龍災害
伐採地帯を進む商隊と冒険者たち。
そろそろ元伐採キャンプのトルフ村が見えてくるはずだ。
「そろそろだな。」
「ああ。」
「そろそろってなんですか?」
「この先には元伐採キャンプのトルフ村があるんだ。」
「なる~。」
鈴はM4をぶらぶらさせながら、歩き疲れたと言うようにしている。
もちろん引き金には指を掛けていない。
「もう疲れました~。精神的にも体的にも…はぁ私の唯一の取り柄がぁ~。」
「まだ言ってるの?鈴はあくまでも後衛、それにドラゴン以外の魔物なら無双できるじゃない。」
「そうだけどさ~。勉強もあんまりできない私の唯一の取り柄があっけなく砕け散るってなんかショックじゃない?例えばアイリスから魔法を取ったら何が残る?」
「パーティのアイドルの地位が残るぶべ!」
アイリスの素早い杖の振り下ろしがアラスの頭を捉えた。
「ん~。確かに魔法がなくなったら何もないけど、そんなに悩むものじゃないと思うわ。」
「そっかなー。」
「そういうものよ。」
商隊が森を抜けると、丸太がたくさんおいてある村に辿り着いた。
タイタスが村長に事情を話すと村の隅に馬車を止めると、各商人は馬に餌を与え始め、冒険者達は一部の見張りを除いてフリー行動となった。
鈴は道を歩いていると村人の声が耳に入ってきた。
「おい聞いたか?山からドラゴンが降りてきたって話。」
「まじかよ!なんで降りてきたんだ?」
「分からないが、やり過ごした冒険者が言うには殺気立っていたとかいう話だぞ。」
「おいおい、それいつの話だよ。」
「ついさっきの話だよ。その冒険者はもうイーニャ街に戻っちまったからな。」
その話を聞いた鈴はピンっと一つの考えが思い浮かんだ。
「ちょっと…対策しておこうかな。」
鈴は誰にも見つかれないように一人雑木林に入って行くと、一つの銃を出現させた。
それは今までの銃とは全く違うフォルムをしており幅も大きい。
鈴は使い方を知識から瞬時に覚えると、木を的に射撃体勢に入った。
二つある安全装置を解除する。
それと同時に銃本体から高周波のようなキーンと言う音が鳴り始める。
同時に赤色のLEDが点灯する。
そして十秒ほど経つとLEDが赤色から青色に変わった。
それと同時に引き金を引く。
一瞬電気が放電する音と共にタングステン合金弾が銃口から発射され空気を勢いよく叩いた。
それは雷のような轟音だった。
衝撃波によって発生した風が鈴の髪をなびかせる。
弾丸が発射されると同時に銃身が開放され、液体窒素が排出され大電流や、摩擦により加熱した銃身を冷却する。
タングステン合金弾は木を貫通すると更に後ろの木まで貫通していく。
四本目の木で弾丸が止まり、光となって消えていく。
最初に貫通した木は接触時の衝撃により大きくえぐり取られている。
そこから中小と被害が減っている。
冷却が終わると銃身はもとに戻りLEDは赤色に戻った。
「ふぅ…。さすがUSA、とんでもない兵器作ってるなぁ。」
鈴が撃った銃はレールガンと呼ばれる銃火器だ。
電磁誘導により弾丸を超高速で撃ち出す銃といえる。
普通の銃は火薬を使うが、レールガンは電力で撃ち出す兵器だ。
鈴は対ドラゴン用兵器としてこのレールガンを使う為に試射をしたということだ。
「これなら貫通できそうかな?」
このレールガンに使われている弾丸はタングステン合金弾である、
APFSDSと同じもので出来ている。
このレールガンは弾丸にある運動エネルギーにより相手の装甲を侵徹するためどんな装甲だろうと一時的に無効化することができる。
これならドラゴンの鱗でも貫通できるだろう。
「よし。これでいいかな。…たぶん今のでイルミス達にはバレただろうけど。」
そう言っていると後ろの雑木林からガサガサと言う音が聞こえてきた。
鈴はレールガンを地面に突き立てながら振り返る。
雑木林から出てきたのはアームだった。
「何やら銃声が聞こえたと思ったら…またでかいの持ってるな。」
「これね、レールガンっていう銃です。」
「何か今までの銃とはデザインも名前も違うな。」
「まだ実用化されてなかった兵器なんですよね。だから名前もそのまま出し、デザインも違うんです。」
「で、試し撃ちでもしてたのか?」
「はい。対ドラゴン用兵器として使う予定なのでその試し撃ちに。」
「対ドラゴンってドラゴンと戦うつもりなのか?」
「アームさん。親は行方不明になった子供どうしますか?」
「それは探しに来るだろう。…まさかそれを想定しているのか?」
「はい。この周辺でドラゴンを見かけたという話を聞きました。それに遭遇した時のためにこうやって予め試し撃ちをしていたのです。」
「そうか。俺たちも気をつけないといけないな…。」
「試し撃ちは終わったんで戻りましょうか~。」
「そうしよう。もうすぐ日が落ちる。」
鈴とアームは村へと戻っていく。
村の宿は冒険者で溢れかえり、女性の冒険者を優先的に部屋を譲っている。
「さて…私の部屋はあるのかな?」
「たしかアイリスが部屋を取っていたと思ったぞ。」
「そうなんですか。それでアイリスは…。」
周りを見渡してもアイリスは居らず、部屋がわからない。
「そっか。受付に聞けばいいんだ。」
鈴は受付に立っている男性に声をかけた。
「すみません。アイリスと言う冒険者が止まっている部屋番号を聞きたいのですが。」
「アイリス様とどういったご関係で?」
「パーティメンバーです。」
「分かりました。アイリス様の部屋番号は七号室です。」
「ありがとうございます。アームさん私部屋行っていますね。」
「分かった。ゆっくり休めよ。」
「はーい。」
鈴は七号室へと向かっていった。
部屋の前につくと扉をノックする。
中から返事が聞こえ、アイリスが顔を出した。
「誰かしら…鈴じゃない。」
アイリスは扉を開け放つと鈴を招き入れた。
「鈴も部屋数に入れてあるから二人部屋よ。」
「アイリスありがとう!」
「そういえばこの村浴場があるらしいよ。」
「本当!アイリス入りに行こうよ!」
「いいわね。ちょうど戦闘もあったしいい機会ね。」
「そうと決まればしゅっぱーつ!」
鈴とアイリスは村の浴場に向かうべく部屋を出ると扉に鍵をかけ宿から出て行ったのであった。
この村は山の近くと有って温泉が湧き出ている。
これを利用したのが浴場となっているのだ。
「ええっと女性が右側か。」
鈴が入ると直ぐ様外に出てきた。
「右男じゃない!!」
そう言うと少し顔を赤くした鈴がアイリスを連れて左側へ入っていった。
実はアイリスは最初から左が女性だと気がついていたのだが、あえて言わずに行かせたのだった。
「まだまだ習字はできてないね。」
「う、うるさい!ほらさっさと脱ぐ!」
「はいはい。あとでまた勉強ね。」
「ぐぬぬ…勉強したくない…。」
話しながら服を脱ぎ下着を外す。
そして浴場に入っていく。
浴場は温泉の湯気で少し曇っているが久しぶりの温泉だ。
鈴は桶を手に取ると温泉からお湯を掬い、頭から被った。
「ふへー!気持ちいいな。ちょっと久しぶりのお風呂だったからね。」
「そういえばそうね。」
「さて!体の汚れも落ちたことだしお湯に浸かりますか♪」
「のぼせないようにね。」
鈴とアイリスは湯の中へ入っていく。湯の中には他のパーティの冒険者も入っている。
「それにしても…。」
「な、なに?」
「アイリスって胸大きいよね。」
「と、突然何よ?」
鈴はアイリスの後ろに回りこむと脇の間から手を伸ばし胸を鷲掴みにする。
「柔らかいし、大きさもいいし、崩れてもいないし…少し私に分けるべき!」
「ん…ちょっと鈴やめて!ほら他にも人いる、し!」
「ん~。しょうがないな。」
「はぁ…鈴、アラスみたいな行動はやめなさい。」
「胸のサイズは気になるのだよ。」
その発言に周囲の女性は自分の胸を見るのであった。
一方男湯では…
「おい、アラス何やってるんだ?」
「何って聞き耳立ててるんだよ!」
「鈴ちゃんとアイリスちゃんが何かやってるみたいなんだよ!」
「馬鹿なことしてないでさっさと警備に戻るぞ!」
「あ、ちょ!髪の毛引っ張らないで!」
イーニャ街ギルド
「ちくしょー!また負けた!」
「へへへ。今日の支払いはお前な。」
「くそー。二日連続とはついてないぜ…。最近食べ物の価格が上がりまくってるからよ~。」
イーニャ街のギルドではいつもと変わらない夜だった。
職員もいつもと変わらない夜を過ごしていたがギルドネットワークにとある情報がアップロードされた。
『オーガ素材回収員全滅、各ギルドは注意すべし。現在調査中。』
「物騒なことが起きたな。」
「そうですね。回収員が全滅なんてどういうことでしょうか…。」
「オーガの素材を横取りしようとした国の尖兵でもいたんじゃないか?」
「どうでしょうか…これ以上の情報は回ってきていないのでわかりませんね。」
「確かオーガ討伐はルドルフ皇国とルーツ国の国境沿いだったよな。」
「えっと…そうですね。そう記録があります。情報発信源もルーツ国です。」
「どういうことだ?そうなると他国が入り込んでいるってことか?」
「どうでしょうか…ギルドは常に中立なので襲われる覚えはないのですが…。」
職員が話していると高い食事代を払っていた冒険者が話しかけてきた。
「中立でも邪魔するなら排除する。これが世の中さ。」
「嫌な世の中ですね…。」
すると外が騒がしくなってきた。
「外が騒がしいな。」
「それに何か明るくないですか?」
「ちょっと窓から見てみる。」
男性の職員が窓を開け、空を見上げると炎弾がギルドの建物に向けて迫ってくる光景が写っていた。
「え―」
地響きとともに炎弾が着弾し大爆発を起こした。
その衝撃波により周りの建物も吹き飛ばされる。
そして火災も発生し、イーニャ街の一部が火に包まれた。
同時刻ルーツ国王都ギルド
「あれ?」
「どうしたの?」
「なんかイーニャ街のギルドとネットワークが分断されたみたいで、再接続を行ってるんですけど、応答しないんです。」
「どれどれ貸してみて……あれ?おっかしいなぁ。接続できないね。」
「とりあえずギルドマスターにこの事を伝えてきてくれる?」
「うん。わかりました。」
「どういうことだろう…繋がらないとなるとただの故障かあるいは放棄せざることが起きた?回収員の全滅と言い何が起きてるの?」
イーニャ街
街に泊まっていた冒険者達、兵士達は総出でドラゴン撃退に出ていた。
しかしドラゴンは上空から降りる気がないらしく空から炎弾や火炎放射を繰り返し行なっている。
街も兵士も冒険者も民も次々と焼かれ、ドラゴンの圧倒的な力の前に消えていく。
その時一部の兵士が蔵においていた投石機を使いドラゴンに大岩をぶつけた。物理的ダメージは与えられていないようだが不愉快だったようでドラゴンは一旦地面に降り立つと投石機に向かって直進していく。
冒険者や兵士はこの好機を逃さないように攻撃するが鱗の表面に張られているシールドにより鱗にさえ剣や槍が届かない。
「くそ!次弾の装填を―うわあああああああああ!」
ドラゴンは腕を振りかぶると投石機を破壊する。
そして周りに群がっている人間をなぎ払い再び上空へ羽ばたく。
「回避!回避!かい―」
その瞬間ドラゴンから炎弾が放たれ、下で倒れていた兵士や冒険者を大量に葬り去っていく。
その一撃に戦意を削がれたのか兵士や冒険者達は一斉に逃げ出していく。
ドラゴンは街を完全に瓦礫に変えるまで暴れ回り、そこに街があったとは思えないほど破壊の限りを尽くしたのだった。
ドラゴンは街を破壊し終えると空高く舞い上がり特大の炎弾を生成し始めた。
魔力に余力があるドラゴンは使える分の魔力すべてを注ぎ込み炎弾を街の中心へと放ったのだ。
炎弾が着弾した瞬間、空高く煙が舞い散る程の爆発と轟音が街全体を飲み込み、逃げ遅れた人間すべてを焼き殺し、巨大なクレーターを創りだしたのだった。
さすがにこの一撃にはドラゴンも消耗したらしく近くの森へ休みに戻ったのだった。
鈴達が風呂を終え部屋に戻り寝る準備をしている頃それは届いた。
窓ガラスをガタガタと揺らすほどの轟音がどこからか聞こえてきたのだ
「な、なに!?」
「なんの音ー!?」
鈴とアイリスはすぐに表に出るとあたりを見渡した。
すると一人の冒険者がある方向を指さし叫んだ。
「見ろ!」
鈴には見覚えのある物だった。
それはきのこ雲。
この世界には核爆弾はないがそれに匹敵するようなものはある。
それは魔法だ。
きのこ雲は局所的に熱エネルギーが開放されることによって起きる現象である。
「あれは一体なに?」
「あれは巨大な爆発だよ。」
「爆発?あれが?ちょっとまってよ、そんな巨大な爆発なんて誰が起こせるの?」
アイリスが疑問を抱くと冒険者の一人がぼやいた。
「あれ…?あの方向ってイーニャ街じゃないか…?」
その一言に周りはざわめき始める。
「え?アイリスそれって…。」
「本当。あの方向はイーニャ街。もしあの爆発がイーニャ街で起きていたなら…。」
「そ、それじゃ街の皆は死んだの?」
「…そうなるね。」
「…。」
次第にざわめきも収まり各自の居場所に戻っていく。
鈴とアイリスも部屋に戻りベッドで横になっていた。
「アイリス起きてる?」
「起きてるよ。」
「あの爆発ってどう考えてもドラゴンだよね。」
「どうしてそう思う?」
「話を少し聞いたんだけど、殺気立ったドラゴンが居たって話。」
「なにそれ。それじゃそのドラゴンは腹いせに街を壊滅させたの?」
「…違うと思う。あのチャイルドドラゴンの襲撃を思い出して。あの時馬車ではなく冒険者しか襲わなかった。これから考えられることは人間に刺激されたチャイルドドラゴンが襲ってきた。でもチャイルドドラゴンを襲った時には親のドラゴンは居なかった。で、ドラゴンが戻ってきた時には人間が居て子供が居ない。親の怒りの対象が人間に無いたんじゃないかな?」
「…前の事と言い鈴の発想には驚かされる。ってことは親は巣を人間に荒らされたから仕返しに街を壊滅させたってことね。」
「うん。」
「でもそうなると我が子を見つけるまで暴れまわりそうね…その子供は私達が討伐してしまったし。」
「ドラゴンを討伐するしかないってことだね。」
そこで話は途切れ、鈴とアイリスは眠りに落ちていった。
イーニャ街はドラゴンの全力の炎弾により壊滅いたしました。
*モンロー効果を間違って使っていたため修正。
レールガンは運動エネルギーなので違いました。
なんでこんな間違いをしたのだか…。




