話し合い
その日、国民は城の入口広場に集まっていた。
何故なら新しい国王が誕生するからだ。
「次ってあの男まさりのお転婆お姫さんだろ?」
「そうなんじゃないのか?一応国王の娘だし。」
「今度の国王は大丈夫かしら?」
「怖いわよねー。また暗殺とかないかしら。」
国民がざわめいていると中央テラスから一人の兵士が出てきた。
「静粛に!」
その言葉にざわめいていた国民の声は収まり、中央テラスに注目が集まった。
「これから新国王の演説だ。心して聞け!」
そう言うと兵士は裏へ下がっていく。
そしてアゼリアは表へ上がっていく。
「よくぞ集まってくれた。私は皆の知っている通りアゼリア・ルーツだ。
先の襲撃事件で我がお父様が亡くなられた事は記憶に新しいと思う。
しかし、国に王が不在など合ってはならない。
故に私が今は亡きお父様の意思を継ぎ国を、国民を先導しなければならない!
そして国に平和をもたらさなければならないのだ!
国は国民無くして成り立たない、国王は国無くしては成り立たない。
即ち国王と国民は運命共同体であると言えよう。私は国民皆が幸せに暮らせるように努力をしよう。
そして国民は私を支えて欲しい。私はまだ見ての通りまだ若い。
それ故至らないことがあるかも知れない。だから支えて欲しい。
私はできる限り国民を愛する事をここに誓おう!そして国の未来を皆で掴もうではないか!」
アゼリアがいい終わると同時に歓声が上がった。
それはアゼリアが一つの国の国王として国民に認められた瞬間だった。
手を振りつつ、笑顔を振りまく。
そして頃合いを読んでテラスから離れていった。
裏にいた兵士が前に出ると声を上げた。
「これにて新国王の演説は終了だ!各自解散してくれて構わない。」
そう言い放つと兵士も下がりテラスには誰も居なくなった。
国民は修理中の城門から街へ帰っていく。
「ふぅ。終わったな…だがまだあるな。」
しかし、まだ終わりそうもない。
貴族を呼んでのパーティ、協定国への親書、イルミスたちへの褒美、国内の情勢などの調査。
国王としてやるべき事が山ほどあるのだ。
「ルーツ国王様。次は王座の間にてイルミス殿達との会談です。」
「ああ。わかっている。すぐに戻ろう。」
そう言うと少しばかり歩く速度を早め、王座の間へ戻っていく。
「これから国王様との軽い会談がある。何か言いたいことあるか?」
「いや、なーんも。」
「得にはないな。」
「私もないわよ。」
「ん〜私もないかな。」
「なら俺が話すから、またこの間と同じようにしててくれるか?」
「了解っと。」
「わかった。」
「わかったわ。」
「はい。」
「さて…そろそろ迎えに来る頃だと思うのだが…。」
二分ほどだろうか時間が経った時部屋の扉がノックされ兵士が入ってきた。
「準備が出来ましたので王座の間へご案内します。」
「わかった。」
「ではこちらへ。」
そう言うと兵士は外に出て行き、それに続きイルミス達も外に出て行く。
全員が出てきたのを確認すると兵士は王座の間に向かい歩き出した。
イルミス達もそれに続いていく。
そして一行は王座の間の扉の前に到着したのだった。
「こちらに武器をお渡しください。」
「まあ、あんなこともあったしな。」
そう言うと鈴を除くメンバーは剣、槍、杖を扉の脇に立っている兵士に渡す。
渡された兵士はそれらを丁寧に武器立てに立てかけていく。
そしてそれを確認した案内役の兵士は扉をノックすると中からアゼリアの声が聞こえてきた。
「入れ。」
「失礼致します。お客人イルミスパーティの方々をお連れしました。」
「わかった。下がって良いぞ。」
「ハッ!」
そう言われると兵士はドアの脇へと下がっていく。
イルミス達は中央付近まで進み膝をついた。
「別に良い。道中を共にした仲ではないか。」
「しかし、今は一国の国王であらせられます。」
「そうか…。本題に戻そう。今回の事件誠に感謝する。よってそなたたちに褒美をやろう。何がほしいか言ってみよ。」
「ありません。」
「…すまない。もう一度言ってくれるか。」
「欲しいものはありません。」
「…お主たちは変わっているな。」
「既に我々は剣を貰い受けています。そして人助けには礼などいらないですから。」
イルミスは鈴を一瞬見るとすぐにアゼリアに視線を戻した。
「ふむ。そうか。ならルーツ国名誉冒険者の称号を与える。次にもう一つ話がある。鈴から技術提供を元に作成した魔導ライフルの正式版が完成した。鈴には大いに感謝している。この技術は我が国の国家機密とする事に決定した。所持するのは近衛騎士七人だ。」
アゼリアは魔導ライフルの結果を関係者であるイルミス達に話した。
「今後は専門の部隊を作って国の防衛力を上げる予定である。その際は一般、友好国に披露するゆえ、見に来てくれ。」
「ご招待ありがとうございます。その際は是非参らせてもらいます。」
「そうしてくれると嬉しいぞ。ではこれにて終わりにする。」
「…失礼を覚悟で発言させてください。」
「鈴お前何言っているんだ?」
「イルミスさんはちょっと黙っててください。」
「いいだろう。許可する。」
「…一人の友人として言わせてもらうね。アゼリア!一人で抱え込まないで!無理は絶対にしないでね!……失礼いたしました。」
鈴の発言に一部の者達はザワザワとしたが、アゼリアが手で沈めた。
「よい。鈴、心配ありがとう。しかし私は大丈夫だ。乗り越えてみせる…そしてお父様の愛したこの国を守ってみせる。」
「はい…イルミスさんもういいです。」
「そうか。…それでは国王様のご健康と国の発展を祈って退場させていただきます。」
「また何か有ったら頼む。」
イルミス達は王座の間から廊下へと出て行った。
外に出ると立てかけてある武器から自分の武器を選ぶ。
「これからどうするよー。」
「まず宿を取ろう。話はそれからだ。」
「了解っと。」
「入口までお送りします。」
兵士に連れられ城の入口まで連れて行かれる。
鈴は途中エルガーとパーラが魔導ライフルを持ち何か話し合っているのが目に入った。
最初に見た時より形状が変わっており、角ばった部分が少なくなりスマートになっている。
改良が進んでいるのだろう。
恐らく二人は改良の話し合いをしているのだろう。
「それでは私はここまでです。」
「ああ。ありがとう。」
「いえ。この度は王国のためにありがとうございます。」
「いや、何も出来なかったさ。」
そういうとイルミスは城門から歩き始めた。
それに続きメンバーも歩き始めた。
「だはー!ここんところ疲れることが多かったな~。精神的な意味で。」
「何がそんなにつかれるの?」
「そりゃあ国王と話したり、国王直々の頼みとかよー。」
「それは貴方だけ。」
「そりゃないぜ~。なぁ鈴ちゃんはこういうの初めてだから疲れただろ~?」
「え?別に疲れてないけど?」
「俺だけ…!俺だけなのか!」
アラスは少ししょんぼりとしているようだ。
「まぁ…新しい剣も手に入ったしいいかな。兵士用の剣は切れ味も耐久性も違うって話だからな!」
「俺も新しい槍が手に入ってよかった。前のは結構ガタが来ていたんだ。」
「鉄の剣から鋼の剣に変わったのかな。」
「ん?そうだな俺たち一般の冒険者は鉄の剣だが、兵士が使っているのは鋼と言う金属で作られているらしいんだ。製造法は国家機密みたいだが。」
「え?鋼なんて鉄と…あっ、そうだね。この世界ではまだそこまでの製鋼技術が確立してないんだった。」
「やっぱり鈴の世界はかなり進んでいるようだな。」
「たぶん一国なら五日あれば落とせるんじゃないかな。私より強いし。」
「ひぇ~おそろし。」
鈴の世界の話をしながら街中を歩いていると一件の宿の前に止まった。
「ここにするか。」
「やっとついたか~庶民の生活に戻れる…。」
「アラスには庶民がお似合いだな。」
「まったくだよ…。」
「ほら入るぞ。」
ダラケているアラスとそれを見ていたアームにイルミスの声が掛かる。
アイリスと鈴は既にイルミスの隣に居て、イルミスはドアに手を掛けている。
「今行きます。」
「へーい。」
そういうと二人も宿の中へ入っていく。
中では受付でイルミスが部屋を確保していた。
「二部屋たのむ。」
「はいよ。二部屋ね。一人一銀貨、夕食付きで一人一銀五百銅貨よ。」
「食事付きで頼む。」
「じゃ、五人で七銀五百銅貨ね。」
「七銀五百銅貨…?」
「ほら、五人分だ。」
「ひーふーみー…五人分あるね。これが部屋の鍵よ。」
「さあ、皆いくぞ。アイリス、この鍵だ。」
「ありがとう、鈴行きましょ。」
「あ、うん。」
アイリスとイルミス達は別々の部屋を取り、各自が部屋の中へ入っていった。
「それにしてもこの宿安いね。五人で七銀五百銅貨なんて。」
「そうね。夕食だけみたいだけど王都の宿にしては安いわね。」
「部屋も綺麗だし、なんでだろうね。」
アイリスは杖とバッグをテーブルに置く。
「さて、リーダーのところに行きましょ。」
「そうだね。いこー。」
二人は部屋から出ると鍵を掛け、隣の部屋に居るイルミス達の元へと移動した。
部屋にはいると三人は既に腰をおろしていた。
「来たか。そこらに座って…アラスベッドから降りろ。」
「へいへい。」
「アイリス達はそこのベッドにでも腰掛けてくれ。アラスは立ってろ。」
「え?」
「では話を始めよう。明日からいつもどおりのギルド通いが始まる。そこで久しぶりにギルドランクを上げようと思うのだが。」
「そうだな…最後に昇格試験をやったのはいつだったか…。」
「そうね。一年前ぐらいじゃないかしら。」
「そんなにか。鈴もランクを上げてくるといい。鈴なら直ぐに追いつけるだろう。」
「まだFですし…。」
「昇格試験には制限は無いから一日何度でも受けられるぜ。鈴ちゃんなら討伐でも銃でイチコロでしょ!」
アラスは手を鉄砲の形にするとパーンっと手を動かす。
「それなら直ぐに追いつけそうです。」
「俺らは追い抜かされないように頑張ろう。」
「では明日はギルドランクをあげることとしよう。」
イルミスはそう言うと立ち上がり扉の方に歩いていく。
扉の前で立ち止まるとこちらを振り向いた。
「鈴、ちょっといいか?」
「? はい。」
そう言うと鈴はイルミスの後をついていく。
宿から出て宿の裏に回ると話を始めた。
「この間のネクロマンサーを覚えているか?」
「覚えてますよ。あの気持ち悪いのは忘れろと言われても忘れられません。」
「あいつはあの時、実力の半分も出していない。恐らくランクはBかAに匹敵するだろう。」
「そうなんですか?それが今の状態と何か関係あるんですか?」
「鈴の力が闇ギルドに漏れた。しかも幹部クラスに…だ。」
「狙われるってことですか?」
「そうだ。鈴の力は小隊程度ならあっという間に片付けてしまう。そしてシールドを破る程の高威力の攻撃を連続で叩き込める。俺だったら誘拐か脅しで駒にするだろう。」
「…つまり?」
「なるべく身の回りを気をつけろ。鈴は無防備な状態が非常に多い。そこを狙われる可能性があるから今後ある程度は常に警戒を怠らないように。」
「了解です。ちなみに闇ギルドの構成員は殺しても?」
「ああ。問題ない。しかし、脅されて駒に使われている一般人もいるからそこだけ気をつけろよ。」
「…わかりました。」
「それでは部屋に戻ろう。そろそろアラスが騒ぎ出しそうだ。」
そう言うとイルミスは宿の裏から消えていった。
「狙われる…かぁ…。地球じゃそんなこと無かったからなぁ。ちょっとは気をつけないと…。」
そう言うと鈴も宿の自室へ戻っていくのであった。