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もう一人の私


次の日の朝鈴達はイルミス達と外で合流すると朝食を補給物資馬車から貰いに行っていた。

五人分を貰うと朝食を済まし、返却するものは返却し商隊の護衛位置に素早くいどうする。


昨日の一件で皆不安を覚えながらも各自の持ち場につくとタイタスが出発の合図を出した。


「出発!各馬車は遅れるないように!」


タイタスの馬車が道を進み始めそれに続き他の馬車も進み始める。

皆一抹の不安を覚えながらも護衛につくのであった。


周りは未だ森に包まれているが、トルフ村から近いため木は切られ視界が確保されている。

道並に進んでいると何か獣臭い匂いが側面の森から漂ってくる。


「魔物だ!右側を担当している冒険者は注意しろ。」


鈴はM4を構え、アイリスはいつでも魔法を撃てるように構えている。

イルミス、アーム、アラスは剣と槍を構え、商隊から少し離れつつ雑木林へと近づいていく。

そして大きく雑木林の草木が揺れたと思った瞬間、馬並に大きい狼型の魔物、シルスウルフが雑木林から六匹飛び出してきたのだ。

そしてその背中にはゴブリンが乗っているの。


「ウルフライダーか!」


イルミスが剣を振るうが上に乗っているゴブリンに剣が受け止められ、シルスウルフが反撃を行ってきたのだ。

イルミスは間一髪それを避けると続けざまにアームの槍がイルミスの脇から突き出された。

しかし、大きな体格に似合わず機動力は高く、槍を避け、さらには反撃さえしてくる始末だ。


一人では苦戦する相手だろうが、こちらは相手の倍以上の冒険者がいる。

少しずつ包囲網を組み上げシルスウルフの機動力を奪っていく。


鈴はシルスウルフに向かってM4で射撃する。

さすがのシルスウルフでも弾丸は回避のしようがなくその身に受けてしまう。

銃弾を受け怯んだ隙にアイリスの蒼白の炎弾が直撃し、ゴブリンごと燃え上がる。

地面に転がって火を消そうとするが消えるはずもなく、あっと言う間に燃え尽きてしまう。


「囲んだか!行くぞ!」


イルミスが再度正面から斬りかかる。

しかし当然のことながらそれはゴブリンの剣で防がれてしまう。

しかし横から槍が迫りそれをサイドステップでシルスウルフが回避するが、回避先には剣を振り上げている冒険者が居た。

ゴブリンは慌てながらも剣を受けるとシルスウルフに後方に下がるように命令をする。

命令どおりにバックステップを行い後退するがすでに囲まれているためそこにも冒険者が居るため死角から剣を振られた。


ゴブリンは体を横一文字に切りつけられ痛みのあまりシルスウルフから転げ落ちてしまった。


「グギイイいいいい!」

「やああ!」


ゴブリンに剣を突き立てようとした冒険者が剣を振りかざすが横からシルスウルフがその冒険者の無防備な体制を晒しているところに襲いかかる。

押し倒されその衝撃で剣を手放してしまう。


「っ!すぐに助けろ!」

「うわああ!?や、やめ―」


囲んでいた冒険者がシルスウルフに剣や槍を突き刺すのと同時だった。

押し倒された冒険者の喉元の肉が食い千切られるのは。

シルスウルフを倒すことに成功したが一人の冒険者が犠牲になった。


「ヒュー…ヒュー…」


喉元から空気の漏れる音が耳に届く。

次第にそれも聞こえなくなり、出血多量と気管に流れ込んだ血液による窒息により死亡したのだった。


「畜生!なんでお前まで死ぬんだよ!なんでこんなにランクの高い魔物ばかり出るんだよ!」

「おい!今はそんなこと言ってる場合じゃないぞ!まだ四匹残ってる!」

「糞!わかったよ!チクショオオオオオ!」

「よせ!誰か止めるんだ!」

「テーザー銃」

「グガアアあああああ!うああ、くうううう!」


異変を察知した鈴が前衛の位置まで見に来ていたのだ。

そこで自暴自棄になった冒険者を見つけ、静止の声を聞いたため咄嗟に鎮圧用ではあるがテーザー銃を出し打ち込んだのだ。

幸いこの冒険者は軽鎧だったため布の部分に打ち込んだのだ。


「この人は大丈夫です、他の場所の援護に行ってください。」

「く、くそぉ…!」


鈴はそう言いながら引き金に注意を向けていた。

また特攻されても困るからだ。



「イルミスさん周り頼みました。」

「任せろ。」

「…あなた最初に殺された冒険者の仲間だよね。あの時叫んでた。」

「ああ!そうだよ!あのチャイルドドラゴンに二人もやられ、今ここで最後の一人まで殺されちまったよ!糞が!」


そう言って動き出そうとするが鈴は容赦なく引き金を引いた。

五万ボルトの電流が流れこむ。

一瞬で筋肉が硬直し動けなくなるが鈴はすぐに引き金から手を引いた。

人間の体とテーザー銃の都合上何度も長時間流し続けるのは危険なのだ。


「あああああああ!」

「少し落ち着こう。」

「ハァハァ…糞…糞…!」

「…。」


男は涙を流し、地面を手で叩いている。

鈴はそれを見ながらテーザー銃を握っていた。

しかし握る手は力が入っていた。



冒険者達が最後の一匹を倒し終えると皆安堵の表情を浮かべた。

鈴も針を引き抜くとテーザー銃を消す。

男はすぐに殺された仲間のところに走って行った。


「仲間がこうやって死ぬのは嫌ですね。」

「あぁ。俺達もそうならないように気をつけないと行けない。」


イルミスが馬車の方へ戻り、鈴は少し立ちすくんでいると突然雑木林が大きく揺れた。


「何!?」


そこには今までより少し大きいシルスウルフに乗り、防具を着たゴブリンが居た。

鈴は咄嗟にM4を出現させるとそれをシルスウルフの口に支えとして噛み付かせ噛みちぎられるのを回避したが、その体重からそのまま押し倒されてしまった。


「っ!!」

「鈴!」


イルミスがこちらに走ってくるがゴブリンは剣をこちらに向け振り下ろそうとしていた。

このままではイルミスが到着するより早く振り下ろされるだろう。


「(死ぬ!死にたくない!死ぬのは嫌だ!死死死死死死死死死死死死死死 )ぁ…。」


その時鈴の中で何かが切れるような感覚がした。


「あああああああああぁぁぁぁああああ!」

鈴は迫り来る剣を驚くべき反射神経で首を傾け避けるとシルスウルフを押し倒された状況下で腹を蹴り飛ばした。

驚くべきはシルフウルフが鈴に蹴り飛ばされ、宙に浮いたことだ。

その隙にすぐに体勢を立て直し上に乗っているゴブリンの頭を掴むとそのままシルスウルフから引きずり下ろし、地面にたたきつけた。


「…XM109ペイロード…。」


鈴は右手に出現させるとシルスウルフの口の中に銃口を突っ込み、引き金を迷わず引いた。

25mm弾がシルスウルフの頭を砕き、体を飛散させながら地面に肉塊が出来上がったのだ。

鈴は次に地面に叩きつけたゴブリンを見据えた。

その目は光がなく、冷たい目をしていた。

鈴は片足を上げると勢い良く踏みつけ始めた。

何度も何度も何度も何度も、ゴブリンの首が折れ腕が折れ、全身を満遍なく踏みつけ体を砕いていく。折れた骨が皮膚を突き抜けゴブリンの体から血が溢れ出す。

次第に踏みつける力が強くなり、首が千切れ飛び、肋骨が砕け、首から血が踏みつけられるたびに吹き出す。


「お、おい。鈴。」

「…。」

「鈴!おい!鈴!」

「…たくない。死にたくない死にたくない殺す殺せ私は死なないお前が死ぬ死ね死ね―」


鈴は転がったゴブリンの頭にXM109を突きつけると引き金を引いた。

轟音とともにゴブリンの頭が砕け散り返り血や破裂した脳の破片や肉があたりに広がった。

頭を砕くと鈴の動きも止まり、銃が光となって消えていった。


イルミスが鈴に近づくと、鈴はふらふらして倒れそうになっていた。

すぐさまそれを支えるとイルミスは鈴を抱えて馬車へ戻っていった。


その光景を見ていた他の冒険者は一体何が起きたのか理解できずにいた。

しかし、一度イルミスは同じような光景を見ていた。

それはルーツ姫を守った時の鈴の行動。

ナイフで刺されながらもいつ構えたかわからないほど早くあのスパイを射殺した時のことだ。


イルミスは眠ってしまっている鈴を補給物資を運んでいる馬車の商人に訳を少しばかりぼかして話すと荷台に寝かせてもらった。


「アイリス。ちょっときてくれ!」

「何?」

「鈴の右足と右腕を見てくれないか?」

「これは…。」


鈴の右上腕部は紫色に変色し、右足は真っ赤に腫れていた。


「右腕のは痣だと思うけど、足のは…この腫れ方は骨にヒビが入ってるわね。<癒しよ。ヒール>」

「済まないがアイリスも荷台に乗せてくれないか?治療が必要なんだ。」

「ああ。わかったよ。」

「すまない。ありがとう。」


そう言うとアイリスに鈴を任せイルミスは持ち場に戻っていった。

タイタスが冒険者達を数えたが、最初二十八人居た冒険者は出発してから六人減って二十二人となっていた。

先頭に参加できない鈴とアイリスを除けば二十人だ。


タイタスはとりあえず左右に十人ずつ展開させ馬車のスピードを上げることにした。

平原に出てしまえば奇襲も減るだろう。


その頃鈴は夢を見ていた。





「ここはどこ?」

”ここのは夢の中。”

「夢の中…?」

”そう。で私は貴方。”

「何言ってるの?」

”さっきの記憶ある?”

「さっき…?」

”思い出せないよね。だって私が表に出たんだからね。”

「何を言ってるの?」

”私が最初に生まれた日覚えてる?小学六年生の時のあの出来事。”

「…。」

”今も隠してるんでしょ?お腹の傷跡。ふふふ、あの時は痛かったね。いじめられた挙句わざとじゃなかったけどカッターナイフでお腹刺されちゃってね。”

「やめて…!」

”あの時の気持ちが私を生んだんだよ?”

「やめて!もう思い出させないで!」

”起きたことは消せないよ。”

「もう消えて!」

”私は消えないよ。だって私は貴方なんだからね。また死にそうになったりしたら出てくるから覚えておいてね”

「うるさい!うるさい!」

”じゃ。またね。”



鈴が目を覚ますとアイリスが隣にいた。

ぼーっとした意識の中何かに揺られるような感覚がする事がわかる。


「ここ…は?」

「気がついた?」

「アイリス?」

「怪我は治しておいたよ。相変わらずの回復力ね。普通こんなに簡単に治らないよ。」

「まあ…それは私ってことで…ね?」

「…そういうことにしておく。」

「ほっ…。」

「それじゃ護衛に戻るわよ。」

「了解サー」


鈴とアイリスは馬車から飛び降りるとイルミスたちのもとへと走って行く。


「イルミスさんー!すみませんでした。」

「もう大丈夫なのか?」

「はい。ご迷惑おかけしました。」


鈴とアイリスが隊列に加わり数十分後、一同は森を抜けイーニャ街が見える位置まで到着した。

しかし、なにか様子がおかしかった。

遠くからでもわかるほど崩壊した防壁、ところどころ煙を上げている街の姿。


「冒険者達は警戒レベルを上げてくれ!」


タイタスがそう叫ぶ。

イーニャ街のそれを見た冒険者達にも動揺が広まっている。

平原の街道を進みつつイーニャ街に近づいていく一行は途中道に倒れている人を見つけた。

それは兵士だった。

全身を大火傷し、鎧の金属と皮膚がくっついてしまっている箇所もあるほどだ。


タイタスは馬車を降り、近くにいた冒険者と共に兵士に駆け寄った。


「おい、大丈夫か!」


冒険者が声をかけるとわずかに手が動いた。


「うっ…ま、街…が…」

「街がどうしたんだ!おい!返事をしろ!」

「おい、大丈夫か?」

「……ドラ、ゴンに…街が焼かれ…皆死ん、だ…。」


そう言い切ると兵士の手から力が抜け動かなくなった。


「土の魔法使いはこの兵士を埋葬してあげてくれ。」


そう言われると何人かの魔法使いが地面に穴を開け彼の死体を穴に埋めていく。そこに持っていた剣を突き刺し墓標代わりとした。


「進路変更だ。イーニャ街は壊滅、よって隣の町のラターク街へ移動する。そこでこの依頼は完了とする。」


イーニャ街が壊滅してしまったため、依頼の品を届けることができなくなってしまったため、となり町まで移動する事になったタイタス商隊。


そしてしばらく街道を進むとイーニャ街とラターク街の分かれ道にさしかかり、商隊はラターク街の方向に曲がるとそのまま進んでいくのであった。

道中は魔物に襲われることがなく進んでいく。

いくらなんでも魔物や動物一匹にも出会わないというのはおかしなものである。


「こりゃあ、本格的にやばいかもな。」


アームがそんなことをつぶやいた。

それに鈴が反応する。


「ドラゴンですか?」

「そうだ。おそらく街に現れたドラゴンの気配に周りの動物や魔物は逃げたのだろうな。」

「となると、まだこの近くにいるかもってことですか?」

「見える位置にはいないが山には帰ってなさそうだ。」

「そうですか…気をつけないと行けませんね。」


鈴はそう言うと無意識にM4からHK417に変更していた。

ドラゴンという絶対的な脅威に晒されつつも、ラターク街へ移動していくのであった。




XM109ペイロード

この銃は25x59Bmm。25mm弾を発射する対物ライフルです。

弾倉は5発です。


鈴のお腹の傷

お風呂でもタオルで隠していましたが、実は鈴のお腹にはカッターナイフで刺された傷跡があります。

小学生の頃虐められており、その時におふざけで相手が構えたカッターナイフで刺されてしまい、あとが残りました。


もう一人の私

その時の恐怖から精神を守るために無意識に眠るもう一人の人格が表に出てきている状態です。

これはユングの心理学で語られる影と言うものです。

俗にいう二重人格と言うものです。

鈴の場合は自分の命に関わる場合に出てきます。



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