正明ことアスタークの学園生活の始まり
それはそれはとある神に無理やり世界を移動させられた凄腕魔術師のお話。
「正明、ご飯のおかわりいる?」
「貰っておこうかな。」
正明。そう本名 倉木 正明、元アスターク・クラウン。
Aランクの冒険者だった。
世間では蒼白の炎やら蒼白の魔法使いとか呼ばれている名の通った冒険者だ。
それがある日突然、夜寝るためにベッドに入った途端白い空間に飛ばされ、この世界にやって来たのである。
戸籍はこちらの世界から送られた人物のところにねじ込まれたらしい。
「(こちらの米はうまいな。向こうとは大違いだ。)」
「正明、今日はたくさん食べるわね。何か有ったの?」
女性が話しかけてくる。
この女性は倉木 綾香。知識によるとこの家の母だ。
そしてとなりで無言で食事を食べている女性は倉木 舞、正明の妹に当たる。
成績優秀、運動神経抜群、それに来て美女という完璧な妹だ。
「いや、飯が美味いなっと思ってな。」
「正明が…うぅ…やっと心をひらいてくれたのね…。」
「(…俺の立ち位置は最悪じゃないか。小学生の時にクラスメイトを半殺し、それ以降友達無し、半ひきこもり…。幸先悪いな…。)母さん泣かないでくれよ…。」
「正明が…!母さんって!今日は最高の日だわ!」
「うるさい。もう少し静かにご飯食べられないわけ?」
「す、すまん。」
「舞!だって正明が!正明が!」
母親の綾香は涙目で力説している。
それをうるさそうに聞き流している舞と、どうしてこうなったと言う表情で眺めている正明。
それを眺めつつ、食事をとっているとこちらにも話が回ってきた。
さすがのアスタークもこれには押され気味だ。
「これからもその調子で復帰してね!」
「あ、あぁ。分かった、分かったからもう勘弁してくれ。」
「ぐすん…今日は良い日ね…。」
「と、とりあえず、ごちそうさま。美味しかったよ。」
「はぁぁぁ!今日は最高の日だわ!」
そんな表情を見ながら食卓から離れるアスターク。
部屋に戻ると机の上に参考書とノート、プリントが置いてあることに気がついた。
椅子に座り、参考書を開く。
神にもらった知識を元に参考書を読み解いていく。
「これが数学か。…ふむ。式を理解できれば後はすべて応用だな。こっちはノートか…ってなんだこれ?ミミズが這いずったような文字…もしかして居眠りでもしていたのか?後はこの紙か。羊皮紙とは違いかなり上質なものだな。…ん?この式間違っているぞ。」
アスタークは筆記用具から消しゴムとシャーペンを取り出すと間違っている式をすべて正しい式に書き直し問の答えを書き込んでいく。
「よし。これで間違いは無いはずだ。今日は…木曜日か。明日は高校があるな。高校の場所とクラスは…朝霞高等学校、二年B組か。」
アスタークはプリント、ノート、参考書をカバンにしまうと、テレビをつけた。
神の知識だけではなく細かい知識をつけようとするためだ。
このチャンネルはニュースをやっているようだ。画面には新発見なるか!異世界の存在と書かれている。
「次のニュースです。国際科学研究機構は異世界を観測する技術の論文を発表しました。異世界とはこことは違う世界のことで過去にも同じような主張をしている科学者がいましたが、国際科学研究機構が発表するのは初めてのことです。」
「異世界を観測する技術?科学とはそんなに凄いものなのか…?」
アスタークほどの魔法使いでも異世界を観測するすべを持っていないし、聞いたこともない。
「ここで特別ゲストの国際科学研究機構の四八音博士をお呼びしました。四八音博士よろしくお願いします。」
「はい。よろしくお願いします。今回発表されました論文は異世界を証明するための第一歩になるものとなります。」
「具体的にどのように観測をなさるので?」
「核融合炉からの大容量エネルギーを用いてディメンションクリスタルと呼ばれる稀少鉱石から波動を四方向から出力し、時空間に穴を開けます。そこから時空フィールドを展開し、空間の穴を維持しそこから次元観測アンカーを撃ち込み観測します。」
「では、ここでディメンションクリスタルとは。」
「はい。ディメンションクリスタルとは地球の下部マントル内部にある稀少鉱石になります。これは菱型に加工するとすべての面に違う風景が映る不思議な鉱石です。」
「風景が映るとは一体どのように?」
「このディメンションクリスタルは微弱な波動を放っていることが観測されています。それが時空間に干渉し、映し込んでいるのです。稀に飛行機が通常三時間で飛ぶコースを一時間で飛んでしまうと言う現象がよくテレビで放送されていますが、それはディメンションクリスタルに大きなエネルギーが掛かり、時空間を歪めた結果なのです。」
ニュース番組でやっている最新科学技術を真剣な表情で見入っているアスターク。
彼にとって科学とは新しい概念であり興味の対象なのだ。
「このディメンションクリスタルはエネルギーを吸収し、増幅する効果があり、それを前後左右からぶつけ合う事で時空間に穴を開けるのです。」
「次に時空フィールドとは何でしょうか。」
「これは一定方向に不可視の壁を作り出すといったほうが正しいでしょうか。これも膨大なエネルギーを使用します。これで創りだした穴を閉じないようにします。パイプみたいなものだと思ってください。」
それを聞いていたアスタークはシールド魔法を思い出していた。
しかし、この世界では魔法は発動しない。
これは純粋な科学技術のシールドということになる。
これが応用されれば様々な分野に使われるだろう。
「まあエネルギーが問題そうだな。」
「最後に次元観測アンカーとは?」
「ディメンションクリスタルを制御し、相互に映像を通信できるようにした物です。近くに別の世界、異世界があれば次元観測アンカーが反応し映像を映し出すと言う仕組みです。」
「観測によりどのようなことが我々にもたらされるのでしょうか。」
「それは異世界人とのコンタクトです。我々の知らない技術、共生です。更に使われる技術は一般向けに公開される物もあり、我々の暮らしを更に豊かにしてくれるでしょう。」
「ありがとうございました。次のニュースです。東京都杉下区五丁目で殺人事件が―」
そこまで見るとアスタークはテレビの電源を消す。
「異世界観測か。そのうち俺の居た世界も観測されんのかなぁ。まてよ…それが確立すれば元の世界に戻れる…?」
少し考えこむと考えることをやめた。
まだ論文段階なのだ。
期待するほうが間違っている。
そう言うとベッドに横になり眠りについた。
翌朝、何かの音が響き渡りアスタークの目が覚めた。
「う、うわ!なんだ!?」
アスタークが音が出る方向を見ると時計が有った。
「これは目覚まし時計か。驚いたな。本当に時間ピッタリになるんだな。…とりあえず制服に着替えるか。」
アスタークは部屋にハンガーでかけてあるワイシャツに袖を通す。
「こちらの世界に来て驚いてばかりだ。こんなにきめ細かい布を量産できるのか。凄いな。この制服も王が着るような…いやそれ以上上質な物だ。」
アスタークは制服を着終えると、リビングに向かっていく。
「おはよう。母さん。」
「ああ!夢じゃなかったのね…!母さん嬉しいわ。」
「(俺の前の人物は何をしていたんだ…。)」
「そこに朝ごはん用意してあるからね!あ、おかわりもいいからね。」
「朝からそんなに食べられないよ。」
そう言いつつ椅子に座る。
今日の朝食は味噌汁と白米、納豆だ。
「(味噌汁も納豆も初めて食べるな…母さんが目を光らせてこちらを見ている…食べぬわけにはいかないな。納豆の食べ方は…醤油を混ぜるのか。)」
アスタークは箸で納豆を混ぜると、ほくほくの白米の上にかけた。
そして食べようとした時納豆独特の匂いがアスタークの鼻を突いた。
「(うっ!?これは…。)」
前を見ると目をキラキラさせている母。
アスタークは覚悟を決めて納豆ご飯を口に含んだ。
「む…美味しいな。」
「本当!?やった!二日連続で美味しいって言ってくれた!母さん嬉しい!」
「(…とりあえず全て食べよう。この味噌汁っていうのも美味しいな…。)」
その後朝食を食べ終え、歯を磨くと服装を整えカバンを持つと玄関へ向かう。
「それじゃ、行ってきます。」
「いってらっしゃい!正明がんばってね!」
「あぁ、頑張ってくるよ。」
そう言うと玄関のドアを開け外に出て行った。
この世界に来て初めての外だ。
ドアの外は廊下になっており外が見える。
アスタークは廊下の手すりに手を掛けると周りを見渡した。
朝日に照らされ、あたり一面に広がる家とビル。
「すごいな。王城並の高さはあるんじゃないか?っと学校行かないと…確かこっちにエレベーターだかがあるはず。」
アスタークはマンションの廊下を進むとボタンの付いているドアの前に立った。
「これか…下に行くにはこのボタンを押せばいいのか。」
アスタークはボタンを押すと暫く待つ。
するとドアが開き個室が現れた。
知識で知りながらも恐る恐るそれに乗るとドアが閉まった。
一瞬の浮遊感と共に空間ごと下に降りていることがわかる。
エレベーターが止まり、ドアが開く。
アスタークは外に出ると周りを確認した。
「本当にすごいな…あっという間にあの高さから地上だ。さて…ここからは更に未知の世界だ。」
少し進むと透明な扉のようなものが有った。
「これは自動ドアだな。」
アスタークは近づくとドアが自動で開いていく。
それを通るとドアが締まり外からは開かなくなる。
「防犯上も十分だな。どうなってるんだろうな。」
そう言いつつ最後の扉を手で開けた。
そこには大きなアスファルトで舗装された道と空にはいたるところに張り巡らされた電線が目に入った。
そしてこれまた上物の服を着ている人々の姿があった。
アスタークは一瞬思考が停止してしまったがすぐに我に戻った。
すぐに学校のある方向へ歩き出す。
「(これは石か?それも切れ目がない。それに…)」
アスタークの真横を黒色の車が通り過ぎて行く。
「(馬がいない。エンジンというもので動いているんだな。魔力も無しにこれほどの物を作れるとは科学とは凄いのだな。)」
歩いていると同じ服装の学生が増えてきた。
道も車が途切れることなく走り、OLやサラリーマンも徐々に増えてくる。
皆あちらの世界では高級品といえる服装でまちなかを歩いている。
あたりをキョロキョロしていたら不審がられるので目で追うだけにしているが、珍しいものが多すぎて目が追いついていない。
しばらくすると学校が見えてきた。
それは周りのマンションよりは小さいがその分面積が大きい。
校門の前には先生が立っており生徒に挨拶をしているようだ。
アスタークが校門まで来るともちろんのことながら挨拶をされた。
「おはよう!」
「おはようございます。」
アスタークは自然にそう返すと学校内へ入っていく。
「(えっと…俺の下駄箱?はどこだ。)」
もらった知識からその情報を探し出し、下駄箱を探し当てる。
下駄箱の中には画鋲も便箋も入っているわけなく、少しく黒くなっている上履きが入っていた。
アスタークはそれに履き替えると自分の教室へと向かう。
教室に入ったがアスタークの存在は殆どの人に興味を示されなかった。
もともと鈴が社交的でなかったため友達の一人もいないのだ。
それに小学生の時の噂が未だに何処からか流れてきているのかアスタークの周りには人が寄り付かない。
「(…なんか散々な人生だったようだな…。)」
やがて時間になると先生がクラスへやって来てホームルームが始まった。
「皆おはよう。今日は宿題の数学の提出日だ。もちろんやって来たよな?」
「やっべ!忘れてた!」
「お前あとで職員室に来るように。」
「うげえ!」
「宿題のプリントを後ろから回収しろー。」
この先生は数学担当の本倉 歩と言うらしい。
それに持ってこのクラスの担任だ。
アスタークは回ってきたプリントに自分のプリントを乗せると前に回す。
「(さてさて、これから俺はどうなるのやら。)」
「よーし。一限目は体育だ、遅れるなよー。ホームルーム終わり。」
「うおおお!体育だ!」
「お前は体育になると元気になるな。」
アスタークのそばでそういう話がされているがアスタークは体育がどんなものをやるのかは知らない。
スポーツの知識も入っているが、どれも初めてやるため発揮できるはずがない。
「(体育か。冒険者の体力を活かして頑張るか!)」
アスタークは魔法使いだが、体力は人一倍ある。
魔法使いだからといって体力がないというのは偏見だ。
アスタークは体育着に着替えるとグランドへ向かっていったのだった。
鈴の世界は科学が進んでいるため、より深い場所まで発掘できます。
ディメンションクリスタルは時空間を見ることができる鉱石で、エネルギーがかかると時空間を歪ませる事ができます。
航空機の不可思議なワープとも言える現象はすべてこのディメンションクリスタルにエネルギーが掛かり発生しているという設定です。




