これは…ラッキースケベ! 正明:ん?なにそれ美味しいの?
「ん…?ああ、寝てしまったか。時間は覚えてる時間からして二時間ほどか。」
アスタークはベッドから起き上がる。
「風呂でも入るか。」
アスタークはリビングにでると、母に声をかけた。
「母さん風呂沸いてる?」
「沸いてるわよー」
「りょーかい。」
アスタークは部屋に着替えを取りに戻る。
しかし、母はなにか思い出そうとしていた。
「うーん?なんだっけ?何か忘れてるような…。」
「よし、着替えも持ったし風呂入ろう。」
アスタークはリビングを通り、脱衣所がある扉を開けた。
「ん?」
「え?」
「あ!思い出した!」
三人の声がちょうど一つに重なったのだ。
「ちょ、あんた何してんのよ!扉閉めなさいよ!」
「ああ、悪かった。許せ。」
「正明ー今舞がお風呂入ってるから―って遅かったみたい。」
「母さん扉開けたら舞が着替えてたよ。」
「いいから早くしめろー!」
「そうだったな。」
アスタークは何事も無かったかのような振る舞いで扉を閉めた。
「母さん、舞が入ってるなら教えてくれよ。」
「いや~。忘れてた!許して!」
「まあいいか。下着付けてるところだったし、そろそろ出てくるだろう。」
「正明ってもしかして…。」
「ん?」
「興味ないのね。」
「何が?」
「なんでもないよー。」
その時扉が乱暴に開く。
「お。出てきたか。」
「何が…出てきたか…よ!この馬鹿!…!?」
「おいおい、兄に向かっていきなり殴りつけるのは良くないぞ。俺が避けたら拳が壁にあたっていた。舞が怪我をしたらどうする。」
「は、離しなさい!」
アスタークは舞の拳を離す。
日々戦闘を行ってきたアスタークにとって舞の拳は止まって見えた。
避ける事もできたが、それだと後ろの壁を殴ってしまうためアスタークは拳を手で受け止めたのだった。
舞は拳を引っ込めると自分の部屋へ駆けて行ってしまった。
「何だったんだ?」
「正明も鈍感ねぇ。」
「?」
出て行った舞に続きアスタークも脱衣所へと入る。
服を脱ぎ、タオルを取り出すと風呂の中へ入っていく。
「やはり風呂はいいものだな!この世界の風呂は蛇口をひねればお湯が出る!なんと便利なんだ!」
そんなこんなしながらずいぶんと長風呂をしていたアスタークは脱衣場から母の声がかかった。
「正明~?生きてる~?ご飯よ~。」
「生きてるよ。いま出る…長風呂しすぎたな。さっさと着替えてリビングに行かなくては。」
アスタークは体を拭いてから脱衣場に戻ると寝着を着始めた。
ふっとそばに置いてあった銃みたいな機械が目に入った。
「これは…ドライヤー?髪の毛を乾かす機械か。使ってみるか。」
コンセントにプラグを差し込みスイッチを入れる。
スイッチの位置は温風だ。
ファンの駆動音と共に温風が吐出される。
「おお。これはいいな。髪の毛があっという間に乾いていくぞ。」
髪の毛を乾かし終えるとコンセントからプラグを抜き元の位置に片付ける。
「ふぅ。スッキリしたな。」
脱衣場から出ると、リビングのテーブルに母と妹が座っていた。
「私のドライヤー使ったでしょ。」
「ん?あれ舞のだったのか?」
「…もういいわ。」
「そうか。」
「ささ!食べましょ!今日はカレーよ!」
「(カレーとは何だ?ドロみたいに茶色い色をしているが…中に人参、じゃが芋が入っているな。)…いただきます。」
アスタークは動揺を悟られないようにスプーンでカレーを一口食べる。
「!?これはうまい!」
「あら~!本当?頑張って作ったかいがあったわ~。」
「(こんなにうまいものがあるなんて!)母さんおかわり。」
「あら!はやい!ちょっと待っててね!」
「あんた今日は食べるの早いわね。」
「ん?美味いものなんだからしょうがないだろ?」
「今よそうからね~。」
「はいよー。」
アスタークはテーブルに置いてあったテレビのリモコンを手に取ると電源をつけた。
相変わらずエンタメなどに興味が無いアスタークはニュース番組を探してチャンネルを変えていく。
ニュース番組を見つけたアスタークはその番組を見始めた。
「あんたニュースなんて見るの?」
「そうだが?情報収集は大事だからな。」
「ふーん。引きこもりのあんたがねぇ…。」
「む。ひきこもりではないぞ…今はな。」
「はーい!カレーおかわりお待ちどう様。」
「母さんありがとう。」
「うふふ。何があったか知らないけど明るくなってくれて良かった。うふふ。」
「ははは…。(どうなってたんだ…。)」
カレーを食べつつニュース番組を見るアスターク。
さらに中央に置いてあるサラダに箸を伸ばす。
「(この世界の野菜はみずみずしくシャキシャキしていて美味しい。それにこのドレッシングがいい味を出す。)」
少しして食事が終わると舞はそそくさと自分の部屋へ戻っていってしまった。
「さて、皆食べ終わったし片付けますか!」
「手伝おうか?」
「あら本当?それじゃ、お皿洗うから拭いてくれるかしら?」
「任せろ。」
アスタークはテレビをそのままにし、母の片付けを手伝った。
皿を拭いていると今日の朝流れたニュースの続報が流れる。
「車五台が絡む交通事故の続報です。警察によりますと事故を起こした先頭車両は何かを避けるようにしてブレーキを踏んだ痕跡があることから、人の飛び出しを避けて事故を起こしたのではないかと言う調査結果がでました。詳しい事情聴取は病院に搬送されたン店主が回復次第される予定です。」
「あら~、朝の段階じゃそんな人居なかったのにいきなり出てきたわね~。猫かしら?」
「どうだか。」
次々に洗われていく皿を次から次へと拭いていく。
「そういえば、食洗機使わないのか?」
「ん~?母さんよくわからないの。」
「インターネットで調べておくよ。」
「そんなことしなくてもいいのよ~。」
「まぁ気にすんなって。」
「あらそう?」
「このお皿で最後。」
「了解。で、この皿は何処に片付ければいい?」
するとアスタークの部屋から着信音が聞こえてきた。
「ん?あ、母さん悪い。ちょっと電話。」
「片付けるからそのまま部屋にいていいよ。」
アスタークは駆け足で部屋に戻るとスマートフォンの通話ボタンをスワイプした。
「もしもし。」
「あ、正明くんであってるかな?足立コンビニ店長の勝柴です。」
「はい。正明です。」
「よかった。間違えてなかったな。高谷くんから聞いてね、バイトしたいって聞いたから電話してみたんだけど、間違ってないよね?」
「はい。高谷くんからになってしまいましたが確かにアルバイトをしたいと思っています。」
「よし、すぐには準備出来ないだろうから水曜日の…そうだな…十八時に店に来てくれるかい?」
「分かりました。その際は履歴書だけでよろしいでしょうか。」
「うん。履歴書だけでいいです。」
「はい、分かりました。」
その時電話越しから声が聞こえてきた。
「てんちょーお客さんが並んでますー!」
「今行く!…この通り夜と土日は人手不足なんだ。バイトがやめてしまってね。では水曜日舞っているよ。」
「はい。よろしくお願いします。」
「てんちょー早くー!」
「叫ぶな~お客に失礼だぞ。」
プツっという音とともに通話が切れた。
「なんか大変そうだな。とりあえずやること無いな。」
アスタークは適当にテレビをつけてニュース番組を見始めた。
ニュースは相変わらず政治のことなどがやっている。
政治は興味が無い。
「ん?ああ、このテレビ番組表だせるのか、どれ。」
番組表を表示すると適当に番組表を回していく。
「どれも面白そうな番組は無いな…。とりあえず明日は履歴書と証明写真をどうにかしないとな。今日は早いが寝るとするか。明日は食洗機の使い方とその他もろもろがあるしな。」
アスタークはベッドの中に潜り込むとそのまま目を閉じた。
その日夢を見ていた。
当時の仲間、シュナイダーとミミが居なくなったアスタークを探して駆け回っている姿。
"これは…夢か?"
シュナイダーがギルドを当たり、ミミが路行く人にアスタークの特徴を聞いては探してを繰り返している。
"いや、夢じゃないな…これは向こうの世界の光景だ"
アスタークは夢の中で向こうの世界の光景を見ていた。
かつての仲間が必死にアスタークを探している。
しかし、アスタークは既に魔法世界には居ない。
何処を探しても見つけることはできないのだ。
"何も言わずに飛ばされちったからあいつらには迷惑掛けたな…。"
次第に世界の光景も薄れ意識も落ちていった。
次の日の朝アスタークは先日と同じ時間に起床した。
「朝か。七時十四分。まあ、だいたいこのぐらいか。さて着替えてリビングにでも行くとするか。」
アスタークはささっと寝着を脱ぐとクローゼットから新しい普段着を取り出した。
「なんでもいいか。とりあえず着れればいい。」
適当に取り出した服を着ると、リビングへと移動する。
「(そういえば父親を見たことが無いな。記憶では…単身赴任中か。通りで見ないわけだ。)」
リビングの扉を開けるとアスタークは台所に立っている母を見つけた。
「おはよう。」
「あら~、おはよう。今ご飯作るからね。」
「ありがとう。」
「今日の朝ごはんは~ごはんと納豆、お味噌汁です~。なのですぐできまーす。」
「(納豆と言うと見かけに似合わず美味しかったやつか。まぁ、朝から重いものじゃない分いいな。向こうの世界は朝から肉とか当たり前だったからな…。)」
アスタークはテレビをつけるといつものニュース番組のチャンネルに移した。
途中からだったので前のニュースが中途半端に放送されていて何が何だかわからなかった。
「では次のニュースです。車五台が絡む交通事故で進展がありました。大破した車に乗っていた運転手が目を覚まし警察による簡易的な取り調べが終わったようです。警察からの発表によりますと、運転手は走行中に鎧のような姿をした人間を避けようと急ブレーキを掛けたと話したようで警察では酒気帯び運転の可能性も視野に入れ捜査をしています。」
続報がもたらされたところで朝食が運ばれてきた。
「はーい。朝ごはんでーす。」
「ありがとう、いただきます。」
アスタークは意外に美味しかった納豆に醤油を入れかき混ぜると、ほくほくの白米にかけた。
「(やはりこれは匂いがあれだったが美味しいな。)」
アスタークが朝食を食べているとニュースは天気予報へと変わっていった。
「今日の天気です。今日は一日快晴が続き、風は無く、穏やかな一日になるでしょう。一週間の天気予報です―」
「そういえば母さん。」
「ん~?」
「水曜日にバイトの面接行ってくる。場所はすぐそこにあるコンビニ。」
「分かった!火曜日はカツ丼ね!」
「(カツ丼…白米の上にカツを乗せた食べ物。美味しそうだな…しかし何故カツ丼なんだ?カツ丼…勝つ丼…勝つ…そういう意味か。)」
そんなことを考えつつ朝食を食べ進み、味噌汁を飲み干した。
「ごちそうさま。ちょっと履歴書と封筒、証明写真撮ってくる。」
「は~い。この近くだと面接に行くコンビニで全部揃ってるわよ。」
「そういえば…何かあったな。あれで証明写真が撮れるのか。」
「お金ある?」
「お金なら大丈夫だ。」
「あらそう?それじゃいってらっしゃい。」
「ああ、行ってくる。」
アスタークは靴を履くと先日のコンビニに向かって歩き出した。
「ん~平和な世界だな…。事故はこの世界のほうが多いが、戦争や魔物被害が無いから安全だ。昨日のコンビニはこの道をまっすぐ行ったところだな。」
アスタークはコンビニに到着すると店内に入った。
店内からは聞いたことがある声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませー。」
「(この声は昨日の電話で話した店長の声だな。とりあえず、履歴書と封筒を買わないと。)」
商品棚を探しまわって目的のものを探し出す。
文房具などの商品が置いてある棚に履歴書と封筒も置いてあることを見つけ出した。
アスタークは両方手に取るとレジへ持っていく。
「ん?もしかして君が正明君かい?」
「そうです、はじめまして。」
「へぇー。護くんの言った通りの特徴だ。」
「どんなこと言っていたんですか?」
「ん~?今はほかのお客さん居ないし、ちょっとだけ話そうか。護くんは正明くんの事を友好的で好青年だと言っていたよ。物分かりもよく、話も弾む良い友だちだと。」
「護のやつそんなこと言っていたのか。」
「良い友だちだと思うぞ。今の少年には珍しいほど護くんは真っ直ぐだ。」
「そうですね。護はいいやつだと思います。」
「ははは、お、いらっしゃいませー。済まないが今日はここまでだ。また水曜日に会おう。」
「そうですね。有意義な話ありがとうございました。」
「いやいや、いいんだ。四百二十八円ね。」
「千円で。」
「お釣りは五百七十二円になります。ありがとうございました。」
「では。」
アスタークは軽く会釈すると店を出た。
そして外にある四角い箱に入っていく。
「いらっしゃいませ、画面に映る線に顎が乗るように椅子の高さを調整してください。」
「!?ああびっくりした。」
椅子に座ると指示通りに画面に映る線に合わせて椅子を下げていく。
「よし。後は七百円入れればいいのか。とりあえず千円だな。」
千円札を入れると機械が動き出し画面が点灯した。
「カラー写真、モノクロ写真を選択してください。」
「カラーだな。」
アスタークはスイッチを押しながら操作していく。
「準備が完了したら中央のスイッチを押してください。五秒後に撮影が開始されます。」
「髪の毛も跳ねてないし、服装も大丈夫だ。よし。」
「撮影を開始します。………撮影しました。この写真を採用しますか?後二回撮影できます。」
「これでいいだろう。よし。決定!」
「写真が決定されました。印刷を開始します…外の排出口から写真をお受取りください。お釣りが排出されます。お忘れのないように置きをつけ下さい。」
「三百円っと、外か。」
アスタークは荷物を持つと外にでた。
機械が動く音がしながらカサっと何かが落ちてきた。
「お?おお?撮れてる撮れてる。よし帰って履歴書書くとするか!」
アスタークはレジ袋の中に証明写真を入れると自宅へ戻っていくのであった。
アスタークにとって舞のパンチはとても遅く見えます。
一般人とAランク冒険者の差です。