オーガ討伐4 闇
サブタイトルを考えるのがめんどくさくなったとかネタが思いつかないとか、そういうのはきっとキノセイです。
「あ!イルミス!なんで置いてったのよ!」
「いや、アイリスお前寝てただろ。」
「それはその…それはそれ!起こしてくれてもいいじゃない?」
「鈴が起こしたが…。」
「え?」
「え?」
話は皆が王都に戻ってきた時まで遡る…。
王都に帰ってきたイルミス達はとある噂を聞いていた。
なんでも蒼白の炎を使う魔法使いが魔物を荒狩りしてるとか。
「そういえばあの魔法使いは鈴と交換されたはずだが。」
「そうだね。新しい使い手が現れたのか…な……。」
「どうした?」
「あの、一人心当たりが有ります。それも皆が知ってる人です。」
「まさかアイリスって言う訳じゃないだろうな。」
「…その通りです。私が少しあっちの常識をアイリスに吹き込んだので…。」
「ああ、あの時言ってたアレか。」
「で、私が寝る前までには青い炎を出せるようにはなっていたのですけど…。」
「何…?そんなに簡単にできるものなのか?」
「子供が習う常識なので、魔法が理解できる頭が有れば直ぐに理解できると思います。」
「…そうか。ということは、アイリスは置いてかれた腹いせに魔物狩りをしているついでに魔法の練度を上げたということか。」
「そうなりますね…。」
「…とりあえず俺は魔法商店に行ってくる。このオーガの骨を何とかしたいからな。」
「了解です。」
「では皆は先に宿へ戻っていてくれ。」
そう言うとイルミスは骨を抱え、魔法商店へ向かっていった。
エリス達とは王都に入った時に別れていたので、現在は三人だけだ。
「戻るとするか。」
「その前に汗とか流してきてね。」
「む、そうだったな。アラス行くぞ。」
「おう。何なら鈴ちゃんも一緒にはい―すみませんでした。」
鈴は笑顔で銃をアラスに向けていた。
「鈴もアラスの扱いに上手くなってきたな。」
「そりゃないぜ…。」
「じゃ、私は先に帰ってますね。」
「わかった。それでは後でな。」
三人が行動を起こしてからのこと。
イルミスは魔法商店近くまできていた。
「(アイリスが厄介そうだ…前にも一度合ったが、あの時は危うく消し炭にされるところだったからなぁ…。今回は後も残らなそうな気がするぞ…。)」
そんなことを思いながら人混みの中を歩き、魔法商店と書いてある店の前まで到着した。
王都の店だけあって立派である。
外装は赤いレンガで作られており、ショーケースには如何にも高そうな杖が並んでいる。
イルミスは片手でドアを開けるとチリーンっと音が鳴り響いた。
「はいはい。いらっしゃいませー。」
「すまないがこれを杖に加工してもらいたい。」
「おお?これは…オーガの骨か?」
「流石だな。しかも変異種のだ。」
「変異種!?そりゃあたまげた!こいつを使えば家一つ買える杖ができるぞ。」
「そりゃあすごいな。どうだ?引き受けてくれるか?」
「おうよ。任せておきな!それでこいつは仲間の魔法使いにプレゼントするのか?」
「ああ。」
「よし!それならちょっと相談が有るんだが…。」
「なんだ?」
「実はな、ちょうどミスリルと魔石が入荷しててな。もし良かったら値段が少しばかり張るがそれを使って作らせてもらいたいんだ。」
「そこの所詳しくなくてな。それを使うとどうなるんだ?」
「ミスリルは魔力伝導性が高いんだ。更にそれを魔石につなげて効率よく魔力を増幅するんだ。」
「つまり、この骨の持つ魔力とミスリルの伝導性、そして魔石の増幅効果で凄いことになるってことか。」
「簡単に言うとそうなるな。」
「で、値段は?」
「加工の段階で骨の余分な部分が出るから、それを魔法媒体として売るとして…魔石が一金貨だ。ミスリルは…あの細工だと…六百銀貨か。後は術式を書き込むのに五十銀貨ってところか。合計一金六百五十銀貨だな。」
「いいぞ。請求書はギルドにイルミス・カーボイドで出しておいてくれ。」
「ギルドに請求っと。直ぐに作り始めるから二~三日待ってくれ。」
「わかった。」
「最高のものに仕上げてやるからな!」
「期待している。」
そう言うとイルミスは魔法商店から出る。
「さて。ギルドに向かうか。報告をしなければならんな。」
イルミスはギルドへ向けて歩き出した。
その後何が起きる事も知らずに。
「イルミスめ!私を置いてって!この燃えろ!<蒼白の炎よ!世界に満ち溢れる酸素よ!我の力の糧とし、ここに集い炎よ燃え上がれ!蒼白の炎弾!>」
アイリスが怒りに任せて魔法を詠唱すると蒼白の炎の弾が数個生成され、魔物へ向って勢い良く飛来する。
それはファイアボールの飛来速度の比ではない。
形は榴弾に似た形状をし、空気抵抗が少なくなっている。
これはアイリスが鈴の銃の真似をしたからである。
魔法にあたった魔物は着弾地点から蒼白の炎に包まれ膨大な熱量に体を一瞬にして焼かれ、絶命して行く。
炎は魔力によって蒼白を保ったままであり、温度は決して下がることはない。
温度が下がる時は対象が焼け死ぬか込められた魔力が尽きる時だ。
「これで終わり!…ちょっと疲れた…ギルドに帰って少し休もうかしらね。」
アイリスはそう言うとギルドへ戻って行くのであった。
「オーガの討伐終了です。お疲れ様でした。今回変異種が一体居たので報酬が上乗せされます。報酬は一金二百銀貨です。オーガの素材はどうなさいますか?」
「エリスのパーティから聞いていないか?」
「少々お待ちください…。」
そう言うとギルド職員は羊皮紙をめくり確認しているようだ。
「確認しました。余っている素材は全て売却と言う形で宜しいでしょうか。」
「ああ、そうしてくれ。後売却金の中から魔法商店からの請求を差し引いてくれないか?」
「わかりました。そのようにします。後あちらのパーティから売却金の一部差し引きが申請されていますが?」
「それも大丈夫だ。」
「わかりました。ご了承と言う形にします。これにて手続きは終了です。お疲れ様でした。」
「そうか。ありがとう。」
イルミスはギルドから出ようとしたその時、よく見知ったパーティに居る今最も会いたくない人物とばったりあってしまった。
「あ!イルミス!なんで置いてったのよ!」
「いや、アイリスお前寝てただろ。」
「それはその…それはそれ!起こしてくれてもいいじゃない?」
「鈴が起こしたが…。」
「え?」
「え?」
何やら相互で認識のミスが発生しているようだ。
「いや、鈴に起こされたなんて…あれ?起こされた?」
「鈴は起こしているぞ。」
「……。」
「後土産があるぞ。」
「何…?」
「今加工してもらってるから二~三日かかるけどな。」
「それってオーガの骨かしら?確かに今使ってる杖より増幅量も多い。」
「聞いて驚け。オーガでも変異種のオーガの骨だ。」
「まじで?」
「ああ。加工はミスリルと魔石を使ってもらう事になってる。」
「それ本当?」
「そうだが、そんなにいいのか?」
「もちろんよ!いい!今回は許してあげる。」
「いや、起こしたのだが…。」
「さ、帰りましょう。」
「…ギルドに用があったんじゃないのか?」
「…う、うるさいわね!」
「おい。実は起こされたの思い出したんじゃないだ―」
「ちょっと受付行ってくるから先に帰ってて。」
そう言うとアイリスは受付に走って行ってしまった。
イルミスは肩を上げるとやれやれと言った表情で歩き出したのだった。
「い、行ったわね…。やっと思い出した。私鈴に起こされてた…!」
「あの…。」
「は、恥ずかしい…今までやってた行動が恥ずかしい!」
「あの?」
「あ、報告に来ました。」
「え?は、はい。」
アイリスは鈴に起こされたことを思い出し、一人恥ずかしがっていた。
ギルド内ではアイリスの噂がごちゃごちゃになって行く。
蒼白の炎の魔法使い、ドジっ子魔法使い…など。
自分に視線が向けられていることに気がつくと、そそくさとギルドから出て行ってしまった。
「…明日は鈴を連れ回そう。」
「なんだろう。嫌な予感が…。」
翌日鈴の強制連行が決まった瞬間である。
国境沿いオーガ戦闘跡地、ギルド調査員。
「おー、本当に変異種だ。片腕少し無くなってるけど凄いな。」
「おい、サボってないでさっさと回収するぞ。」
「へーい。」
そこにはオーガ討伐の報告を受けたギルドの回収員が派遣されていた。
人数にして十八人だ。
皆一応Cランクの実力は持っている者達で構成されており、ある程度の魔物には対処できるようになっている。
回収員達はオーガを回収する前に調査をしていた。
何故突然オーガが浅いところまで現れたのか。
「こっちは普通のオーガか。やっぱり変異種と比べると魔力が違うな。でもなんで突然現れたんだ?」
「さぁ?体に何かに襲われた痕跡もないし、森の奥の山に何かあったのか?」
「そういえばこの山って立ち入り禁止区域だったよな?理由なんだっけか?」
「おいおい忘れたのか?ドラゴンの巣があるから立ち入りが禁止されてるんだよ。あんなのが暴れたら街の一つや二つ簡単に滅んじまうからな。」
「あー。そういえばそうだったな。ならオーガがドラゴンでもおこらせて追い出されたんじゃないのか?」
「そうだったらもっと被害が出ているはずだ。」
「そうなると山の方も調査しないといけないが、俺達に任されたのはオーガの回収と調査だからな。そっちは違う奴らに任せればいいか。」
「そうだそうだ。俺たちは任された仕事をすればいいんだ。ちゃっちゃとこいつら解体して帰ろうぜ。」
「そうだな。さっさと解体し―」
「え?」
その瞬間同僚の首が飛ぶ瞬間を見た。
頭が地に落ち、首からは大量の血が吹き出し辺りを濡らしていく。
「うわああ!?敵襲!」
「ふふふ。駄目ですよ。そんな解体するなんて。」
「お前は誰だ!我々はギルド正規職員だぞ!」
「私ですか?あえて言うならばネクロマンサーのシュバルツと申しましょうか。」
「ネクロマンサー…だと?…!ヤバイ!奴に行動させるな!」
「もう遅いですよ。<至上の闇よ。永劫に葬り去れし魂を今此処に呼び戻し我の眷属となれ。開け地獄のゲート。リビングデッド>」
シュバルツが詠唱を完了させると地面に暗黒の穴が開いた。
それは光さえ飲み込み、決して照らされることもない暗黒。
数人の回収員がそれを覗きこんでしまった。
その者たちの目に映ったのはこちらを覗きこんでいるもう一人の自分だった。
しかし、決定的に違っていることがあった。
それは肉が腐り落ち、髪の毛は抜け落ち、生気のない目。
それがこちらを覗きこんでいるのだ。
理解できないはずなのに理解出来てしまう。
「そうそう。その穴は覗かないほうが良いですよ。それは輪廻に入れなかった死者の国と繋がっています。覗きこんでしまえばそこにいる者たちが覗きこんだものを引きずり込もうとしますから。しかし遅かったようですね。」
同じ存在に置き換わることによりその者の魂を引きずり込みやすくしているのがそこに居る正体だ。
それを見てしまった回収員は次々に倒れていく。
同時に体がありえない速度で腐敗し、穴の中に居た自分に置き換わっていく。
そしてそれらは立ち上がり仲間に襲いかかっていく。
「くそ!絶対あの穴は覗くな!死んだ仲間は倒せ!」
「非情ですね。元仲間なのに。さて私のオーガよ。そろそろ起きてください。」
そう言うと死んだはずのオーガが動き出し、立ち上がった。
「起き上がりましたね。おやおや腕が無いじゃないですか。後で治してあげますからね。」
シュバルツがそう入っている間にも死んだ仲間を再び斬り殺している回収員の姿があった。
彼らが制圧した時には何人かは目が泳ぎ、剣が震えていた。
先ほどまで仲間で同僚であったのに突然異形の存在に成り果て死んだのにまた殺さなければならない、自分たちの手で。
そんな状態に置かれた精神の弱い人はそのことから来る恐怖により精神が捕らわれていた。
「おやおや。やはり人間は脆いですね。捨ててよかったですね。」
穴は既に閉じ、シュバルツがオーガの隣まで歩いてくる。
職員の一人がシュバルツに駆け寄ると剣で串刺しにした。
「やったか!?」
「ふふふ。」
「そ、そん―」
シュバルツを刺した職員はオーガの拳によって肉塊へと変わった。
正確に言うと、頭上から拳が振り下ろされたのだ。
体に刺さった剣ゆっくり引き抜くとそれを地面に投げ捨てる。
「人間だったら死んでいますよ?」
「化物め!オーガに気をつけて奴の首を落とすんだ!」
職員の一部はそれが聞こえていないかのように立ちすくみ動かないが大多数が動き出しシュバルツへ向かって行く。
「<至上の闇よ。全ての生命を否定し死へ誘い込め。アンチライフブレス>」
「うっ…こ、れは…!」
「この辺り一帯にフィールドを展開しました。あなた達は後何分生きてられますか?」
「っ!撤退!撤退するんだ!死にたくなかったら今直ぐ逃げろ!」
「おやおや敵前逃亡ですか?それは戦犯ものですよ。オーガ。彼らを追撃してください。それと逃がしませんよ?<闇よ。生者の足掻きに鎖を与えよ。ダークネスチェーンバインド>」
回収員達は一斉に逃げ出し、追撃してくるオーガを交わしながらフィールドから出ようとしていた。しかし、フィールドから離れれば離れるほど何かが体にまとわりついてくる。
それは次第に体を動かすことができなくなるほど強くなると一人、また一人とオーガに殴られ、潰され死んでいく。
「今発動した魔法は極端な魔法でしてね。私の魔力が行き届く空間にしか発動しないのですよ。即ち、このフィールドでしか発動できないのです。この魔法の効果はフィールド中心から離れれば離れるほど拘束が強くなる魔法でして…結論から言うとこの魔法が発動した時点でもうあなた達は逃げられないのです。オーガ、止まってください。」
「どういうつもりだ。」
「人間がどこまで足掻けるか見届けるのですよ。既に一分は経過しました。体はどうですか?」
「……。」
「黙りですか。それもいいでしょう。これから死にゆく人たちです。いいことを教えてあげましょう。あの山にはドラゴンが確かに居ます。そしてそのドラゴンを我々は挑発します。我々闇ギルドとしては長いことあの山を拠点にしていましたが、最近調査が入り込んでいましてね、破棄予定なのですよ。そこでプレゼントを差し上げようと。」
「お前!自分たちが何をやろうとしているの、か分かっているの…か!?」
「ええ。わかっていますよ。さて。三分が経過しました。周りを見てください。」
「っ!」
「もう残っているのは貴方だけ。それももう限界でしょう。次の人生を期待してくださいね。」
「人間…甘く見るんじゃねえ!」
そう言うと動けない体を命を燃やし、動かし剣をシュバルツの頭へ投擲した。
剣はシュバルツの頭に刺さるとその場に倒れこんだ。
「へへ…ざま、あみ…。」
そして回収員はアンチライフブレスのフィールドにより命を吸い取られ息絶えた。
「いやぁ。私の演技はどうでしたかね。」
シュバルツは頭に刺さった剣を抜くと肉体を再生させる。
さすがに頭を魔力で補うことは危険らしく、体の一部を使って回復させている。
「さて。帰りますか。その腕治してあげますからね。」
そう言うとシュバルツはオーガの肩に飛び乗った。
「ああ、オーガ。その人間潰さないように持ってきてください。後で使うので。」
オーガに命令を出すとオーガは息絶えた人間を掴み、そのまま森の奥へ消えていった。
アンチライフブレスですが、生き物にしか効きません。
もちろん自信を屍化しているシュバルツにも屍オーガにも効きません。
魂と生命エネルギーは別物なので魂がある=生きているではありません。
あと分かる人にはわかるのですが、深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。
此処での解釈は 死を覗く時、死もまたこちらを覗いているのだ。
つまり…理解した人はまた1D8SANチェックです。
クトゥルフとか大好きです。