異世界の人間は思ったよりも頑丈のようだ。
鈴は皆と移動した道を思い出しながら街中を移動していた。
アイリスは鈴が道案内を頼まれた故道を迷った時意外は声を出さないことにしている。
時間は少し掛かったがギルド宿舎へ到着した。
「おお!ここが宿舎か!高い身分であるもの故、低い者の暮らしを知らなければならん。これはいい機会だ。」
「(ここギルドの宿舎だから違うと思うんだよなぁ…。どこかずれてるというか…。)」
宿舎へ入り、自分たちの部屋へと案内をする。
中に入った所でルーツ姫が声をかけてきた。
「ところで…。」
ルーツ姫は鈴の事を見てきた。
「はい?」
「先ほどの武器はなんだ?あんな武器見たことも聞いたこともないぞ。」
「ああ、銃の事ですね。」
「銃?銃とはなんだ?」
「これです。」
そう言うと鈴は手元にグロッグ17を出現させた。
お姫様は光が集まるのを見ると目を細めた。
光が消えると黒い物体が鈴の手の上に乗せられていた。
「ぬお!?どうなってるんだ!?なにもないところから何かが黒い物が出てきたぞ!…触らせてもらってもいいか?」
「いいですよ。」
鈴は渡すときにマガジンを抜き、初弾をきちんと抜くとルーツ姫に手渡した。
「この素材はなんだ…?石でもない、金属でもない羊皮紙でもない…む、ここは金属が使われているのか、しかしこのように細かい細工は…。」
「ルーツ姫。」
「私の名前はアゼリア・ルーツだ。アゼリアと呼んでくれて構わないぞ。」
「じゃあ…アゼリア様。」
「様は要らない。」
「でもそうしないと多分隣の兵士が…」
「…皆の前では様をつければいい。」
「わかりました。」
「で?なんなのだ?」
「そうでした。このフレームはプラスチックと言うもので出来ています。」
「なんだ?そのプラスチックとやらは。」
「プラスチックは元々数億年もの前の生き物の死骸が地面の中で積もり、液体化した物を精錬し、加工したものです。」
「なんと、これは死んだ生き物の体で出来ているのか?」
「原点をたどればそうですけどね。」
「で、これでどうやって敵を倒したのだ?」
「これで相手を撃ちぬくんです。」
そう言うと銃に装填されていた9mmパラベラム弾を見せた。
「なんだ子の小さい物は。鉄…なのか?」
「アルミですね。」
「なんだ?そのアルミというのは。」
「アルミニウムのことなんですけど、詳しいことはわからないので…。」
「自分の使っている武器のこともわからないのか?」
「武器はわかるんですが、部品の原材料はわからないですね。」
「まあよい。この小さい物が銃から発射されるということだな?」
「そうですね。」
「なぜ発射される?魔法でも使っているのか?」
「いえ、ガンパウダー、火薬といいます。火薬は雷管によって起爆されそのエネルギーを使用して弾丸を飛ばします。」
「魔法を使わずにあれだけの敵を倒す兵器か…。しかし火薬とはなんだ?」
「あれ?無いのですか?」
「うむ。少なくとも交易先からも国内からもそのような物は聞いたことがない。」
「火薬の作り方とか詳しい事は知らないのですが、熱や衝撃を与えると一気に燃え上がるんですよね。」
「ふむ…。ならば魔法を火薬代わりにして筒の中に金属球でも入れて爆発させれば敵を攻撃できるんじゃないか?」
アゼリアはアイリスの方を見てそう言った。
「それは二度手間になります。素直に的に向かって爆発魔法を撃ち込んだほうが早いです。」
「そうか…やはり火薬が必要なんだな。」
「アゼリアが今言ったのは大砲と言う兵器です。」
「大砲?投石器ではないのか?」
「大砲も同じ原理で中にある砲弾を飛ばします。銃と違うのは威力…玉がでかいので威力が高いと言う点ですね。」
「ほう。いい話を聞いた。今後の参考にさせてもらおう。」
そう言うとアゼリアは鈴に銃を返した。
受け取った銃は直ぐに消すと、またしてもアゼリアが目を細めていた。
「鈴のそれは一体なんなのだ。」
「能力とだけ。」
「ふむ。わからん。」
その時扉がノックされた。
「イルミスです。」
「入れ。」
「失礼します。」
「どうしたんだ?」
「盗賊のアジトへ突入した冒険者達が帰って来ました。」
「そうか。盗賊どもは皆殺したのか?」
「いえ、何名か捉え情報を聴きだしたところ連絡係が逃げたと言っていました。」
「そうか…わかった。」
「今後も狙われる可能性も有るためお気をつけください。」
「わかったぞ。」
「失礼しました。」
そう言うとイルミスは部屋から出て行った。
「恐らく教皇派にも伝わるであろう…。ククク。アヤツの悔しがる顔が目に浮かぶわ!」
アハハハハと笑っているアゼリア。
「あー、笑わせてくれるわ。帰ったら挨拶に行こう。」
「(性格悪ッ!)」
「鈴?今何か思わなかったか?」
「いえ、何も。」
「そうか。」
「(アゼリア…侮れない子!)」
「それはそうと、夕食を兼ねて何か食べに行かない?馬車が襲われて食料そのままにしてあるんだ。」
「いいですよ。兵士の皆さんも呼んできますね。」
「駄目だ。」
「えっ?」
「あいつらがいると堅苦しい。アイリス、ちょっと廊下をみてくれないか?」
「いいですよ。」
アイリスが扉を開けろうかを見ると壁際に兵士が立っているのが目に入った。
そっとドアを閉めると今見たことを伝えた。
「やはりな。下手に出ようとすれば直ぐに捕まってしまう。」
「ではどうしましょう。」
「窓だ!窓から出るのだ!幸いな事にここは一階だ、出れないことはない!」
「そ、そうですね(アゼリアって女の子っていうか男の子っぽい。)」
「いくぞ!鈴!アイリス!」
「わかりました。」
「了解です。」
アゼリアを先頭に窓から順番に外に出て行く。
やがて部屋が静かになったことに疑問を抱いた見張りの兵士は部屋を除くと窓が開け放たれ、もぬけの殻になった部屋を見た。
「ひ、姫さまああああああああああああ!」
「今何か感じたけど勘違いだな。さてどこか美味しい店は…お?」
辺りを見渡して居たアゼリアは路地に一見の店の暖簾を見つけた。
アゼリアは路地に入って行くと店の前にたつ。
そこは人通りもなく、静まり返っていた。
「ここにする!」
「え?」
「ここ営業してるの?」
「入ってみよう!」
「あ、ちょっと!」
鈴が止めようとしたが遅かった。
アゼリアは店のドアに手を掛けると勢い良くドアを開けたのだった。
「失礼する!」
中に入ると綺麗に掃除がされている厨房にテーブルと椅子が置いてある。
「ん?いらっしゃい。」
アゼリアに続き鈴、アイリスと店に入る。
「ほう、これはたまげた。若い女の子が三人も来てくれるなんて明日は槍でもふるのかな。」
「それは困るな。注文いいか?」
「テーブルの上にある羊皮紙をみてくれ。」
「ふむ。ん…このチャーハンと言うものはなんだ?」
「肉やネギを米に混ぜて作る料理だよ。この国では珍しいかな?米は外来品だからね。」
「ふむ。ではそれにしよう。鈴とアイリスも何か選べ、お代は私が払おう。」
「え!自分で払いますよ!ええっと、とりあえず私もチャーハンで(異世界まで来て食べるのがチャーハンって…。)」
「珍しいから私もチャーハン。」
「あいよ。せっかく珍しいお客さんが来てくれたことだしサービスして大盛りにしてあげよう!」
「よっ!大将!」
アゼリアがそう叫んだ。
「(ええ!?)」
しばらくすると厨房からいい匂いが漂ってきた。
「んんー。いい匂いだ。」
「米と言うものも美味しそう。」
「お米は何にでも合う食材だよ!」
「ん?鈴、お前は米を知っているのか?」
「え?あ、あれ?なんでだろう。なんで知ってる…。(ボロが出たああああ!だ、だけどバレてない!)」
「鈴は記憶喪失なんです。」
「そ、そうなんですよ。時々思い出すことが有るんだけど、それ以外はまったくわからなくて…。」
「そうか。苦労してたんだな…。」
そう言うとアゼリアが肩を叩いた。
「あ、ありがとうございます…。(罪悪感が最高潮に…。)」
「しかし…記憶が無いのにあの推理や銃の扱い、あの動き、とても記憶が無いものが行えるとは思えない。しかし実際に出来てしまっているから凄いのだよな。」
「記憶は無くても体が覚えていると言う言葉もありますから。」
「そうですよ…多分。」
厨房からは炒める音が聞こえてくる。
そろそろ出来上がりそうだ。
「んふふ、チャーハンとやらが楽しみだ。」
「もしかしてアゼリアってグルメ?」
「グルメではないぞ!ただ食べまわるのが好きなんだ。」
「それをグルメと…。」
そこへ店主が戻ってきた。
「はい、お待ちどう様。チャーハン三人前だよ。」
「おお、この丸く持ってあるのがチャーハンか!このスプーンで食べるのか?」
「おう、スプーンで掬って食べてくれ。」
「おおう小さい粒がパラパラと…お、美味しいぞ!」
「だろ?こんな辺鄙な場所に店を立てたのが間違いだったな。」
「そうだ。もっと大通りに店を出してもいい味だ。」
「そうなんだけど、表通りは高いからねぇ…。」
「そうか。隠れた名店なんだな。」
アゼリアは食べながら頷いている。
「…うん。帰ったら料理長にでも作らせよう。」
「ん?君は貴族か何かなのか?」
「私はルーツ国王女アゼリア・ルーツだが。」
「これはたまげた!お姫様がうちに食べに来てくれるなんて!」
「たまたまだ。街の中を見渡していたら路地に店が見えたからな。」
「今日は本当に運が良い日だ。」
「うむ。私もこのような美味しい料理を食べれて満足だ。」
「さて、いくらだ?」
「いや、料金は要らないよ。」
「いやしかし。」
「お姫様からお金をもらうなど…それに珍しいお客だしね」
「そういうことにしておこう…次来た時は払うからな!」
「ははは。次も来られるのですか、それではお店をキレイにして待ってなくては。」
「アゼリア、そろそろ帰らないと兵士が大変なことになっちゃうと思うよ?」
「すでに遅い。」
アイリスがそう言うと店の外、大通りの方からアゼリアを呼ぶ兵士の大声が聞こえてきた。
「あちゃー。バレたか。」
「そりゃあばれるでしょ。」
「それじゃ、今日はありがとうございました。」
「おう、また来てくれ。」
そう言うと三人は店からでた。
大通りでは騒いでいる兵士がいる。
アゼリアは叫んでいる兵士に軽く叩く。
「五月蝿いぞ!近所迷惑を考えろ。」
「姫様!何処に行って居られたのですか!心配したのですよ!」
「なに、夕食も兼ねた食事に…。」
「そ、れ、な、ら!私どもを何故同行させてくれないのです!何か有ったらどうするのですか!」
「ぶっちゃけ、お前たちより鈴のほうが強いし。」
「…。」
「どうした?」
「その鈴殿というのはどこにいらっしゃるので?」
「ほらそこに居るだろう。黒髪の方だ。」
兵士は鈴の前まで歩いて行くと、目の前で止まった。
鈴はいきなり迫ってきた兵士にびっくりしていた。
「な、なんでしょうか。」
「貴方が鈴殿か。」
「そ、そうですけど、何か?」
「決闘を申し込む。」
「はい?」
「決闘を申し込むといったのだ!」
「は?アゼリア様、決闘ってなんですか?」
「どうやら兵士の魂に火がついてしまったようだな。決闘と言うのは何方がか降参するか死ぬまで続ける戦いのことだ。」
「え?いやいや。冗談じゃないですよ!」
「逃げるのか!」
「む!その誰が逃げるって!」
「(鈴って挑発に乗りやすい?)」
「面白そうではないか!いいぞ、私が立会人になってやろう!」
大通りは二人の決闘騒ぎで野次馬が集まってきている。
どうやらここで決闘をするしかないようだ。
ここでふっと鈴は思い出した。
「あ…(非殺傷用の銃って無くね?いや、テーザーとかゴム弾が…でも鎧でテーザー刺さらないし、ゴム弾は鎧で弾かれるし。ならここは…。)」
「では始めようか!」
「ちょっとまった!」
「どうした鈴?」
「銃の説明したでしょ?このままじゃどうなるかわかるよね?」
「…そうだな、ではどうする?」
「非殺傷の銃弾や銃があります。しかし、鎧を着てるとそれは弾かれてしまので必然的に実弾を使うことになります。だから鎧を脱いでほしいと提案します!」
「だ、そうだ。鎧を脱いで安全に決闘したいなら鎧を脱げ。死にたいなら脱がなくてもいい。」
「子供相手に殺し合いはしない。しかもここは街の真ん中。姫様私は鎧を脱がせてもらいます。」
「…ニヤ。」
「(なんだろう、鈴から黒いオーラがでてる。)」
「(ゴム弾は近距離で撃ちこめばボクサーのパンチ以上のダメージを与えられる。でもここにはアイリスがいる。ならガン=カタのアシストでゴム弾を…この勝負貰ったね!)」
「では準備は良いか!」
「おっけー。」
「いつでも大丈夫です。」
「では始め!」
「こい!二丁ベレッタM92Fゴム弾!」
鈴の両手にベレッタが出現する。
迫り来る刃をアシストにより銃のフレームを使い最小限の衝撃で受け流すと片手を前に突き出すと同時に引き金を引いた。
ゴム弾が放たれ、空気抵抗によって弾頭が割れ、十字型に展開する。
兵士の胸にゴム弾が当たるが顔を歪ませた程度でまだ決闘は続けるようだ。
鈴はバク転をし、距離を離す。
バク転中も相手に狙いを定め引き金を引いていく。
兵士は高速で飛来するゴム弾を撃ち落とすことは当然無理であり、体中にゴム弾を受ける。
「グッ…。」
地面に着地すると同時にリロードを始める。
それを好機と兵士がこちらに走ってくる。
片方のリロードが完了していたため剣を受け流し相手の脇を飛び込むように通り過ぎる。
前転し、勢い良く起き上がるともう片方の銃のリロードを完了させる。
「そろそろフィニッシュかな?」
「まだまだだ!」
兵士は剣をふるい迫ってくるが鈴は銃の底で剣を抑えると銃身で剣を薙ぎ払い体術を行うかのように拳銃をふるって行く。
足、腕と集中的に狙っていく。
兵士は腕にゴム弾を受けた衝撃により剣を落とし、足を撃たれた事により体勢を崩した。
そこに鈴の蹴りが入る。
身体強化されている鈴の蹴りは鍛えている成人男性と同じかそれ以上の威力を出すことができる。
兵士は蹴られ仰向けで倒れこむ。
銃撃を受けた皮膚は内出血や痣を起こし、青紫色や赤くなっている。
「勝者鈴!」
野次馬から歓声が上がる鈴は直ぐにアイリスを呼ぶと兵士の回復を任せた。
「どう?治りそう?」
「この程度余裕。…もし実弾だったら死んでた。」
「銃は元々戦争で使われるものだからね。非殺傷用が少ないんだ。」
「何時までねている!」
アゼリアは治療中の兵士に蹴りを入れた。
それには野次馬も含む鈴達も驚いた。
「…すみません。姫様。」
「良い。これでわかっただろう?鈴は強い。手加減をしなかったら最初に剣を流された時点でお前は死んでいた。」
「…そうですね。あの時のは私も見ていました。非殺傷用でなければ私は胸を射抜かれていたでしょう。」
「わかればいい。そうだ、私が王都に帰るまで鈴達も一緒に護衛してくれ!」
「え?」
「なんですと?」
「だから護衛してくれといったんだ。」
「でもリーダーの了解がないと。」
「ええい!私が来いと言っているんだから来るのだ!」
「(ご、強引な…。)とりあえずギルド宿舎に戻りましょう。イルミスさんも居るでしょうし。」
「そうだ。リーダーに言わないと。」
「ではそうしようではないか。ほらさっさと鎧を着て行くぞ。」
「少々お待ちを。」
兵士が鎧を来ているのを待っている中、鈴は両手に持っていたベレッタを消していた。
野次馬からは武器は何処に消えたなどと聞こえてきているが気にしないことにしていたのだった。
この手の質問は聞き飽きたのである。