友達第一号
授業のためグランドへでたアスタークはその広さに驚いていた。
学校のグランドは王城の兵士練習場以上の大きさを持っているのだ。
それをただの学生にポンっと貸してしまう行政にも驚く。
「おっと呆けている場合じゃないな。集まらないと。」
アスタークは皆が集まっている場所へ移動する。
そこへ出席簿を持ったいかにも体育会系の先生がやってくる。
「(この先生の名前は…渡辺 洋平か。渡辺先生だな。)」
「授業を始める。日直号令。」
「気を付け!礼!よろしくお願いします!」
クラスの皆がそれに従い礼をする。
アスタークもそれに合わせ礼を行う。
「よろしくお願いします」
「よろしく。全員いるか?点呼取るぞー。」
そう言うと渡辺先生は点呼を始める。
アスタークは不審がられないようにクラスメイトの顔と名前を再度知識と合わせ、覚えていく。
「倉木 正明」
「はい。」
すると後ろのほうから声が聞える。
それはギリギリアスタークに届く距離だ。
「どうせあいつがまたビリだろ。待つ俺達の身にもなって欲しいぜ。」
「おい、やめておけ。噂知ってんだろ。」
「おっと、そうだったな。怖い怖い。」
「…。」
「よし。全員居るな。今日は外周をしてもらう、五週だ。お前らならできるよな?」
「うおおお!余裕っす!」
「よし六週にしよう。お前ら頑張れよ。」
「おい、高谷ふざけんな!一周増えちまっただろ!」
「六周とか無理だよぅ。」
「(校舎の大きさはだいたい三百メートルぐらいか。それを四方に計算して更に六週、七キロと二百メートルくらいか。まぁ余裕だな。)」
「ほら!文句言ってないでさっさと校門へ移動しろ!もう一周増やすぞ!」
「やべ!急げ!」
「ひえええ!それは勘弁して下さい~。」
生徒たちは一目散に校門へ走って行く。
アスタークもそれに混じって校門へと走る。
「各自準備体操をするように。怪我すると俺が責任取らなければならないからな。」
生徒たちは体を解しながら各自準備運動をしている。
アスタークも見よう見まねで準備運動を始める。
「(こ、こうか?)」
「よし。タイマー置いておくから各自走り終わったらこの名簿に書いておくように。三十五分以上は後日補修があるからな。特に倉木!お前もう六回も遅れてるんだから少しは頑張るように。」
周りからくすくすと笑う声が聞こえてくる。
「人のことを笑っていないでさっさと走る準備をしろ!はいタイマースタート。」
「ちょ!走れ走れ!」
「おい早くいけ!」
クラスの皆が慌てて走りだすとアスタークは遅れて走りだした。
アスタークは安定した走りで徐々に体力を切らしたクラスメイトを追い抜かしていく。
それを見たクラスメイトはそんなバカなと思っているだろう。
もともとどんなに息を切らせてゴールするクラスメイトもいたがそれよりも倉木は遅かったのだ。
それがどんどんクラスメイトを追い抜かし、今ではトップ集団に食らいつく勢いだ。
「ハァハァ…なぁ…倉木って…こんなに早かったか?」
「いや…そんなに早く…無かったはずだが…。」
「お先。」
そう言うとアスタークは二人を追い抜かしていく。
「(大体魔法使いは貧弱とか考えている奴らは考えがわからんな。)」
アスタークは毎日基礎体力作りを欠かさずに行っており、そこらの前衛と変わらない体力を持っているのだ。
それ故学生とは比較にならない。
「む!?倉木じゃないか!お前そんなに体力有ったのか!」
「君は…(たしか高谷と呼ばれていたな。)高谷か。」
「おう。こうして話すのは初めてだな!噂と違って良い奴じゃないか。四限が終わったら昼一緒に食おうぜ!」
「ああ。いいぞ。」
「よし!このまま残りの週も走り切るぞ!倉木はついてこれるかな?」
「望むところだ。」
いつの間にか高谷とアスタークの二人が独走状態になっており、何名かを周回遅れにしていた。
「やるな!倉木!」
「高谷こそ!」
「ラストスパートだ!うおおおぉぉぉ!」
「俺も負けるか!」
校舎の最後の角を曲がるとタイマーと先生が立っているのが目に入った。
「また一番は高谷か。ん?一緒にいるのは倉木か?周回遅れで一緒になったのか?しかしものすごい勢いで走ってるな。」
「だああ!とうちゃーく!今!」
「高谷は相変わらず早いな!まだ二十分だぞ。倉木はどうした?まだ残ってるんじゃないのか?」
「先生。倉木は一緒にここまで走ってきました!倉木も六週終了です。」
「何?もしかして倉木、今まで手を抜いていたな?」
「あー。いやー。そういうわけでは…。」
「まぁいい。次からきちんと走るように。」
「わかりました。」
「倉木!水飲みに行こうぜ。」
「いいぜ。」
二人は校舎の外に備え付けられている蛇口まで歩いていく。
その間に色々と話していた。
「そういえば倉木は今まで誰とも喋ってなかったな。どうしてだ?」
「正明でいいよ。それは…まぁ、小学校のこと噂で知ってるだろ?それで話しかけても逃げられるんだ。だから高校に入っても誰とも話さなかったんだ(これで合ってるよな…?)」
「そうか。正明も大変だったんだな。よし!俺が友達第一号になってやろう!俺のことは護って呼んでくれて構わないぜ。」
「護か。よろしくな。」
「おう!」
二人は蛇口をひねり水を飲み、再び校門前まで行くと名簿にタイムを書き込み雑談をしていた。
外周が終わったクラスメイト達は二人が話しているのを見て誰もが驚いていた。
やがて全員が帰ってくると整理体操を行い先生からの話で授業が終わる。
「気を付け!礼!ありがとうございました!」
「おう。二限に遅れんなよ。それと倉木ちょっといいか?」
「?何でしょうか?」
「お前前より明るくなったな。何かいいことでも有ったか?」
「…いえ。ちょっと人生観が入れ替わっただけです。」
「そうか。その調子で高校生活を楽しめよ!」
「ありがとございます。」
「呼び止めて悪かったな。」
「いえ。」
そう言うとアスタークは駆け足で教室まで戻っていく。
二限目は数学の授業だ。
担当はクラスの担任である本倉先生だ。
教室に入るとすぐに体育着から制服に着替え、次の授業の準備をして着席した。
少し時間が余っているため教科書を開き内容を確認していた。
「(ふむ…あのプリントに有った式はここか。次のページは…ふむ。ある程度の知識は貰っているが、あるのは高校一年までの知識か。そこから先は学べということだな。)」
教科書を斜め読みしていると先生が入ってくると同時にチャイムが鳴り響いた。
「おーし。お前ら席につけ。これから楽しい数学の時間だ。」
「つまんねー」
「おい、つまんねーって言ったやつは単位零にするぞ。」
「すみませんでしたー!!」
「それでよし。日直、号令。」
「起立。気を付け!礼!よろしくお願いします。」
「さてっと、全員…いるな。朝のプリントを返すぞ。名前を呼ぶから順次取りに来るように。」
そう言うと生徒の名前を呼び始めた。
呼ばれた生徒は自分のプリントを受取に席を立ち、受け取りに行く。
「倉木~。」
「はい。」
「お前やれば出来るじゃないか。いつも赤点ギリギリ小テスト、宿題全問不正解のお前が今回全部あってるなんてな。これからもがんばれよ。はい次―」
「(前の人物の評価が低すぎる!?これはひどい…。)」
プリントを回収して席についたアスタークは筆箱からシャーペンと消しゴムを取り出すと、ノートを開いてプリント返しが終わるのを待っていた。
全員分返し終わると本格的に授業が始まった。
授業は至って普通の数学の授業だ。
アスタークはまじめにノートに黒板の内容を書き写していく。
途中向こうの文字で書いてしまいそうになったが、なんとか日本語でノートをとっている。
「(言葉は何とかなっているが、文字だな…気を付けないと。)」
「―で、ここでこうなるため、こういう結果になるんですね。ここテストに出るからきちんとノート取っておけよー。」
「ふむ…ここがこうなるのか…。」
アスタークは真剣に授業を受けている。
その様子が珍しいのか周りからは奇妙な目で見られる。
それは先生からもだ。
「倉木、今日は起きてるんだな。いつもは起こしても起きずに一時間終わるのにな。」
「ははは…。」
「プリントもそうだが、授業もこれからはきちんと受けてくれよ。」
「はい。」
その後も授業を受け二限の終わりであるチャイムが鳴り響いた。
「では終わりにする。号令。」
「起立。気を付け。礼。ありがとうございました。」
「次の授業遅れんなよー」
そう言うと先生は教室から出て行った。
アスタークはノートと教科書を机の中にしまうと次の授業の用意をし始めた。
初めて受ける授業と言うものにアスタークは強烈な興味を持っていた。
魔法も独学で極め、教わるということを知らなかったアスタークは初めて触れる物に興味津々だ。
次の授業もあっという間に時間がすぎるほど集中し、黒板に書かれた内容と重要そうな話はノートにメモをとっていた。
やはりどの先生からもアスタークのことが珍しいかのように言われるのであった。
そして四限も終わり昼休みになった。
自分の机に母さんから貰った弁当箱を広げ食べようとすると、そこに護がやって来た。
「よっ!一緒に食おうぜ!」
「ああ、いいよ。」
ザワザワと周りがざわつくのがわかる。
今まで誰も近寄ろうとせず、誰とも近寄ろうともしなかった正明に護が近づき、更に正明もそれを受け入れたからだ。
「周りのことは気にすんな!」
「そうだな、周りは周りでいいように言わせとけばいいんだ。」
「その調子だ!」
「(なぜかミミを思い出すな…護は常にポジティブそうだ。)」
「やっぱり昼飯はうまいな!そういえばなんで今まで出来ること隠してたんだ?」
「(なんて答えようか…よし。)あまり目立ちたくなかったからな。ほら、噂のことも有ったしな。」
「ふーん。で!なんで今になって本領発揮なんだ?俺はそれが気になって授業が集中できなかったぜ!」
「そうだな…人生観を変えてみようかと思ってな(既に変えられたけどな。)」
二人は話しながら昼食をとっている。
周りからは珍しい目で見られているが、そんなことは気にもとめていないようだ。
「なんかすげぇな!俺たちまだ高校生だぜ?そんなこと考えるなんて爺さんみたいだ!」
「じ、爺さんってな…。」
「すまんすまん。例えが悪かった!許せ!」
二人は楽しそうに話している。
それを見て回りのクラスメイトによる正明の印象が少しかわったのは事実だった。
「なんか正明君いきなり変わったよね。何が有ったんだろう?」
「私に聞かれてもわからないわよ~。実は中身が入れ替わって人が変わったとか!」
「なにそれー。そんなのありえないよ~。」
「ですよね~。でもあの変わり様は凄いよね。今までパワーをセーブしてたのかな。」
「そうじゃない?体育の時もすごかったし。」
「それに授業も起きてノート取ってたしね。」
クラスの端で女子達がアスタークの話をしているが、声が小さいためアスタークや護の耳には届かなかった。
実は言っていることは有ってるのだが本人たちは知らないのである。
この世の中には不思議な事があるのだ。
「ごちそうさん!」
「ごちそうさま。」
「あー!もう帰りてぇ!体育以外の授業は嫌だー!」
「後五限と六限あるぜ?」
「うがー!全部が体育になればいいのに…。ちょっと校長に直訴してくる。」
「やめい。」
「嘘だよ嘘。でもちょびっとは思ってるけどな。」
「護は陸上が得意なのか?」
「おうよ。走りなら任せろ!で、正明は何が得意なんだ?」
「俺はま…。」
「ま?」
「(あっぶねえ!魔法って言いそうになったぞ。)ま…。」
「ま?」
「まだ決まってないんだ。許せ!」
「何だまだ決めてないのか。体育おすすめだぜ!」
「そ、そうか。(ふぅ…助かったぜ。)…ん?あー、そういえば次の授業小テストあるって言ってなかったか?」
「げげ!勉強しないとやべえ!わりぃ、ちと勉強してくる!」
そう言うと護は自分の席に戻り必死にノートを見返し始めたのだった。
ちなみに次の授業は理科である。
アスタークは送られた日までの知識が有るため小テストでも良い点を取る自信が有ったのだった。
そして放課後…。
「あー。終わった、小テスト二連続なんて聞いてない…。」
「それは自分が聞いてないのが悪いんじゃないか?」
「あー!部活だ!部活!俺部活行くから、また明日な!」
「おう。また明日。」
護は叫びながらグランドへ向かって走っていったのだった。
「良い奴だな。」
アスタークはそう言うと自分の家に帰るのであった。
…うむ。
高校時代の内容はすべて忘れてしまっているため授業内容の描写ができません。
やっていることは普通科の高校なので当時のことを思い出しながら読んでいただくとわかりやすいと思われます。
更にいうと私は工業高校だったため普通科の内容がいまいちわかりません。
ちなみに本文に出てくる人物はすべて架空の人物です。