徹夜組と言うものは私には理解できないのである。
「!?」
鈴はベッドから飛び起きた。
「あら、おはよう。そろそろ夕食じゃないかしらね。」
「あえ…あ、そうだね。」
「寝ぼけてる?」
「いや、ちょっと変な夢を…。」
「ふーん。」
「(私の部屋に男の人が!?何だあの夢は…。)」
しばらくしてイルミス達が帰ってきた。
何故かアラスだけがヘトヘトになっている。
「うへえ。疲れた…リーダーもアームもなんで俺ばかり訓練相手にするんだよ~。」
「日頃の行いを省みろ。」
「イイコトしてる筈なんだけどなぁ。」
「バカ言え。」
「ん~?お、鈴ちゃんのベッドの隣は俺が貰った!」
そう言うと鈴が座っているベッドにダイブしようとアラスが飛んできた。
鈴は咄嗟に腕を前に出してしまった。
「汗臭い!」
「グヘェ!」
ドサッと空中で押し返されたアラスは背中から絨毯に落ちたのだった。
「ざまあ無いわね。」
「ち、ちくしょー!……汗流してくる。」
「ほら!そこの男二人も汗流してきなさい。」
「そうだな…、そうするか。」
「わるかった。」
そう言うと三人とも汗を流しに外へ出て行った。
「あーびっくりして目が覚めた。」
「アラスはいつもあんな感じだから気をつけたほうがいいわよ。」
「うん。」
しばらくするとメイドがやってきた。
台車には人数分の料理が積まれている。
「御夕食を届けに参りました。…五名様と聞いておりましたが、残りの三名様は…?」
「汗を洗い流しに言ってるだけだから置いといてくれればいいよ。」
「かしこまりました。」
メイドは運んできた料理をテーブルに並べると一礼をして部屋から出て行った。
「ごっはん~ごっはん~。」
「鈴、随分とごきげんね。」
「いやだって、この世界にきてから初めてまともな料理にありつけるんだよ!それはそれで私の中の食に対する美徳感というか渇望というか、混沌としたものが心の底から沸き上がってきて、そもそも日本人は食に対しては五月蝿い民族で――。」
「あー、何か語り始めちゃった…そっとしておこうかな。」
鈴が何か混沌としたものを語っている隣でアイリスは食事を始めた。
イルミスたちが返ってくる頃にはアイリスは食べ終わり、鈴は何やらまだ語っていた。
「で、あるからにして!日本人は食には五月蝿いのである!」
「何言ってるんだ?」
「あ、イルミスさん達早かったね。料理運ばれてきたよ。」
「早くないわよ。私なんて食べ終わったよ。」
「あれ?いつの間に!?」
「鈴が何かわからない事を語っている間に食べ終わったよ。」
「よーし!俺たちも食うぜ!」
アラスは近くの椅子を引くと、そこに座り料理を食べ始めた。
鈴も椅子に座り、料理を食べる。
「このパン柔らかい…!」
「なんて言ったって城の食事だしな。」
「スープも味が濃い…!それにこの肉も柔らかい…!」
「おい、そんなに勢い良く食べなくても料理は逃げないぞ。」
「…ん…おいしかった!」
「食べるの早くないか?」
「そう?普通だよ!」
「そうか…。」
「さて!食後のデザートは…。」
アラスはそう言うと鈴とアイリスをチラっと見たが次の瞬間にはアラスに杖が振り下ろされていた。
「…いつもより厳しいぜ…。」
「鈴、アラスが変な行動を起こす前にこうする。分かった?」
「う、うん。」
「辛いぜ…。」
そんなやりとりをした後鈴達はベッドに入り、寝入ったのだった。
それから数日が過ぎ、今日もまた新しい朝がやってきた。
朝日が窓から入り込み、鈴の顔に当たる。
「ん~眩しい…。」
鈴は体を反対側に向けるとまた眠りに落ちていこうとしたが、唐突な出来事が起きた。
それは嵐のように音を立て廊下を走っている。
そして扉の前まで来ると勢い良く扉を開けたのだ。
「鈴はいるか!」
「な、なんだ!?」
「何事だ!?」
「いるな!ちょっと借りて行くぞ!」
「あえ?」
駆け込んできたのは…そう、エルガーだ。
エルガーは鈴を脇に抱えると勢い良く部屋を出て行った。
嵐が去った客室は静寂に包まれたのだった。
「なんだったんだ?」
「さぁ…。」
その頃鈴は…
「ふえええええぇぇぇぇぇ!?」
鈴は寝起きで一体何が起きているのか理解できずにいた。
二度寝をしようと眠りに落ちようとした時部屋の扉が開けられ脇に抱えられたのだ。
「うおおお!ついに出来たぞ!バネが出来たぞおお!」
「え?姉?」
「バネだ!バネ!やっと出来たんだ!」
「バネ…?んん?あ、ん~?」
寝ぼけている鈴の頭が徐々に冴えていく。
「ああ!バネね!やっと出来たんだ!」
「そうだ!野郎どもと毎晩徹夜した甲斐があったぜ!」
「で、なんで私脇に抱えられてるんですか?」
「ちんたら走ってたらバネが冷めちまう!」
「いや!冷ましましょうよ!」
そういいながらもエルガーは鈴を脇に抱え工房へ走って行く。
鈴は諦めてエルガーに抱えられて行くことにしたのだった。
工房に到着するとそこには疲れ果て座り込んでいる男たちがいるのであった。
「皆徹夜で疲れてるのね。」
「おうよ!お前ら!なーに疲れてるんだ!せっかく完成したんだからもっと騒げ!」
「エ、エルガーさん…どれだけ力仕事したと…。」
鈴は工房に見たことがない道具が置かれているのに気がついた。
それは穴が沢山開いている金属と大きな手回し機らしきものが置かれている。
「エルガーさんこれは?」
「おう、それも作ったんだ。で…だ。これが出来たバネだ!」
エルガーが差し出してきたバネは以前のより格段と細く、マガジンに使える弾性と大きさを実現していた。
「この手回し機と専用の道具で金属の棒を力ずくで伸ばして細くしたんだ。」
「で、この有り様と言うわけですか。」
「最近の若いもんは力がない!」
「いや、エルガーさんが力ありすぎじゃ…。」
「何か言ったか?」
「いえ何も。」
「で、だ!このバネをだなここに作ってあるパーツと組み合わせてこうすると……ほれ!マガジンとやらの出来上がりだ!」
「おー。ついでにこれ何発です?」
「四十は入るぞ。弾丸のサンプルはこれだ。」
エルガーはテーブルに置いてあった金属の塊を一つ鈴に投げ渡した。
それはライフルと同じ形状をしており、尻は丸く凹んでいる。
この凹みは魔法の爆発を受ける為の凹みなのだろう。
「よく出来てますね。」
「だろ?本体も一個できているんだが、魔石が用意できていないんだ。おい!本体を組み立てるぞ!パーツ持ってこい!」
「は、はい。」
そう言われると若い男性がパーツを抱えてこちらへやってきた。
テーブルにパーツが置かれると有ることに気がついた。
ストック、グリップ部分が木製で出来ており、本体は軽量化のためか少し独特な形になっている。
エルガーはそれぞれのパーツを組み立てると一丁のライフルが出来上がった。
魔石をはめると思われる場所が開いているが一応出来上がったようだ。
鈴はそれを受け取ると各部を見ていた。
さすがにライフリング加工は出来ていないようだ。
「これマガジンどうやって固定してるんですか?」
「ここのレバーを下ろすと固定される仕組みになってる。」
「へー。こうすると…お、外れた。で、こうすると固定されると。」
「後は魔石をはめれば完成なんだが、パーラの方の魔石加工がまだ終わってなくてな。」
「そんなに難しいもの何ですか?」
「俺にはわからん!なんでも繊細なものみたいだ。」
「後で本人に聞いてみようかな。」
「俺には魔法はわからないからな。こういうもんは作れるが、魔法が関わるとさっぱりわからん。」
エルガーは鈴が持っている魔導ライフルを見ながら肩を竦めた。
その後鈴は魔導ライフルをエルガーに戻すと部屋へ戻る。
「ただいま。」
「おう、鈴ちゃんさっきのは何だったんだ?」
「魔導ライフルの部品が完成したらしいから連れてかれてたの。」
「その魔導ライフルってなんだ?」
「これの魔法バージョンってところかな。」
そういいながらM4を出現させる。
「まぁ、性能的には拳銃より精度、飛距離悪くて威力は同等ってところかな。」
「そんなのが開発されてたのか。」
「ちょっと脅威かもしれない。」
「そうなのか?」
「ええ。弓は矢を取ってから構えて引き絞り放つである程度先手をとれれば勝てるけど、鈴の使ってる武器と同じ用に放たれたら確実に負ける。」
「そんな軍隊作られたら俺たちの立場が無くなるな。」
「うーん。でもそんなにポンポン使ってられないと思うよ?弾なんて一発撃ったら終わりだから鉄を一回で結構消費するし、魔石の魔力もあるしね。」
「使えて近衛騎士当たりか、専用の小隊か。」
そのような話をしていると朝食の時間になっていたようだ。
部屋の扉をノックされた。扉の向こう側からは女性の声が聞こえてくる。
「朝食をお持ち致しました。」
「あ、はい。今開けます。」
扉の一番近くにいた鈴が対応し、扉を開けた。
メイドが一礼して料理を運び入れてくる。
今朝の朝食はサラダとスープとパンだ。
「このサラダ…瑞々しい!さすが王城の食卓に並ぶ野菜だ!特にこのぶべえ―」
「鈴五月蝿い。」
「ご、ごめん。」
鈴はアイリスに叩かれ椅子に座ると静かに食べ始めたのだった。
その後鈴はパーラの元へと向かう。
しかし、肝心なことにパーラの部屋がわからなかったのだ。
鈴は大きな城の中で迷子になってしまっていたのだった。
「ここどこ!」
鈴は道に迷っていた。
地球に居た時駅の地下でぐるぐると迷っていたことを思い出す。
そして運が悪いのかメイドや兵士の一人も鈴の近くを通りかからない。
「ふええぇぇぇ。迷子になっちゃったよぉ…。」
などとふざけていると道の角からとある人物が出てきたのだ。
「あれ?アゼリア?」
「む?鈴か。」
「ききたいことあるんだけど」
タイミングが被り二人が同時に喋る。
「あ、先にどうぞ。」
「いやいや、そっちこそ。」
「……。」
お互い譲らない二人はその場でしばし沈黙してしまった。
「たぶん同じことを聞くと思うんだけど…」
「そうだな。私もそんな気がするのだ。」
「ここどこ!」
二人の声は王城の廊下に響いたのだった。
偶然にも出会ったアゼリア。
二人ははぐれないようにメイドや兵士を探しに行くのだった。
「誰も居ないぞ!」
「そうですね。」
アゼリアと鈴は道を進む。
廊下の角を曲がるとそこにも誰も居なかった。
しかし二人は気がついていなかった。
道を曲がった瞬間元の道にメイドが来ていたことに。
二人は何度も曲がり同じところを回っているような気がしたが、それでも一人も人に合わなかった。
「ど、どうなってるんだ。」
「お、おかしいですね。」
迷い始めてか早一五分。
その時どこからか兵士の声が聞こえてきた。
「ルーツ姫様!何処に居られますか!」
「む!ここだ!」
「何処ですか!」
「ここだと言っているだろう!」
アゼリアが叫びしばらくすると兵士がやってきた。
「探しましたよ。お一人で城の中を歩きまわらないでください。」
「む。それは私が方向音痴だと言いたいのか?」
「いえ、違います。もしもの事があってからでは遅いのです。」
「(この人絶対言ってることと思ってること違うだろうな…。)」
「そ、そうか。心配かけたな。」
「(えぇ!?丸め込まれてる!?)」
「では何処に行くのですか?」
「私の目的は鈴だったんだ、鈴は何処に行こうとしていたのだ?」
「私はパーラさんの所へ行こうとしていました。」
「よし、兵士よ。パーラの所へ案内せよ。」
「ハッ!」
鈴は兵士の案内のもとパーラの部屋に無事に到着することが出来た。
アゼリアはドアノブを捻るとあたかも自分の部屋の用に入っていく。
「パーラ」
「…」
「パーラ」
「…ずー…。」
「起きないか!」
「ひゃい!」
「お前徹夜していたのか?」
「あー、あー?ルーツ姫?あ、ああ!おはようございます!ルーツ姫!」
「お?そのきれいなのは魔石だな。出来上がったのか?」
「はい。徹夜の末魔石の性能を最も生かす形に加工し終わりました。」
「よくやった。早速これを工房へ持って行くぞ。」
「それにしてもエルガーさんといい、パーラさんといい、二人共徹夜するんだなー。」
「新しい魔道具の為の魔石だ!徹夜しないわけがない!」
「そういうものなのかな。」
「そういうものだ。」
「お前たち早く行くぞ!工房まで頼む。」
「ハッ!」
鈴、アゼリア一行は工房へ向かい、歩いていくのであった。
いざ投稿というと気にたった一日でバネや魔石を仕上げるのはおかしいと思い急遽一部変えました。
矛盾が発生していたら報告をいただけると幸いです。