鈴対天使
「ん。うん。コン、そこに落ちてるM9ばらしてくれない?そうすれば消えるから。」
「どうやって分解するんですか?リン様。」
「そこの部品をスライドさせながら外すと、スライドが取れるから、あとはマガジンの抜くボタンを押せば消えるから。」
コンがM9をガチャガチャといじっていると、マガジンが最初に抜けた。
次にいじっていると、最初に装填されていた銃弾が床に落ち、少し軽い感じで言われた部品を外すとスライドが取れ光となって消えたのだった。
「できました。」
「よろしい。リリ朝食持ってきてくれないかな?」
「わかりました!」
リリは扉を出ていき、食堂へ向かった。
コンは相変わらず扉の前に立っている。
鈴が何かを創造すれば光が出るので近くで見ている必要がないのだ。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
そのころ前線ではミミとシュナイダーが活躍していたのだ。
シュナイダーはヘルムの上から魔石を殴りつけ脳震盪を起こしながら確実に壊していき、ミミは得意の速さでヘルムを抜き取ると相手の首にまたがり、ダガーで一刺しで魔石を割っていくのだ。
「ひぇ~すげえな。俺らじゃ魔力で身体強化しなきゃあんなに動けないぞ。もし、シュナイダーとミミちゃんが身体強化を覚えたらどうなるんだ?」
「もちろん上乗せされるのじゃ。そうじゃな…今の状態であれじゃから鈴の完全同調並みになるんじゃないかのぅ。」
「こえぇぇぇ。」
「ここに一人例外がいるわよ。」
「む?誰じゃ?」
「…(飛鳥、お前だろ。)」
アームが心の中で口には出さす、突っ込みを入れていた。
一方ルドルフ皇国兵士たちは久しぶりに盾を持ち出し、魔道ライフルには銃剣が取り付けられていた。
盾は飛んでくる矢から身を守る為だ。
鎧を着ていない兵士たちに矢から身を守る手段がない。
かと言って鎧に着替えようものなら持てるマガジン量が減ってしまい役に立たない。
それ以前に少数の剣士隊を残し鎧は銃弾に変わってしまっているため鎧がないのだ。
盾なら銃を使いながらでも使えるため、保存されていたのだ。
そして少数ながらも魔道ライフルと兼用するために改造された物もある。
手で持つではなく腕で持つタイプになっている。
兵士たちはそれを装備し操られている冒険者へ向かっていく。
そしてイルミス達も進軍を始めたのであった。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
リリが食堂に行き、鈴の食事だというとすぐに用意してくれる料理人たち。
五分ほどで出来上がりトレイに乗せられ、リリに渡された。
「大丈夫かい?持てる?」
「大丈夫です!これでも鈴様の眷属ですから!」
「そうかい。ささ、天使様に持っててあげなさい。」
「いそがしい中、料理ありがとうございました!」
リリはこぼさない様に部屋に戻っていった。
部屋の近くまで来ると何かが聞こえてきたのである。
ギシギシ…っと。
何かと思いながらも部屋に帰るが、その音は部屋に近づくごとに大きくなっていき、曲がり角を曲がった時である。
「コン様!?」
リリはトレイを置くとすぐにコンに駆け寄った。
ギシギシとなる正体は無残にも破壊され、かろうじて蝶番がつながっている扉の音だったのだ。
すぐに中に入ると、縄は力ずくで切れており鈴がいなかった。
しかし部屋に残る濃密な神力ですぐに察しがつく。
「まさか…コン様!」
頭から出血はしているものの、まだ意識があるようだ。
「リ、リリ…鈴様を追って…止めて。」
「その前にコン様の治癒を!」
コンに術を掛ける。
幸い傷は浅く、扉をぶち抜いて廊下の壁に当たった衝撃で動けないだけであった。
術を掛け終えると、その小さな体でコンを部屋のベッドへ引っ張っていく。
そして何とかしてコンをベッドに寝かすと、リリは装備を整えると鈴の後を追いに行くのであった。
「あんな濃密な神力なら追えないことはないはずです!」
すぐに外へ出ると神力の行方を探る。
「これは…北門のほうですね。まだ間に合う可能性もありますし、途中で元に戻る可能性だって!」
北門。
最前線に向かって走り出したのであった。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
「あはははは!神力がよく馴染む!やはり上位存在になっただけはある!」
一方精神世界では。
「ぐぬぬ。鈴がまた暴走始めた。しかも今回は長い。」
「思ったより早いようじゃな…何とかしないといけないのぅ。何か手段はないのかえ?」
「手段と言っても…。! そうだ!あれがあった!」
「なんじゃ?言ってみ。」
リンが何かを思いついたようだ。
そしてそれはすぐ近くにあってリンと鈴が持っているものだ。
神より与えられし加護、ペルソナ。
「ペルソナを使って強引に鈴を侵食している神力を具現化、人格化させて制御下に置ければなんとかなる!」
「いいぞ!じゃがどうやって使う?リンじゃ主人格の鈴には使えないぞ。」
「今は待つ時。次戻った時が一発勝負。たぶんその次はない。」
「その確証は?」
「感…と、言うかなんとなくわかるんだよ。今の鈴の存在が消えていくのが。」
そして現実に戻る鈴は北門上空に到着すると銃を一丁創造した。
A91.
AK47の構造から脱却し、外見、設計も新しくなっている銃だ。
仕様弾薬は7.62ミリ弾であり、装弾数は30+1発となっており、ソ連時代から使われている銃弾を使用する。
7.62ミリだけはNATO弾ではなく7.62×39となっている。
排莢口はグリップの上に設けられており薬莢は前方へ排莢されるため左右いずれでも構えることができるのである。
ブルパップ式ライフルの問題点でもあるガスなどからも射手の顔から遠ざけることができ、影響が少ない。
そして銃身の下には40ミリ後継のグレネードランチャーGP97が内蔵されている。
引き金はトリガーの前にある。
「敵対する者には死を下す。操られていようが奪った命の分だけもらうぞ。」
鈴は見方がいない場所にグレネードランチャーの引き金を引いた。
上空から放たれたグレネードは弧を描き、地面へ着弾した。
破片があたりに散らばり、炸裂した。
その際に起こった小規模な爆発やガスで操られていた冒険者の体に無数の焼け傷や金属が食い込む。
運がよかったのか死んだ者はいないものの、すでに戦闘継続は不可能な怪我をしている者も居るが、魔石の効果で無理やり体を動かされ、まだ意識のある冒険者は苦痛を感じていた。
「まぁいい。今度は確実に仕留めてやろう。」
システムアシストを使い銃を構えると負傷している冒険者に銃撃しようとした。
その時である。
「ぐっ…。あと少しだというのに…。」
犯していた人格が引っ込み元々の主人格である鈴が出てきたのだ。
「…あれ?なんでこんなところに?てか、真下戦場じゃん!銃ももってるし!」
“鈴!戻ったか!今から大事なことを伝える!”
『え?何?』
“次、人格を奪われそうになったらペルソナの加護を使え!私ではなく、犯しているほうだ!そうすれば私みたいに固定、具現化させることが出来るはずだ。そしてそいつを倒して制御下に置くんだ。わかったな!?”
『え、うん。』
鈴は北門から少し下がると地面へと降りた。
するとそこに全力で走ってくるリリがいたのだ。
「鈴様ー!」
「リリどうしたの?」
「よかった。戻られたのですね!」
“閃いた!リリの神力でペルソナの加護を強化するのじゃ!わかったな!”
『え?うん。』
鈴は玉藻に言われた事をリリに告げる。
タイミングを合わせることを何度か練習し、次の乗っ取りが来るのを待機することになった。
“気をしっかり持つのじゃよ。決して飲み込まれるでないぞ。”
“次はないからな。全力で引っ張り出せ。それで叩き潰せ!”
『了解。』
「さぁリリ。始めよっか。」
「はい!鈴様!」
それから三分後事態は動いた。
「うっ…リリ…き…たみ…たい。」
「準備かんりょうです!」
「いく…よ!うっ…ああああああああああああああ!!」
「えええええええい!」
鈴の神力とリリの神力が合わさり、辺りを光で満たした。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
「鈴うまくいったかのぅ。」
「…!加護が発動した!来るよ!」
鈴の精神世界に小さな光が現れ、少しずつ大きくなっていき辺りを包み弾けた。
「くっ!そのまま私に身を、人格を委ねれば良いものを!」
「うまくいったね…悪いけど私は消させないよ!」
「ならばここで殺して奪うまで!M4A1!…?M4A1!…!?なぜだ!なぜでない!」
「ペルソナで分離させてもらったからね!今のお前はただの天使でしかない!」
「馬鹿な…そんなことが……と、言うと思ったか?」
天使は手元にシールドを発動させ刀の形に形成し直したのだ。
神力も魔力と変わらず、空間に固定してシールドと成すのだが、天使はそれに縛られずシールドを刀にして一振りしたのだ。
「神力とはこう使うのだ!ろくに扱いきれない主人格が居ても邪魔なだけだ。」
「そんなのは貴方の勝手。確かに扱いきれてないけど…貴方がしゃしゃり出ることじゃない!」
鈴は銃を創造した。
それはFADと呼ばれる銃だ。
ペルーが開発したブルパップ式アサルトライフル。
ブルパップ式は変わった形状が多いがこのFADは円形のトリガーガードや湾曲したハンドガードなどとブルパップ式の中では変わり者である。
仕様弾薬は5.56ミリのNATO弾。
弾数は30+1と言ったところだ。
ついでにポンプアクションの40ミリのグレネードランチャーが付けられる。
「さて悪い子はお仕置きしないとね。」
「ぬかせ。私は私という存在を殺し、私が主人格となるのだ。」
「リン、玉藻。離れてて。これは本当の殺し合い。いつものように復活なんてできない。」
「わかった。鈴、お前の問題なんだからキッチリ片付けろよ。負けるな。」
「その通りじゃ!負けたら許しはせぬぞ!」
リンと玉藻は少し離れた位置に移動し、流れ弾や魔法などが飛んできても大丈夫なように玉藻のシールドとリンは十センチの防弾ガラスを円形に創造した。
十センチと言えばRPGを防げる厚さである。
「それじゃやろうか!」
鈴が天使に銃撃を開始した。
天使は余裕な顔をして高速の弾丸をシールドではじいて行く。
すぐに神力を使い翼を出すと上に上がり、弧を描くようにして天使の真上を飛びながら銃撃した。
だがシールドですべてはじかれてしまう。
天使の背後に着地した鈴は40ミリグレネードランチャーを発射した。
そしてすぐにリロードを行う。
グレネードは縦に切られてしまい爆発はしなかった。
二つに分かれたグレネードが天使を通り過ぎて遥か背後で爆発を起こした。
それだけあのシールドは切れ味が有るということだ。
「次は私からだ。」
「(銃じゃあの切れ味は止められない!なら!)リン!人格同調するよ!」
「いいよ。」
鈴は迫る天使に対して盾を創造した。
それも生半可な盾では切られてしまうだろう。
そこで以前出したアイギスの盾を創造したのだ。
しかし今度のアイギスの盾は少し違っていた。
「ふん。そんな盾で私の攻撃を防ごうとするのか。」
「こっちを見ろ!」
天使はすぐに鈴の思惑に気が付き瞬時にシールドを展開したのだ。
そうアイギスの盾にはメデューサの首が埋め込まれていたのである。
それは死してもなお効果は衰えず、目の合ったものを石化させる。
だが神力も物質の一つ。ただ透明なだけで壁が一枚間に入っているため石化効果は受けない。
視線に乗って石化の効果がある何かが飛んでいる限りシールドを張った天使には届かないのだ。
「無駄無駄ァ!さっさとその人格を受け渡せ!」
カン!とシールドがアイギスの盾が天使のシールドを防ぐ。
いくら鋭く鋭利でも神話級の盾には刃は及ばないようだ。
しかし、盾は神話級でもメデューサの顔は縦に切られてしまった。
いくら死しても効果が衰えないと言っても神力。
神の力で切られてしまったらどうしようもない。
「いけると思ったんだけどなぁ。」
「私をなめてもらっては困るな!」
FADで制圧射撃をしつつ、近づいてきた天使と距離を取る。
だが、天使もシールドを展開しつつ近づいてくる。
鈴は素早く相手の側面に回り込むと至近距離で40ミリグレネードを発射し、シールドを張った。
「やったか!?」
「それはフラグじゃ!」
もちろんフラグは成立しており…。
「この私が正面だけにシールドを張っているとでも思ったか?そして今のお前のシールド強度は低い!」
「!?うわああああああ!」
シールドが鈴のシールドを切り裂き、とっさに盾にしたアイギスの盾にシールドがあたり空中に浮いていたため吹き飛ばされてしまった。
天使から加護をすべて引きはがしたと言っても上位存在であることには変わりはない。
すぐに立ち上がろうと目を開けるとシールドが目の前に迫っていた。
「!」
「ちっ。」
「この!…!?」
鈴は銃弾をばらまこうとしたが、弾が出なかったのだ。
所謂、弾切れというやつだ。
「さぁさぁさぁさぁ!いつまでもつか!」
「くっ!」
FADを消すとM9を創造した。
鈴にはまだ奥の手があるのだ。
「(シールドを振るときはシールドが消える!そこにこの弾を打ち込めば!)」
「では、さらばだ。」
「(今だ!)」
銃声が轟き、天使がふらついたのであった。
お読みいただきありがとうございました。




