鈴の異変2
「…ん?」
「お、起きたか。」
「起きたのぅ。」
鈴はベッドで寝たはずなのになぜか精神世界で目が覚めた。
寝ぼけまなこで頭も回っておらず、ぽかーんとしている。
「ん…ぐぅ…。」
「こやつまた寝たぞ!」
「……ふん!」
「いで!」
リンが頭突きで鈴の目を覚ました。
「いったーい。てかなんで私精神世界にいるの?」
「それは私が呼んだ。|《額が痛いな。》」
「それに妾もお主に伝えなければならぬ事ができたからじゃ。」
「んえ?」
鈴は何のことだかさっぱりわからないでいた。
しかしリンと玉藻はふざけた様子はなく、真面目そのものだった。
「さっきめまい起こしたでしょ?」
「あーうん。起こしたね。」
「その時の記憶はあるかのぅ?」
「え?もちろん―あれ?すっぽり抜け落ちてるみたいでわからない。途中までは覚えてるんだけど…。」
鈴は頭を抱えて思い出そうとするが、さっぱり思い出せないでいた。
むしろ思い出そうとするほど、前後の記憶があやふやなっていく。
「まず、私は神によって固定化された人格。そして鈴、貴方が主人格。おーけー?」
「うん。」
「妾はまどろっこしい事がめんどくさいのじゃ。鈴の神力が強すぎて人格が犯されているのじゃ。」
「え?」
いきなり人格が犯されていると言われ、頭がついていっていない。
「人格が…犯される?え?どういうこと?」
「私から観測したのは神力が突然溢れて犯し始めたと言うところ。」
「それじゃどうなるの?」
「鈴であるが神力の汚染で鈴が鈴で無い人格になる。そして今の鈴は消える。」
「え…?」
これは鈴にも理解できた。
自分が別の自分に置き換わる。
「ど、どうにかならないの?」
「制御しようにも量が多すぎる。いくら上位存在となっても元は人間。保有できる上限は決まっている。」
「少しでも先延ばししたかったら神力を使わないことじゃな。魔力同様神力も成長する。それを抑えこむのじゃ。まぁ成長した原因は完全同調と大規模な神力の行使、根源魔法じゃ。後少し玉藻本体に送っていれば少しは抑えられるかのぅ。」
鈴は沈黙し、リンと玉藻も黙ってしまった。
戦うには神力が必要不可欠だ。
銃が創造できなければ大人三人分のちからを持った只の人間に成り下がる。
かと言ってリンに変われば加護によって神力が少しずつ消費され、結局銃を出したほうが安上がりだ。
「…寝る。起きたら考える。」
「そうだね。んじゃおやすみ。」
「おやすみじゃ。」
翌朝。
「ぐぅ……。」
「モギュ!?」
ここで早朝からの鈴のだいしゅきホールドがコンに決まった。
鈴に自覚は無いが結構な力で締め付けられている。
「コ、コ、コン!」
突然の人化。
それ故に体格の大きいコンに吹き飛ばされベッドから落下したのだ。
「いで!んん~もう朝~?」
「早朝ですよ!まだ朝には早いです!鈴様!」
「むみゅう…朝からうるさいです。コン様。」
「!?」
コンがリリに怒られて沈んでいる間に鈴は精神世界で有ったことを二人に話した。
話の途中コンが過剰反応を起こした。
「鈴様がそうなるならリリはどうなるんですか!リリだって最初は普通の動物でした!鈴様の話だとリリも何れ…。」
「そう…なるかもしれないね。」
「なんとかならないのですか!?」
「神力の行使を抑えるしか無い。」
リリが神力の行使をやめたらミスリルの剣盾は一気に弱くなってしまう。
鈴、リンも神力で銃や物を出しているため鈴もパワーダウン。
「と、とりあえずイルミス様の所に行きましょう!」
「そうです!」
「ああ、そうだね。」
部屋から出ると兵士が巡回していたため聞いてみたが、客室のどこかだろうとわからない回答をされた。
鈴達はとりあえず客室のある場所に移動し、せっせと走り回っていた女性神官に話しかけた。
「あの。」
「ひゃい!?って、てててててて天使様!?私に何用でしょうか!」
「昨日から泊まっている冒険者…イルミスと言うのですが何処か知りませんか?」
「こちらのお部屋です!」
「ありがとうございます。」
神官はまらアワアワと忙しそうに走り回っていった。
“おそらく新米なのじゃな。”
“だろうね。”
「イルミスさんいらっしゃいますか?」
鈴は扉をノックした。
しばらくして反応が帰ってきた。
「こんな早朝に…どうした?」
「ちょっと問題があって…。」
「……分かった皆起こしてこよう。鈴は中に入って待っててくれ。」
「はい。」
鈴は部屋にはいると、イルミスが寝ていたであろうベッドに腰掛けた。
「ふう。私が私じゃなくなるねぇ。」
“私は別に関係無いけどね~主人格だけが影響うけるから。”
“大丈夫じゃ。リンの性格は変えてやろうぞ。”
『何言ってんだこいつ…。ていうか、私が変わるのは大変な事じゃない?もし変に曲がった正確になったらリンと玉藻が止めるんだよ?』
めんどいのぅとか、めんどくさいと言う言葉が頭のなかで何度も繰り返される。
もちろん玉藻とリンである。
『玉藻の本体に大量におくる!』
“そんなことすると回復速度的に枯渇してまた増えてしまうぞ?”
『ぐぬぬ…。送る量を調整すれば……ふふふ。その内神化させて眷属にして…。』
“そんなもの放出してしまえばいいのじゃ。残念じゃったな。”
『うむむ…。』
そんな脳内会話をしていると、のじゃあああああああああ、と叫び声が聞こえてきた。
「あー。飛鳥さんにコンの術かけてなかったなぁ。」
「忘れてました…。」
「コン様!あの時は鈴様のたいちょうがわるかったからです!」
「ありがとう!リリ!」
その後10分ほどした時、扉が開いてチームメンバーが入ってくる。
「連れてきたぞ。」
「どうしたのじゃぁ。妾は眠いぞ…。」
「皆ごめんなさい。ちょっと話があって…。」
「どうした鈴ちゃん!このアラスがなんでも聞いてあげるぞ!」
「私の愚痴は聞いてくれるのかしら?」
「もちろん聞くぞ」
そんなやり取りが始まりいつもどおりの朝が来た。
鈴は集まってもらった理由を昨日のめまいの事から精神世界で知った事実を皆に打ち明けた。
皆険しい表情をしている。
「それはどうしても止められないのか?」
アームが質問をした。
それに応えるように鈴は首を縦に振った。
「止められないです。遅らせる程度しかできません。」
「そうか…。」
「アイリス、何か魔道具は作れないのか?例えば神力が常に一定容量で放出させ続けるような?」
アラスが意見をアイリスに話を振る。
しかし。
「私一人じゃ無理。ルーツ国のパーラ魔法隊長の助力が必要。」
「なぜにパーラちゃん?」
「どうせ神力で私と同じように置き換わるんだから高純度の魔石が必要なのよ。それに私だって万能じゃないんだから、魔法式のわからないところだってあるわよ。」
「そっかー。」
皆が考えているがいまいち答えが出ない。
「んーやっぱり神力をやたら滅多に銃火器とか爆弾、リンの創造は使わないほうがい……い…の………か………なぁ…。」
その時鈴の神力が上がり大神官と話していた時とおなじになったのだ。
それは当然部屋に居た皆も気が付き、近くを歩いていた神官や兵士にも感じ取れるほど。
「……昨日も言ったが命の価値は命を持ってでしか返せない。この話は終わりにしよう。私がどうなろうと私は私だ。それよりも次の殺戮でしか無い聖戦に備えて準備をしよう。」
「鈴!気をしっかりするのじゃ!」
「あぁ、そうだ!飲み込まれるな!」
「何を言っている?私は正常だぞ?むしろ体が神力に馴染んで清々しい気分だ。」
そこまで言い終わると鈴はベッドに倒れこみ、コンとリリが抱き起こした。
抱き起こすと直ぐに目を覚ました。
「…ん?皆どうしたんですか?私の顔を見て…。」
「覚えてないのか?」
「え?イルミスさん何を言って―あ!もしかして出ちゃってました?」
「話している間にも出てたな。」
ふぇ~と鈴が悩んでいると扉がノックされた。
そして急いだ様な声で声が聞こえてきたのだ。
「敵襲です!安全な場所までお逃げください!」
イルミスは直ぐに扉を開けると、そこに居た兵士に話しかける。
「どこから来た?」
「北門、例の冒険者達です。ドラゴンも居ましたが排除に成功しています。ただ。今度の冒険者はランクが相当高いようで偵察隊が何名か殺られてしまいました。すでにシュナイダー、ミミは出撃しています。」
「俺達も戦列に加わる。案内してくれ。…鈴は留守番だ。」
「え?なんでですか!?魔石を取り付けられて嫌な思いをしてるんです!」
鈴はそう言うがイルミスが許さなかった。
「なんでですか!」
「たった今あったこと忘れたのか!」
「ど、どうしたのですか?」
兵士が突然イルミスが怒鳴った事に驚いていた。
「なんでもない。コン、リリ!しっかり鈴を見張っておくように。」
「わかり…ました。」
コンが渋々イルミスの言うことを了承した。
もちろんそれに鈴が反論するわけで。
「コン!通して!私の言うことが聞けないの!」
「駄目です!私がお仕えするのは今の鈴様です!」
「でも!」
「行こう皆。」
鈴、コン、リリだけが部屋に残り皆は兵士と共に前線へと赴いていった。
これはイルミスなりの優しさである。
しかし、伝わらない優しさなのであった。
コンは扉の前に立ち鈴を部屋から出さないようにしている。
「なんで!そこ退いてコン!敵殺せない!」
「嫌です。」
「デザートイーグル.50AE弾創造!頭粉砕されたくなったらどいて!」
「断ります!」
「残念だよ。コ―うっ……。」
鈴が床に倒れこんだ鈴の背後に居たのはリリだった。
リリが鈴に術を掛けたのだ。
眷属としてあるべき行為ではないのだが、それも鈴の為である。
しばらくすると鈴が起き上がった。
正確にはリンである。
「はぁ。融合してから躊躇いも無くなって大変だ。リリ、コン。鈴が起きたらまた気絶させて。」
「わかりました。リン様。」
「はい、リリ頑張ります。」
「ふぅ…いつ目が覚めるか。前兆無いからこれは片しとくよ。」
「はい。」
リンは銃を消すと偶然部屋にあった縄を見つけた。
「…よし!コン手伝って。」
「はい?」
「この縄でベッドに縛り付けて。手だけでいいよ。」
「わかりました。」
コンは扉の前から移動するとベッドに寝たリンの手首に縄を回し、ベッドと縛った。
「これでいいですか?」
「うん、いいよ。あと合言葉を決めておこう。」
「合言葉ですか?うーん。コンと言えば鈴様ということはどうでしょうか?まずリリとか何かを答えると思うので。」
「わかった。縄を外してって言ったら今の合言葉を。違ったらリリ、術かけて鈴を気絶させてね。」
「わかりました!鈴様!」
ベッドで縛られているリン。
縛られていると言っても手首だけだ。
決していやらしくはない。
それから数十分後、鈴の体に変化があった。
腕を動かそうとして頭を左右に向けている。
鈴が気絶から覚め、出てきたのだ。
「ちょっと!コン!これはどういうこと!」
「リン様から言われたのでそうさせていただきました。これは確認を取るまでもなく鈴様ですね。」
「リリ!ほどいて!」
「駄目です。」
リリが鈴の腕に触れると術を発動させた。
鈴は眠るかのように気絶したのであった。
そして間もなくしてリンが表に出てきたのである。
「鈴は全く…。過激すぎるんだよなぁ。」
「まったくもって鈴様はお変わりになりました。」
「そうだな。全く面倒なことしてくれて…。さらには自分の上がった神力で犯されてるし。…………ねぇコンちょっとトイレ行きたいんだけど。」
「今どちらですか?」
コンは鈴がベッドから離れると聞いて今どちらの人格が出ているか聞いたのだ。
もちろん一回鈴は起きているので自分が縛られていることはわかっている。
ここで合言葉を行うことにした。
「コンと言えば?」
「鈴。」
「縄外しますね。」
コンは縄を手首から外すとコンとリリ付きでトイレに向かったのである。
大教会のトイレには十センチほどの隙間しかない。
トイレを出るには入り口から出るしかないのだ。
数分後リンが出てきた。
「お待たせ。」
「ではここからはリン様であっても鈴様に代わる恐れがあるので術を掛けさせていただきます。」
「わかった。」
先ほどと同じくリリが肌に触り術を掛ける。
体が倒れそうになるのをコンが支え、鈴の体を部屋のベッドへ運んでいった。
「よし。あとは縄で縛って……!」
片手を縛ったところで鈴の目が明いたのだ。
リンは先ほど気絶したのでそんなに早く起きるわけがない。
「リリ!術かけ…!」
その瞬間、コンにM9が向けられていた。
刹那の時間に射線からよけると銃弾が壁に食い込んだのだ。
次を撃たせないために縛っていない手を抑え込み、リリが術で抑え込む。
「…ふぅ。これで良し。」
「コン様大丈夫ですか?」
「あれくらいの速度なら大丈夫だよ。ベッドに寝てなかったら危なかったけど。」
イルミス達が前線で冒険者の魔石を壊しながら戦っている中、鈴は神力を逃がし抑え、人格の犯されるのを防いでいるのであった。
お読みいただきありがとうございました。
ちょっとした銃成分。




