よくFPSで突入シーンでスローモーションになる時が有るよね、それもシステムアシストだ…。
街の入り口は守兵だった物が転がっていた。
街の中に入ると冒険者や兵士達が交戦していた。
しかし、盗賊の数が明らかに多いのだ。
冒険者と兵士達は次第に押され始めている。
「加勢するぞ!端のやつからやっていく!アイリス!」
「わかったわ。<炎よ!ファイアボール!>」
そう叫ぶと杖の先端に炎の玉が発生し端にいる盗賊へ飛来する。
ファイアボールにあたった盗賊は小さな爆発に吹き飛ばされ、服が燃え上がった。
「今のが魔法…?」
「そうだ。鈴も戦う準備をしておけ。」
「了解…。」
鈴はこの狭い通路やバックアタックに近い状態での戦闘ではアサルトライフルでは不向きなことに気がついていた。
アサルトライフルや狙撃銃はハンドガンと比べ、貫通力、威力が何倍も高く人体を貫通してその先に居る冒険者や兵士まで撃ってしまう可能性がある。
「MP5!」
再び光が手に集まると黒く少し大きめな銃が現れた。
それは短機関銃と呼ばれる物、サブマシンガンと言う物だ。
アサルトライフルとは違い、サブマシンガンは近接戦闘に特化しているのだ。
この狭い通路や人が多い状態では最適な銃である。
このMP5は三十発のモデルである。
鈴は孤立している盗賊にMP5の照準を合わせると引き金を引いた。
タッタッタッっと言う音とともに盗賊が踊るようにして倒れていく。
冒険者や兵士に当てないように同じように盗賊を撃っていく。
当然周りに気を配っている。
不意打ちされて死亡などシャレにならないからである。
アイリスと共に後方から支援をしているとMP5からカチンと言う音が聞こえてきた。
それは弾切れだ。
鈴はゲームと同じようにリロードを行うとレバーを倒し、初弾を装填した。
「そっちに二人行ったぞ!」
「任せて!アイリスはそのまま支援を続けて!」
「任せたよ。」
鈴は向かってくる二人の片方に素早く照準を合わせ引き金を引く。
銃声と共に盗賊が踊り倒れ、直ぐに隣の盗賊に照準を合わせ引き金を引いた。
二人の盗賊を倒すと後ろの建物付近から音が聞こえてきた。
直ぐに後ろを振り向くとこちらにナイフを突き立て突進してくる盗賊がいた。
この盗賊はこう思っただろう。
"魔法使いとガキ一人なら直ぐに殺せる"っと。
しかし現実はそうではなかった。
素早く振り向いた鈴が狙いを定めず引き金を引く。
何発かは外れて家の壁を貫通したが、大多数の弾丸が盗賊を蜂の巣にした。
鈴は念の為にまだ銃弾は余っているがリロードを行った。
肝心なときに弾切れになったら困るからである。
「ふぅ。奇襲も注意っと。」
「ありがとう。助かった、でもその音どうにかならないの?」
「こればかりはどうにもならない…わけでは無いんですが、この相手だとそれは無理です…いやできますね。」
MP5を消すと新たにMP5SD3を手元に出現させた。
「これなら大丈夫です。」
そう言うと盗賊の一人に狙いを定めて引き金を引いた。
パシュっと言う小さな音が連続してなったと思えば盗賊は踊るようにして倒れていく。
「それが有るなら最初から使いなさい。隣であんな音を鳴らされてたら耳が痛い。」
「す、すみません。」
アイリスと鈴はお互いに前衛の支援をしながら盗賊を片付けていく。
それに負けじと冒険者や兵士達も盗賊を押し返す。
やがて通路で交戦していた盗賊たちを全員仕留めると街中に冒険者や兵士達が散っていった。
恐らく残党刈りだろう。
イルミスのパーティもされに参加するようだ。
鈴は槍使いのアームと組まされ街中を散策することになった。
その際にMP5SD3は消し、ベレッタM92Fを出現させた。
街中を散策しているとアームが声をかけてきた。
「…最初は何処の馬の骨だかわからない怪しい奴だったが先程は助かった。」
「いえいえ。別にいいんですよ。」
「そうか。それにしてもその銃とやらは強いな。弓と違って連射が凄い。」
「ふふふ。近代兵器を舐めちゃいけませんぜ。」
「…そうか。」
その時家から音がした。
その音がした家には看板が立てかけられていた。
「この店の中に誰かいる?」
「そうだな…気をつけろよ。」
アームと鈴は足音を立てないように店の中に入っていく。
職業柄忍び足が得意なアームに対し、鈴はアシストの加護が有るためゲームと同じように歩いていた。
ゲームでは歩くと足音が消えるのだ。
歩きながら銃をいつでも撃てるように構えている。
少し中に入ると、奥に子供と女性の姿があった。
そしてそこには不釣り合いな男性の姿がある。
店の食料品を貪り食っているのだ。
アームが手で鈴を静止させると盗賊に後ろから近づいていく。
あと少しと言う所で問題が発生したのだ。
アームの姿を見つけた子供が声を出してしまったのだ。
「お兄さん助けて!」
「っ!?」
「あ!?」
アームは咄嗟に距離を取った。
それと同時に腰に携えていた剣を振るった。
盗賊はそのまま奥に入ると子供を蹴飛ばし女性を人質に取った。
「動くな!動けばこの女の命は無いぞ!」
「卑怯だぞ!彼女を離せ!」
「お前には言われたくないな。ひひひ。」
「畜生!」
幸いな事に鈴の存在は未だに気づかれていない。
鈴は一度普通のFPSゲームで画面が撃つタイミングにスローになるのを体験したことが有る。
あれは演出だがアシストによりきっと出来るはずだと踏んだ。
鈴はバレッタM92Fを構えアームの後ろから飛び出した。
その瞬間世界がスローモーションになったかの感覚に襲われた。
盗賊が驚く顔が見えるがそれと同時にいつでも撃てるようにしていたバレッタM92Fを盗賊の額に狙いを定め、引き金を引いた。
弾丸は銃声と共に一直線に飛び、盗賊の額に吸い込まれていく。
やがて弾丸が盗賊に当たると、世界が元に戻った。
スローモーションはアシストによる脳への影響のため実際には遅くなったりとはしてないのである。
首に当てていた剣が床に刺さり盗賊が額から血を流しながら倒れていく。
「ふぅ…。アームさん、介護してあげましょう。」
「…あぁ。鈴、今のは絶対の自信が有ったからやったんだよな?」
介護しながら鈴は答える。
「当たり前でしょ?私も馬鹿じゃない。でも絶対なんてありえない。」
「そうだ。どんなに熟練の戦士だろうが失敗する時は失敗する。だから今みたいなことは今後やるなよ。」
「わかったよ。…ほら大丈夫?お腹痛くない?」
鈴は蹴られた男の子を手当していた。
女性は怪我が内容でアームが持っていた手ぬぐいで返り血を拭きとっている。
鈴は蹴られたお腹を見て、痛くないかと聞くことだけしか出来なかった。
「(ぶっちゃけ…打撲なのかな?それにどうやって手当しろと…。自分から言い出してなんだけど…。)」
「こっちは終わったがそっちはどうだ?」
「うーん。お腹が痛いみたいなんだけど、こればかりはどうしようもないです。」
「アイリスが癒を使える。少し連れて行ってみよう。…お母さん息子さんの治療のために仲間の場所に連れて行っても?」
「はい。お願いします…。」
「子供は俺が抱えよう。その間槍を構えれないから援護してくれ。」
「わかりました。」
鈴はベレッタM92Fも消すとMP5SD3を出現させた。
「準備完了です。」
「それでは行こう。」
鈴を先頭に店から出て行く三人。
仲間のアイリスを探すためにアイリス組が向った地区へ三人は歩いて行く。
途中警戒しながら歩いていたが盗賊の気配は無く、他の冒険者や兵士と出会うばかりだ。
「先程から変な目で見られるのですが…」
「それは鈴が変な格好をしているからだろう。それは貴族の服か?やたら素材の良さそうな物を使っているように見えるが。」
「うーん。これはパジャマって言ってね、寝着なんだよ。」
「それが寝着か?相当高級そうだ。もしかして記憶喪失前は貴族の家出身なんじゃないか?」
「うーん。思い出せませんね…(真剣に考えてらっしゃる…なんかごめんなさい。)」
「そうか…今はアイリスの元に行こう。」
「そうですね。」
街中を歩いていると、徐々に町の人が戻ってきている。
店も開き始めているが、まだ盗賊の残党には警戒しているようだった。
「アームさん。一つ良いですか?」
「なんだ?」
「あの…足が痛いです。」
「…そうだったな。鈴は裸足だったな…どれあそこの店でブーツでも買っていこう。金は…持ってなさそうだし忘れてそうだな。」
「すみません。」
アームは警戒しつつも店を出している店主に話しかけた。
「こいつの靴を見繕ってくれないか?」
アームはそう言うと鈴の足元を指さした。
「あれま、裸足でここまで来たのかい?ちょっとまってな。」
そう言うと店主は店の奥に入っていった。
一分ほどだろうか、濡れた手ぬぐいを持ってきていた。
「お嬢さん、そこに座りなさい。とりあえず汚れた足を拭こう。」
「は、はい。…。(ちょ!ちょ!くすぐったい!くすぐったい!)」
「おい、鈴大丈夫か?」
「だ、だいじょう…ぶ。」
「ふむ。お嬢さんぐらいならこのブーツがおすすめですね。」
「おお!見かけによらず軽いし動きやすい!」
「店主。これいくらだ?」
「銀三枚です。」
「(銀三枚?お金の単位…あ!よくある金銀銅で区切られてるのかな?)」
「…銀三枚だ。」
「たしかに。毎度有難う御座いました。」
「ふふふーん。」
「上機嫌だな。」
「女の子にとってプレゼントは嬉しいものなのよ!あとお金の単位教えて!」
「そうなのか。金の単位すら忘れているのか。いいだろう。一銅貨が最小単位だ。そこから百銅貨を過ぎたら一銀貨になる。わかるか?」
「ええっと九百九十九銅貨の次は一銀貨ってことでいいですよね?」
「そうだ。飲み込みが早いな。」
アームにお金の単価を教えてもらった鈴はVRMMOとあまり変わらないことに気づき簡単に覚えることができた。
アイリス達の地区に入ると二人を探しだした。
この地区は盗賊が入り込んだらしく、家の扉などが壊されたりしていた。
「鈴、一応警戒しておけ。」
「了解~。」
家と家の間の隙間や家の壊れた扉など気を配りながら移動していく。
幸い盗賊たちは居らず、冒険者や兵士とすれ違うばかりだ。
そこにアイリス達二人組が居た。
「おーい。アイリス。ちょっとこの子をみてくれ。」
「ん?アーム?どうしたのよその子。」
「あぁ。家の中に盗賊が居てな、その時に腹を思いっきり蹴られたようでな。」
「ふーん。癒しよ。ヒール。」
アイリスが杖を少年の腹部に向けると魔法を唱えた。
緑色の温かい光が放たれ少年の腹部へ降りかかる。
「あれ?お腹治った!ありがとう!お姉ちゃん!お兄ちゃん!」
「おう。お、おい!一人は危ないぞ!」
「大丈夫!一人で帰れるから!」
そう言うと少年は走って帰ってしまった。
「それはそうと、そっちは無いにか無かったのか?」
「こっちには残党が多数居た。でも私達が来た時にはほとんどが倒されていたわ。」
「そうなのか。こっちは鈴が倒してくれたさ。」
「あら?アームは何をやってたの?」
「いやな、人質を取られて動くに動けなかったんだ。」
「アーム。人質をとられるとは何をしているんだ。」
「あの…アームさんを責めないでください。アームさんが悪いわけじゃないです。」
「…まあいいだろう。とりあえずギルドに戻ろう。」
そう言うと四人はギルドへ向けて歩き出した。
途中アラスが女性の冒険者をナンパしている所を見つけたアイリスが杖で頭を叩いて引きずって帰っていた。
アイリスは思いの外力が有るようだ。
ギルドに到着すると先ほどの騒動が有ったからか怪我の治療などで職員が足りなくなっている。
やっとの思いで受付にたどり着き話を聞くことが出来た。
「すまんがこいつの捜索願が出てないか調べてくれないか?」
「お名前は?」
「倉木 鈴だそうだ。」
「少々お待ちください。」
そう言うと職員は中央に置かれている水晶球に手をかざした。
そうするとコンソールが出現し、何かを打ち込んでいた。
水晶が二三度光ると職員が戻ってきた。
「捜索願は出されていません。また、指名手配、冒険者でもありません。」
「そうか…。」
「…あの!私冒険者になりたいです!(ギルドキタコレ!)」
「は?」
「だから冒険者になりたいです!」
「いいんじゃない?実力はもう見たし。」
「冒険者登録ですね。ではこちらの羊皮紙にお名前とクラスをお書きください。」
「…(しまった…文字が書けない。)。」
「?どうかしましたか?」
「…ああ。俺が代筆していいか?」
「結構です。」
そう言うとイルミスは羊皮紙に名前を書き込んでいく。
「クラスはどうする?」
「クラス?」
「そうだ。ようは戦闘スタイルだ。」
「んー。銃士?ガンナー?」
「なら銃士と書いておくぞ。」
イルミスは羊皮紙のクラスの欄に銃士と書き込んだ。
それを見た職員は見たことがないクラスに疑問をいだいた。
「失礼ですが銃士とは一体何なのでしょうか。もし出鱈目なクラスの場合登録することができません。」
「なら見せたほうが早そうだ。俺たちも初めて見たからな。」
「ではギルドの練習場へどうぞ。」
そう言われると六人はギルドの練習場へ移動していく。
練習場には鎧を来た木人が三体立っていた。
「ではお見せください。」
「あー。あの、この鎧に穴開けたら駄目ってことは無いですか?」
「言っている意味がよくわかりませんが、この鎧は元々廃棄予定の物なので壊れても問題有りません。」
「ならいいです。(インパクト強めの武器で行こうかな?アサルトライフル使ったことなかったな。使ってみよっと。)」
鈴はMP5SD3を消すとM4A1を出現させた。
ギルド職員はその光景に目を奪われる。
「撃ちます。」
鈴はゲーム通りの構えに入り照準を木人の鎧に狙いを定めると引き金を引いた。
ババババババっという音とともに先端が光り鎧を貫通し、中の木に突き刺さる。
弾丸は次から次へと鎧に穴を開け木を抉っていく。
鈴は二十発全てを打ち終えた時には木人は倒れ鎧は穴だらけになっていた。
M4A1を手元から消すと職員の方へ向き直した。
「どうでしたか?」
「え?…いいです。ギルド登録を認めます。」
「やったあ!」
「ところで!鈴、うちのパーティに入らない?」
「え?」
「いいじゃない。今のを見たでしょ?あれ程の強さが有るなら是非ともうちのパーティに入れたいじゃない。ね?リーダー?」
「そうだな。だが決定権は鈴にある。どうだ?うちのパーティに入ってみないか?」
「…(いきなりパーティ申請キター!これは乗るしか無い!)受けます!パーティ入ります!」
「よし。職員、すまないがそっちの処理も頼んだ。」
「わかりました。」
そう言うと再びギルドの受付に戻ってきた。
そこでプラスチックとも鉄とも思えないような材質のカードを手渡された。
鈴がそのカードを手に取った途端、顔写真と名前、クラスが表示された。
そして端には大きくFと書かれている。
「このFって言うのは?」
「それはギルドランクだ。FからAまである。ついでに俺たちはDだ。」
「ほへ~。Aってどうしたらなれるの?」
「二人から八人パーティでドラゴンを倒せるようになったらなれるな。」
「ま~。今の俺達じゃ無理だけどな。」
アラスがそう付け加えた。
「ドラゴンって強いんですか?」
「当たりだ。俺の剣なんて鱗にヒビひとつつけることすりゃできん。」
「ほほう。」
「さて、職員、ギルドの宿は空いているか?」
「少々お待ちください。」
職員は手元にある羊皮紙を確認する。
「二部屋あいております。」
「ならその二部屋借りるぞ。」
「わかりました。」
ギルド職員は番号の付いた鍵を渡すと次の冒険者の相手を始めていた。
「部屋割りはアイリスと鈴で、野郎どもは俺と同じ部屋だ。」
「そんな~。鈴ちゃ~ん。」
アラスはそう言いながらイルミスに引きずられていく。
相変わらずのアラスに鈴も苦笑いをする。