閑話 ネクロマンサーと襲撃犯の話
四頭の青白いワイバーンが人を乗せ空を飛んでいる。
先頭にはローブの大穴をいくつも開けている人物、ネクロマンサーが乗っていた。
「こっぴどく殺られたようだな。」
ローブをかぶっていて姿は分からないが男の声だ。腰には剣を携帯している。
国王を刺したのはこの人物だ。
「ええ。私も予想外でした。まさかバラバラにされるとは思いませんでしたよ。」
「誰に殺られたんだ?あのメンツにお前を殺れそうな奴はいないように見えたのだが。」
「そうだよ!誰に殺られたんだい?」
こんどは女性の声だ。相変わらずローブ姿である。
「皆さん見ませんでしたか?教皇のシールド魔法を砕いた人物を。」
「ああ。ちびっ子が一人居たね。そいつがどうしたんだい?」
「そのちびっ子に殺られましてね。」
「はぁ!?」
一同が同時に驚く。
仮にも人間の限界を超えた体であるネクロマンサーが殺られるとは思ってもいなかったのだろう。
「始めてみましたよ。あの場はかなりうるさかったでしょう。」
「まあ、そのちびっ子の方から凄い音が聞こえてきていたけど。」
「あれは飛び道具ですね。原理はよくわかりませんが、内部で小型の爆発魔法か何かで金属の弾を飛翔させているんです。近距離で撃たれたら避けろと言われても無理ですね。私みたいにミンチになるのが落ちです。」
「だがこちらに引き込めばかなり使えそうなやつだったな。年もまだ若い、精神干渉もしやすいだろう。」
「そんなことより俺は目が痛いぜ。何か光る物を見てからずっとだぜ。」
言うまでもないがローブ姿である。
声は男性だがまだ若そうだ。ナイフを投擲したのは彼だ。
「あぁ。あれには驚いた。危うく殺られそうになったからな。」
「皆さんそんなに大変だったのですか?」
「別に隊長はどうでも良かったんだが、あの光のせいでちょっとねぇ。」
「ふむ…業火の炎、不可視の矢も使い、視界や聴覚を奪うほどの音と光を扱う冒険者…。これは敵に回ると厄介ですね。報告ですと兵士の鎧を貫く大型クロスボウより威力があるそうですからね。力で言えばランクBかA程度ですが、今はまだ経験が浅いように見えます。潰すなら今のうちというところでしょうか。」
「潰すのはもったいなくないですか~?洗脳して手駒にしちゃいましょうぜ。」
「それもそうですが、一つ気がかりがあるのですが。」
「何かあるのかい?」
「私の可愛い魂達が彼女だけには襲い掛からなかったのですよ。何か闇の魔法に対しての耐性や魔道具を持っている可能性が有りますね。」
「それじゃ洗脳魔法は効きそうにないわね。」
「やはり潰すか?」
「…いえ、泳がしておきましょう。」
「あんた正気?」
「ええ。私はいつも正気ですよ。」
「…まああんたがそう言うならいいだろうけど、上がどう言うかわからないわよ。」
「そうだな。今回の構成員の大量死の責任どうするんだ?」
「どうするか、ですか。それは彼らが弱いのがいけないのです。まだ私の配下の方が強いですよ。」
「お前の配下は気持ちが悪いぜ…。」
「失礼ですね。こんなに可愛いのに。」
「(それはあんただけだぜ…。)」
しばらくワイバーンで空を飛んでいると山に入っていく。そこには山の側面に開けられた穴があった。そこには如何にもガラの悪そうな人物が二人立っていた。
「ご苦労様です!」
穴の前に居た二人の監視は帰ってきた人物たちに同時に挨拶をした。
上下関係などもあるのだろう。
「いえいえ、見張りお疲れ様です。」
そう言うとネクロマンサーと三人は洞窟の中に入っていく。
洞窟の中は広く、大勢の構成員が飲み食いなどをしている。
ネクロマンサーは受付らしき場所に行くと任務完了の報告をしていた。
「ええ。国王の暗殺成功、国家転覆失敗につき証拠隠滅のため依頼人処分。」
「…少しばかり犠牲者が多い。少し待ってろ。」
そう言うと羊皮紙を持った男性は奥の扉をくぐっていく。
ほんの三十秒だろうか直ぐに扉から男性が出てきた。
「問題無いだとよ。良かったな。」
「私は最初から問題とは思っていませんでしたし、これはこれでいいでしょう。」
「だが、お前を殺した人物に興味があるらしい。奥。行ってくれるか?」
「いいでしょう。」
そう言うと先ほど男が入っていった扉にネクロマンサーは入っていった。
「お呼びですか、ボス。」
「シュバルツ。今回は結構殺られたみたいだな。任務も半分失敗、そして一回完全に殺されている。」
「さすがに驚きました。」
「で、どんなやつなんだ?」
「少女ですね。」
「…お前子供の、しかも女に殺られたのか?」
「ええ。そうですよ。体をバラバラにされましたから。このローブみてどう思います?」
「本当に殺られたみたいだな。で、どんな攻撃で殺られたんだ?」
「不可視の矢で撃ちぬかれました。」
「不可視の矢…だと?」
「ええ。彼女がこちらに何か大きなものを向けたと同時に体が千切れ飛びました。」
「何なんだそれは。」
「わかりません。ただ原理としては爆発魔法で金属を飛ばしているようです。」
「なんだそれは、それなら爆発魔法を直接撃ったほうが早いじゃないか。」
「そうなんですがね…。あと本当に一度殺されかけましたよ。」
「焼かれそうになったのか?」
「ええ。彼女の持っている物が変わったと思った瞬間魔法以上の炎の並が私を覆い尽くしました。なんとかシールドで防ぎましたが直撃していたら今頃灰になってるでしょうね。」
「持っているものが変わった?」
「はい。虚空に消え、虚空から現れました。」
「何かの召喚魔法か?いや、そんなもの聞いたことがない。」
「私にもわかりかねます。」
「そうか。お前がそこまでやられるとなるとこちらも用心するしかないな。お前以外だったら今頃死んでいるだろうからな。」
「そうですね。私以外だったら今頃バラバラに吹き飛んでますよ。」
「話は終わりだ。失った肉や魔力を回復しておけ。我々に休みは無いのだからな。」
「わかりました。」
そう言うとシュバルツは部屋から出て行ったのであった。
扉から出ると一人の女声が待っていた。ローブのフードを外し、赤い髪を下げている。
「どうだい?何か言われたか?」
「いえ。特には。」
「そうかい。彼処の席が開いてるから何か食べようじゃないか。」
「そうですね。失った肉を補充しなくてはいけませんからね。」
そう言うと席に座る二人。
「おーい!肉と酒持ってきてくれ!」
「もう少しおしとやかに出来ないのですか?」
「これが私だ。で、どこまで殺られたんだい?」
「再生に魔力の十分の四を使いましたね。肉、骨も使えなくなったり組織が破壊された物が多かったので今は足りない部分を魔力で補っているので更に魔力を十分の一使っています。」
「結構あぶないじゃないか。」
「いえいえ。まだまだ大丈夫ですよ。ティスは死んだら終わりなんですから気をつけてくださいね。」
女性の名前はティスと言うようだ。
ここまで話しているとテーブルに肉と酒が二人分置かれた。
シュバルツは運んできた人物に牛乳を頼んでいる。
「さて食べますかね。」
「そうね。」
シュバルツが肉を食べる度に体がもぞもぞと動き出す。
取り込んだ肉を失った部分に合わせて再生しているのだ。
運ばれてきた牛乳も飲み骨なども回復させていく。
「それにしてもシュバルツの格好は酷いね。後で新しいローブ貰っておきなよ。」
「私もいつまでもこんな姿で居るわけでは無いですよ。」
シュバルツは大人四人前と同等の肉を食べ終わると体の変化がおさまった。
「ふむ。これで肉体の回復は大丈夫ですね。」
「それじゃローブ貰ってきな。」
「では、少し席を外します。」
シュバルツは再び受付へ行くとボロボロになった自分のローブを見せて新しいローブを支給されていた。
ボロボロになったローブの処分を任せると新しいローブに着替えながら席に戻るのであった。