陰謀の影3 襲撃
アルルト村から戻ったシュバルツは満月が照らす夜の道をオーガとワイバーンを連れて直ぐに向った場所があった。
「行きなさい。私のオーガ達。後ワイバーン達はあの人間を持ってきてください…さて楽しい茶番の始まりですよ。」
シュバルツが見下ろしているのはドラゴンの巣だ。
成体のドラゴンは今子に与える餌を取りに行っている為、巣には居ない。
今はオーク位の大きさのドラゴン、チャイルドドラゴンが六匹巣の中で寝ていた。
そこへオーガ二匹が滑り降りてくる。
その物音にチャイルドドラゴンは起きだし、そちらに目を向ける。
もちろんのことながら降りてくるオーガに警戒を始めた。
オーガは巣へ降り立つとチャイルドドラゴン達を攻撃し始めた。
「ぴぎゃあ!」
オーガがチャイルドドラゴンを踏み潰すがその強固な鱗と骨格、そして鱗表面に無意識に張られているシールドに衝撃が和らげられ、致命傷には至らない。
一匹が攻撃されたことによりチャイルドドラゴン達はオーガに攻撃を始める。
例え子供だろうとドラゴンの本能がそうさせる。
一匹が炎弾を口から飛ばすが黒いオーガが盾となった。
黒いオーガに炎弾が当たり、炸裂するが黒いオーガには傷ひとつ無い。
そしてここからは一方的だった。
オーガに蹴られ投げられ殴られ、一方的に攻撃をされていた。
しかし、致命傷になる攻撃は一回も受けていない。
チャイルドドラゴンは徐々に疲労して行き動きが鈍くなってきている。
そこに一人の人間がワイバーンから降ろされた。
その人間は生気のない顔でチャイルドドラゴンを見ると剣を構え、常人ではありえない速度で走りだし、剣をチャイルドドラゴンに突き立てた。
度重なる攻撃によりシールドがなくなり、疲労から油断していたチャイルドドラゴンの鱗に剣が突き刺さる。
剣は鱗で易易と弾かれるが、そのまま滑り鱗の間に入り込み肉を突き刺す。
「ぴぎゃああああ!!!」
チャイルドドラゴンは体に傷を負い、切りつけてきた人間を吹き飛ばすと六匹と共に巣から逃げ出していった。
「?」
その時親のドラゴンは異変を感じ取った。
直感だが嫌な予感がしたのだ。
ドラゴンを直ぐに翼を広げると巣へ戻っていく。
そこで見たものは血が付着した巣、そしてそこに転がっている人間の姿。
ドラゴンは普通の魔物と違い高い知能を持っている。
それ故に倒れている人間の姿を見て我が子を襲ったのは人間だと決めつけてしまった。
決定的な証拠がそこに転がっているのだから。
「グオオオオオオオオオオオオオオ!」
ドラゴンは人間の死体を踏み潰すと、その瞳は怒りで燃えていた。
何事も無く夜が明け、明け方の頃鈴は珍しく早起きした。
「ん~!よく寝た!お?」
鈴の視界に一人の兵士が目に入った。
それは以前にもあったことが有る兵士だ。
まだ鎧は新しく、剣の振り方にもブレが有る。
オーガ討伐時に合った新米兵士のようだ。
鈴は何となくその兵士に近づいていった。
「おはようございます。朝から精が出ますね~。」
「え?あ、お、おはようございます!」
「君はいつから此処に配属されたの?」
「え、えっと、自分は一ヶ月前に此処に配属されました!まだ兵士初めて四ヶ月のひよっこです!」
「四ヶ月かー。私もそれくらいの時は結構ひどかったなぁ。」
鈴はVRFPSを初めて四ヶ月ぐらいを思い出していた。
VRと言えど初めて触る銃火器。従来のゲームとは違いモーションなど無いから慣れている人と慣れていない人では違いが大きいのがVRゲームだ。
いくらアシストがあるといえど新人の動きは無駄が多く、状況判断が甘い。
突撃した瞬間スナイパーに頭を撃ち抜かれたり、物陰に隠れてリロードしていたら手榴弾が飛んできたりと、デス数を稼ぐ隊員となっていた。
「冒険者の方も大変なんですね。」
「え、ええ、まぁ…。そうだ!模擬戦しようよ!模擬戦!私も剣を振るってみたい!」
「も、模擬戦ですか?」
「そうそう。私も初心者だから大丈夫。模擬刀ある?」
「ありますが…。」
「じゃ!持ってきて!早く早く!」
「は、はい!」
新米兵士は関所の中に模擬刀をとりに走りだした。
「この間はイルミスに負けたけど、新米兵士には負けないぞ…フフフ…あの時は動物用の動きだったけど、今回はイルミスやアーム、アラスの動きを見てきたからね…フフフフフフ…。」
鈴からは黒い気配が漂っていた。
そこに二人分の模擬刀を持って走ってくる新米兵士が視線に映った。
と、そこで新米兵士が石に躓いて剣を投げ出し盛大に地面に倒れたのだ。
「ぐふぅ!」
「あ、コケた。」
「あいてて…。」
「大丈夫?」
鈴は転んだ兵士に手を伸ばした。
兵士は顔をあげると朝日をバックに微笑んでいる鈴の素顔が目に入った。
「は、はひ!大丈夫です!」
兵士は赤くなりながらも鈴の手を取り、起き上がった。
「大丈夫?顔赤いよ?」
「え?あ、な、なんでもありません!大丈夫です!」
「? そう?」
「はい!あ、も、模擬刀です。」
「ありがと。」
鈴は模造刀を持つとVRMMOの方のアシストを意識し、戦い方を思い出した。
「今までは後衛で銃ばかりだったから、剣は久しぶりだなぁ。」
「そうなのですか?その割には剣の構えがしっかりしているように見えるのですが。」
「まぁ、体が覚えてるというかなんというか…ね?」
鈴が笑顔で兵士にそういう。
兵士は顔を赤くしながら俯いた。
「そ、そうなんですか。」
「ささ、やろう!」
「はい!」
鈴は素早く動くと軽いフェイントを入れ、加護で得た身体能力とアシストを駆使して体を横にずらす。
そのまま体勢を低くし、剣を兵士に突き入れる。
「っ!?」
兵士は間一髪で鈴の攻撃を躱したが、鈴の突きがそのまま横の薙ぎ払いとなり兵士を襲う。
咄嗟に剣を盾にする。
金属音が鳴り響き二三歩後退する。
「連撃ってね!」
鈴は片足を軸にすると体を捻り剣を頭上から振り下ろした。
兵士はそれを剣で受け流すと鈴に剣を振るった。
「太刀筋が遅い!」
鈴はそれを回避すると隙だらけの胴に剣を振るった。
「しまっ!」
兵士は回避することが出来ずに胴に剣を受けてしまったのだ。
「ふぃ…一回死亡ね。」
「ま、負けた…。」
「前より動けるようになったなぁ。やっぱりイメトレとか見て技を盗むのは重要だな。うん。あ、そうだ。君名前は?」
「ぼ、ぼぼぼ僕ですひゃ?」
「…。」
「…。」
「ぷ…アハハハハ!」
「わ、笑わないでください!」
「ご、ごめん!でもおかしく…アハハハ!」
「うぅ…。」
「ごめんごめん。名前は?」
「僕はテアム・エイジと言います。」
「エイジ君でいいのかな?」
「は、はい!それで結構でしゅ!」
「…でしゅ…あはははは!」
「笑わないでくださいー!」
「なあ、あの二人なにしてるんだ?」
「さぁ。何か模擬戦をしていたみたいだが鈴が勝ったようだぞ。」
「そうなのか?鈴の剣は動物用じゃなかったのか?」
「そうだが、少し進歩したようだ。動きが前とは明らかに違っていた。」
「そうか。若いっていいな。」
「そうだな。」
遠くからアームとイルミスは二人を見て楽しんでいた。
そして関所では上官が全てを見ていた。
「こぉら!エイジ!お前そこでなんで負ける!いつも気をつけろと言っているだろ!」
「あ!じょ、上官殿!おはようございます!」
「そんなことはいい!特訓だ!」
「は、はい!」
「…この剣お返ししますね。特訓頑張ってください。」
「はい!頑張ります!」
「お?今日はやけに元気そうだな!今日はいつもの二倍だ!」
「え?ちょ、上官殿それは―」
「よし。ランニング二時間だ!」
「ひえええ!」
新米兵士はこれからいつもの二倍特訓をするようなので鈴はそっと離れた。
誰のせいなのかは本人が一番気がついていない。
「うーん!いい運動だった!」
「剣の扱い上手くなっていたな。いつの間に訓練してたんだ?」
「してないですよ。ただ見て覚えただけですよ。後は加護で。」
「なるほど。加護は便利なものだな。」
「便利ですよね~。」
「そろそろ補給物資から朝飯でももらってこよう。」
「そうですね。貰ってきましょう。」
そう言うと冒険者の物資を積んだ馬車へ向かって行く。
既に何人かは物資をもらい朝食を食べている。
「すみません。朝食ください。」
「俺の分も頼む。」
「はいよ。」
補給物資を担当している商人は後ろの袋から干し肉と大樽の栓を抜くと小樽に水を二人分入れ、手渡した。
「ありがとうございます。」
「ありがとな。」
二人は馬車から少し離れると朝食を食べ始めた。
「干し肉も美味しい。」
「野菜や果物は場所を取るし、腐りやすいからな。腐りにくい干し肉になるんだ。それに安いしな。」
「はむ…。」
「返事するのか食べるのかどっちかにしろ。」
二人は朝食を食べ終え、小樽を返却すると配置につく。
アイリスは今日も元気だ。
「魔物でも賊でもなんでもかかってきなさい!」
「昨日からこの調子なんだ…眠くてしょうが無い…。」
「イルミスさん…。」
そんな話をしていると前方から声が聞こえてくる。
「出発準備!」
「出発準備だぞ。そういえばアラスはどこ行った?」
その時アラスは後ろの方で他パーティの女性をナンパしていた。
「こんど飲みに行かないかい?」
「い、いえ。結構です。」
「おい!うちのメンバーに何して―」
その時蒼白の炎と銃弾がアラスの足元に着弾した。
炎はアラスを囲うように広がるとその熱でアラスを炙る。
「危な!あっつ!熱い!」
「アラス…何やってるのよ。燃やすわよ。」
「ちょ!もう燃えてるって!アイリスちゃん!熱いからこれ消して!」
「ごめんなさい。アラスさんが迷惑をお掛けしました。」
「…あ、いえ。良いんです。」
「そ、そうだな。反省してくれればいいんだ。」
アイリスが炎を消すとアラスを引っ張っていく。
「…。」
「…あのパーティには喧嘩は売りたくないな。」
絡まれていたパーティは魔法が蒼白の炎で有ることと、見えない何かが地面を抉った事を捉えていた。
炎ならまだしも、銃弾に気がついたことは鋭い観察眼だろう。
「出発!各馬車は列を乱すな!」
そう言うと国境の門が開き、商隊が動き出した。
十三台の馬車が国境を超えるとここはルドルフ皇国だ。
干ばつにより国の食糧事情が傾いている現在、この食料物資をいち早く届けなければならない。
「おっと、さっきアラスさんに弾使っちゃったからリロードしておこう。」
「鈴ちゃん…。」
「何ですか?」
「なんでもないです…。(とほほ。鈴ちゃんまで染まってしまった…。)」
「今何か考えてなかったかしら?」
「考えてないです。はい。」
国境を超えてから一時間ほど経った頃だろうか。
森が切り開かれ、街道の脇が十メートルほど更地担っている場所を商隊は移動していた。
「ここは伐採場だな。街道も近いからここで木を切っていたんだな。」
「そうなんですか?」
「ああ。こうすることで賊や魔物避けにもなるんだ。見晴らしが良くなるからな。」
「でもそれって逆に賊に待ちぶせ…んん~?」
「どうした?」
「今は干ばつで食料も取れずに盗賊達はどこから食料を仕入れているのかなって思いまして。」
「それは商人や村を襲って確保しているんじゃないのか?」
「でも考えてください。今此処に大量の食料があります。もし、この移動がバレていたら今此処で襲われる可能性が高いと思いませんか?」
「…!そうだな。まだ確定したわけではないが気をつけろ。」
「了解。」
商隊が伐採場の中央当たりに差し掛かると、前方を警戒していた冒険者パーティの一部が視界からいきなり消えた。
タイタスはその異常に馬を止めると後ろの商隊も動きが止まった。
商隊や冒険者も何事かと騒ぎ始めた。
メンバーが消えたパーティは消えた場所を注目した。
そこには落とし穴が掘られていた。
しかしそれは中がくり抜かれたようになっており、最初からそうなっていたとしか思えないような落とし穴だった。
「魔法使いだ!敵襲だ!商隊を守れ!」
それと同時に盾を持った盗賊らしき男たちが茂みから飛び出してきた。
後衛の弓士と魔法使いが攻撃するが、盾と距離があって効果が今ひとつだ。
炎系の攻撃は回避されるが放たれた矢は盾で防がれる。
前衛が走りだし遊撃に掛かる。
が、しかし遊撃に掛かった冒険者が視界から消えていく。
落とし穴だ。
盗賊は数をトラップで補おうとしている。
「なっ!?畜生!こいつら!…うわ!?」
盗賊は誘導するかのように移動すると冒険者達を地面に落としていく。
「反対側からも来たぞ!落とし穴に気をつけろ!」
「手が開いている者は落とし穴から助け出せ!」
「畜生!うかつに近寄れねえ!」
冒険者達が近づけずに苦戦しているとイルミスが鈴に指示を出した。
「鈴!撃て!」
「了解!」
鈴はM4を構えると盗賊に狙いを定め発砲した。
5.56mm弾は盗賊の安っぽい盾を貫くと敵の体に突き刺さる。
M4にはサプレッサーが装着されており、曇ったような銃声が聞こえてくる。
近くに居た他のパーティの冒険者は何の音かと鈴を見るが、音がした瞬間に敵が倒れていく光景が見える。
「余裕です。」
「これは…<魔力よ、盾となれ!シールド!>」
そう言うと鈴の隣でシールドを展開した。
そこに赤い炎が衝突した。
「ありがとうアイリス。」
「気をつけて、あの茂みの中に魔法使いがいるみたい。」
「了解!」
鈴はシールドで守られている間にリロードを済まし、茂みに向って制圧射撃を行う。
特にファイアボールが飛んできた方向に行った。
ここからではあたったかわからないが何かあればアイリスがシールドを張ってくれるだろう。
「それ!これでももう一発貰ってけ!」
直ぐにリロードをすると茂みに横から薙ぎ払うように射撃をする。
カキンと音がなる。
弾切れのようだ。
鈴はリロードを行うと直ぐに反対側の援護へ向かう。
そちらも同じようにトラップの後ろで煽っている盗賊にM4の5.56mm弾を撃ちこんでいく。
冒険者達の視線は鈴に釘付けである。
盗賊は突然のことに驚きを隠せない。
仲間が次々と倒れていくのだ。
しかし、そこへ予想外な訪問者が現れたのだった。
「ぴぎゃあああああ!」
盗賊、冒険者、商人達が同時に空を見上げた。
そこには六匹のチャイルドドラゴンが空からこちらに向かってきていた。
前回のアレです。
盗賊の視察が商隊を発見したのです。
干ばつの影響により盗賊にも影響が出ていたため、倍近くいる冒険者がいる商隊を襲わざる負えなかったのです。
そこで土の魔法使いを使い落とし穴を作成しました。
本来の作戦では落とし穴に落とし、弓や魔法で冒険者を始末し、穴に落ちた冒険者は生き埋めにする作戦だった。
しかし、鈴がいた事により前衛は殺られ、制圧射撃により土の魔法使いが負傷してしまったため作戦が破綻してしまったのだった。
後、シュバルツが持っていた人間の死体はシュバルツに剣を投げたギルドの回収員です。




