代償
「はぁはぁ。アイリス様!」
「ん?リリじゃない。どうしたの?背中の誰?」
「鈴様ですよ!虫の息なんです!早く治癒魔法を!」
「なんですって?<天使の加護よ。この杖に集え、彼のものを直せ。エンジェルヒーリング>」
アイリスはリリが横にした鈴に治癒魔法をかけた。
が。
「効きが悪い?なら!<わが魔力を生命力に変え、彼の者を救いたまえ。リザレクション>」
以前使った魔力を生命力に変える治癒魔法である。
すこしだが鈴の呼吸が少し安定してきた。
「これもあまり効きが悪い…。どうしたらこんな状態に。」
「近くにいたコンと飛鳥はどうしたんだ?」
「わかりません、すみません。」
「俺が探してくる。」
「アーム、頼んだぞ」
アームは前線だった場所に向けて走り出した。
その間にアイリスは効率が良くなった杖でリザレクションを発動させ続けていた。
「コン!飛鳥!生きてたら返事しろ!」
「………妾を殺したことにするでない…あいたたた。」
「きゅう…。」
「生きてたか。すぐ戻るぞ。」
「怪我人に鞭打つか…アーム殿も鬼畜よのぅ。無痛。アイリス殿に直してもらおう。」
「そうだ!鈴様は!」
「もう中にいる!」
一人は痛覚を無効化し、走り出すがコンは衝撃波をもろに当たってしまい、骨が何本か折れているようだ。
幸い足は折れてないようで走れはするが、それでも体のあちらこちらがはれ上がっている。
ちなみにこれは外から見えない。
妖狐に戻っていた時外傷が出ていたからだ。
コンは辛うじて二人についていくと、そこには息を切らせながら魔法を行使し続けるアイリスの姿があった。
いくら神石で効率が良くなったとはいえ魔力バカ食い魔法なのだ。
更に、少し鈴の症状が改善しただけでまだ安定しているが息は浅い。
「鈴様……。」
コンの人化が解け、その場で倒れ込んでしまった。
更に飛鳥も痛覚を無効にしているだけなので、体が悲鳴を上げるかのように倒れてしまった。
「む。体が動かぬ。意識があるのは幸いか。すまぬが治癒魔法を使えるものを呼んできてくれないかのぅ?コン殿も結構やばいのじゃ。」
「あぁ、呼んでくるから待ってろ。」
アームが再び手の空いている神官かつ治癒魔法が使える神官を探しに行った。
「なんでこんなに効きが悪いの!飛鳥あなた一緒にいたでしょ!教えて。」
「うーむ。おそらく鈴殿は生命力まで神力に変換してしまったのだろう。以前修行で聞いたことがあるのじゃ。限界を超えて力を出そうとすると、とあるところから力が引き出されると。」
「それが生命力っていうの?」
「おそらくな。玉藻のほうが詳しいじゃろう。聞いてみるとよい。」
アイリスはリリにポケットからお守りを取り出すと、それに神力を流し込んだ。
玉藻は飛鳥が言っていたことが大体あっていると肯定した。
そして鈴の話から推測される事実も今初めて話し出す。
“失われた生命力はある程度戻るのじゃ。じゃが、完全に使い切ってしまった神力はもどらないじゃろう。なにせ魔力も神力もない世界から来た存在じゃ我々とは体のつくりが違うのじゃ。”
簡単に言うと、魔力を持つ体、神力を持つ体、仮初の神力を与えられ体。
魔力を持つ体は体が自然と回復させる。
神力も同じだ。
だが、仮初の神力は体に与えられた神力がある場合は自然回復するが、なくなってしまえば、普通の体に戻ってしまう。
すなわち一度枯れた神力は一生回復せず、加護はあるが機能しないのだ。
「なんだって…。」
イルミスが頭を押さえつつそう答える。
すなわち鈴は魔力、神力も持たないただの異世界人と言うことになる。
ここでリンがどうなったか。
ペルソナの加護が機能しなくなり、本当の意味で鈴が恐怖、生命の危機の時しか出てこられなくなったのである。
また、話もできない。
玉藻は分霊の魔導具なので力は関係なく脳内会話ができるが、リンの声は玉藻を通して話すしかないのだ。
「ぐぉぉぉ。つ、つまりだ。鈴ちゃんは加護で話してたんだろ?もしかして…。」
“そうじゃな。おそらく会話はできん。”
「鈴様はもう私たちと喋れないんですか!?」
“いや、そうではない。幸い神力を持った者がおるからのぅ。一時的に鈴に神力を供給させ自動翻訳の加護を使わせることはできるじゃろう。しかし、神力は回復しない。ま、もし回復したところで生命エネルギーをここまで使用してしまった場合後遺症が確実じゃがな。昔…400年前くらいか、限界を超えて生命エネルギーを行使したものが居たのじゃ。その人物は足が動かなくなっていたのぅ。”
そこまで話しているとアームが神官をなぜか三人連れてきた。
「そこの妖狐と、そこの小っちゃいのを頼む。」
「これ!アーム!小さいとはなんじゃ!」
「怪我してるんだからしゃべっちゃダメ!わかる?」
「ぐぬぬ。」
神官に注意され飛鳥は黙り込んだ。
コンのほうも治癒が進んでいく。
アイリスほどではないがこれでも腕がいいそうだ。
で、三人目だが。
天使様の容体を見たいと言われたので仕方なくアームが連れてきたのである。
「天使様の容態は?」
神官はアイリスに声をかけた。
「最悪よ。リザレクションが殆ど効果ないのよ!生命力まで削れてるからね!」
「なんですと!?…今手が空いているのは大神官様のみ…。大至急大教会まで運んでください!そして最初に貴方たちが入った神力の部屋まで行ってください。そこへ大神官様をお連れします。そこなら神の力を借りれるのでより効果が大きい回復が出来ます!」
「わかったわ。イルミス、頼める?」
「任せろ。」
アイリスはリザレクションをやめると極度の魔力消費で眩暈を起こしてしまった。
そこにすかさず入るアラス。
「あ、ありがとう。」
「アイリスのためなら地の果て海の果て~!」
「(お礼なんてするんじゃなかったかしら。)」
イルミスが圧倒的な速さで神官を置いてきぼりにすると大教会に入り込んだ。
通路はこの間と一緒だ。
扉を開け、鈴を床に寝かせる。
「ん?」
イルミスはふと、鈴の呼吸音に気が付いた。
先ほどより弱くなっている。
「おい!しっかりしろ!糞!なんでだ。アイリスが治癒魔法をかけたはずだ。」
今の鈴の体は穴の開いた風船の様に生命維持に必要なエネルギーが抜けだしていた。
イルミスが何とかしようとするが、治癒魔法は使えず、心肺蘇生方法もこの世界にはないので見ているしかない。
「まだか…まだこないのか…このままでは鈴が。」
数十秒後先ほどの神官と大神官が部屋に入ってきた。
「もう虫の息です。後は頼みます。」
「わかった。<神々に使える使徒に与えたまえ。我らが神に望むは彼のものの生命力。捧げるは我が命と崇拝。神よ、我の願いを受け入れたまえ>ぐぅぅ!」
大神官が苦しみ始めると同時に鈴に光が降り注いだ。
その光は穴の開いた場所を埋めていき、生命力を回復させていく。
「天使様に…この命…捧げ…られ…私…は…よ…かった。」
「大神官様!」
大神官の命が尽きるのと同時にある程度まで回復した生命力により、鈴が目を覚ました。
「うっ…あ…。」
まだ目は開いているが焦点が合っていない。
「鈴!大丈夫か!」
「う?うう?」
徐々に脳が覚醒していき自分がどんな状態に置かれているかわかり始めた。
「(足が…腕が…左目が…動かないし、見えない。それにイルミスさんは何をしゃべってるんだろう…。)」
「*!****!」
「?イルミスさん何を言っているかわかりません。」
「****?*…****…。」
『ねえ?リン。これどういう状態?……リン?』
反応がない。
当たり前だ。
今の鈴は神力のかけらすらないただの異世界人なのだから。
お読みいただきありがとうございます
遅くなりました。




