「…やった。」
三人は未だにスタート地点におり、これから三人で勝負を始めようとしていた。
しかし三人は致命的なミスを犯していた。
リンの力を知らないということだ。
拘束した瞬間に走りだせばまだ勝機があったかもしれない。
鈴を拘束したのも束の間のことだ。
砂岩の砕ける音とともに鈴が飛び出してきたのだ。
"リン行け!"
『りょーかい。』
三人は驚いたがすぐに走りだした。
「なんで!閉じ込めたのに!」
「<土よ。その大地の大いなる力を持って彼の者を拘束せよ。アースバインド!>」
走りながら一人が大急ぎで魔法を発動させ鈴を拘束しようとしたが、リンはそれを手で跳ね飛ばし旗へと向かう。
「…負けた…でも私が旗をもらう。」
「あ!ずるい!魔法の詠唱中に!」
一人は魔法を詠唱したため走る早さが遅くなった所を抜かされ、はじめから一人を抜かしていたため実質の二位だったのだ。
この試合は作戦の甲斐なく、鈴の圧勝であった。
「さあ!最終ステージだ!二人はステージに入ってくれ!」
「負けないよ!」
「…負ける気しかしない。」
「よし!入ったな!旗は一本!先に獲った方の勝ちだ!それじゃあ準備してくれ!」
旗は二十メートル先に一本。
先に獲った方の勝ちだ。
相手の参加者はなにやらブツブツと唱えているが、あまりいい表情ではない。
「……(…どうせ負けるならアレやって負けよう…土よ。その大地の大いなる力を持って、水よ。その膨大な水量を持って、彼の者を拘束せよ、彼の者を押し潰せ、我この身に二つの魔力を宿すもの、混沌となりて具現化せよ。)」
「位置について…よーい!ドン!」
「優勝は貰ったあああ!」
「二重詠唱合体マッディプレスバインド!」
「何!?」
辺りの魔法使いが同時に騒ぎ出す。
「え?何?」
鈴は突然の事でスタートが出遅れた。
鈴の手足に泥で出来た鎖が鈴に巻き付く。
スズがリンが代わり鎖を引きちぎろうとするが思いの外固く、一秒ほど出遅れてしまった。
"リン行け!"
『あいあいさー。』
リンは更に強い力を出すと魔法の鎖を引きちぎると同時に走りだす。
「…早い。それに体が痛い…。あと少し…。」
その女性が旗に手を伸ばす。
が、その下からリンが飛び出してくる。
「ザンネンだね。」
「…やっぱり。」
リンはそのまま旗を掴むとズサーっと砂浜を滑った。
「よしゃあああ!勝ったアア!」