なによりも!経験が足りない!
息抜きにとある男の異世界入りを入れてみました。
その後何も解決しないまま鈴は工房から出ると、客室に戻っていた。
結局のところバネ…針金の作り方がさっぱりわからなかったのである。
太いバネの試作品はできていたがあんなのはマガジンには使えない。
硬すぎるのだ。
「うーん。やっぱり人生うまくいかないものだねー。」
鈴はバネをどうにか出来ないか考えながら歩いていると、前からパーラが歩いてきた。
「おや?貴方は先ほどの。」
「ん?あ、えーっと…。」
「王宮魔法使い隊長のパーラです。」
「パーラさんですね。先程は挨拶できずにすみません。」
「いや、いいんだよ。私もしてなかったからね。」
「では改めて…はじめまして倉木 鈴です。」
「パーラ・スレイトだ。よろしく頼むよ。」
「パーラさんは何故こちらに?」
「いやね、武器の完成具合どうかと見に来たんだ。ルーツ姫指導の元新しい魔道具ができるんだ。後世に名を残したいではないか。」
「ははは…でも進んでいませんよ。」
「何?」
「バネを作るのに悪戦苦闘しているみたいです。」
「それでは私の作業も進まないではないか!それ意外の場所をすすめるようにちょっと文句言ってくるよ。それでは鈴さんさようなら。」
「さようなら~。(研究者っぽい人なのかな?…魔法使いって皆あんな感じなのかな?アイリスに聞いてみよう。)」
そう思いながらパーラと別れると客室へと戻っていった。
「ただいまー。」
「おかえり。」
「あれ?三人は?」
鈴が部屋に戻るとイルミス、アーム、アラスの三人が居なかった。
アイリスは椅子に座り目を閉じていた。
「訓練に行ったよ。私は瞑想中。」
「瞑想って魔法の訓練か何かかな?」
「自分の中の魔力を意識してそれを操る訓練。こうすることによりより効率よく魔法を操ることができるの。」
「へぇ~。魔力が無い私には分からないや。」
「鈴は何か訓練しなくていいの?」
「ん~一応エイム…射撃の訓練してこようかな?」
「……五月蝿いのは勘弁してね。」
「……なるべく静かにしてやるね。」
鈴は部屋を出ると城の中を歩き始めた。
訓練所の場所はもちろんわからないので、城の廊下を歩いていたメイドに場所を聞くと訓練場に歩き出した。
しばらく歩くと開けた場所に出た。
そこには剣を振るっている兵士達がいる。
ここが訓練所のようだ。
イルミス達も一角を借りて訓練を行っている。
「えっと弓兵の訓練所どこだろう。」
鈴がキョロキョロしていると一人の体格の良い兵士が話しかけてきた。
「嬢ちゃんどうした?」
「あ、あの、弓兵の訓練所ってどこですか?」
「ああ、あの扉の先だよ。使いたいならそこの隊長に話しかけてくれよな。」
「ありがとうございます。」
鈴はそう言うと、頭を下げ扉へ向かっていった。
扉を開けると弓兵が案山子に向って矢を放っていた。
訓練場は天井が空いており空気の流れが感じられる。
室内での訓練では矢の起動に関わるため天井が無いのだろう。
鈴は訓練場を見渡すと少し高い位置から周りを見ている一人の兵士が居ることに気がついた。
恐らく彼が隊長なのだろう。
「あのー。」
「ん?なんだ?」
「一箇所貸してもらえませんか?」
「別にいいが…。」
「ありがとうございます。」
鈴はそう言うと空いている場所へ向かって行く。
「おい!弓忘れているぞ!」
「大丈夫ですー!」
「大丈夫って…大丈夫じゃないだろう…。」
「(ん~。余り大きな音立てられないし、サプレッサー (消音器)つけられる銃じゃないとな…。)」
「たく。大丈夫じゃないだろ、ほら弓持ってきたぞ。」
「あ、あれにしよう。MK23!」
それと同時に鈴の手の中にMK23が出現する。
MK23とは日本で言うSOCOM PISTOLである。
45口径自動拳銃だ。
サプレッサーをMK23に装着すると案山子に狙いを定め引き金を引いた。
カシャンっという音とともに案山子に被せられていた兜に当たり金属音を鳴り響かせる。
そのまま撃ち続け弾切れを起こした。
「ふぅ。アシスト有りだとこんな感じか。」
銃弾は曲線形の兜に逸らされてしまった銃弾も合ったが、それなりには穴が空いている。
「次はアシスト無しで…ってどうやるんだろう…ん。意識してやれば切り替えができそう。」
「お、おい。」
「あ、はい。」
「今のはなんだ?光ったかと思えば次は音がなって兜に穴が空いたぞ!」
「あぁ、詳しいことはエルガーさんに聞いてください。これは銃といいます。」
鈴は弓をわざわざ持ってきてくれた隊長と話していたが、いくらサプレッサーを着けているとはいえ発火の際の音や駆動音、金属音などにより視線が集まっていた。
鈴はそれに気がつくと少し戸惑った。
「え?何?」
「恐らく先程のが原因だと思うが?」
「…デスヨネー。……お騒がせすみませんでしたー!」
鈴は咄嗟に訓練場から逃げ出した。
「何だったんだあの娘は。」
鈴は剣術を訓練している訓練場に戻るとイルミス達の元へと近づいていく。
それにいち早く気がついたのはアラスだった。
「お?鈴ちゃーん!」
「アラスさん後ろ!」
「え?どわああ!」
よそ見をしていたアラスにアームの模擬刀が振り下ろされようとしていたのだ。
「よそ見するな!」
「へーい。」
アラスはアームとの模擬戦に戻っていく。
するとイルミスが話しかけてきた。
「どうした?」
「いやね、射撃の訓練でもしようと思ったんだけど、何か変な雰囲気になっちゃって…。」
「そりゃぁ鈴は異質すぎるからな。」
「なにそれひどい。」
「しょうが無いだろ…。俺と模擬戦してみるか?剣で。」
「剣なんて使ったこと無いよ?…いやまてよ…前ゲームで…いやでもあれTPSだし…。」
「何を言っているんだお前は。」
鈴は以前やっていたTPSのゲームを思い出していた。銃火器もさながら剣もサブウェポンとして使えたのだ。
しかし、銃火器関連にしか適応されないアシストに剣が適応されるのかわからなかった。
鈴はなんとなく模擬刀を手にとって見た。
構えてみてもへっぴり腰で全然らしくないのだ。
鈴は溜息を付きながらも当たり前のことと割り切っていた。
「やっぱり駄目みたい。そりゃあ銃じゃないし?アシストが発動するわけが…んん~?」
鈴は先ほどからアシストを無しにしていたのを忘れていたのだった。
「おっと、アシストオフにしたままだった。」
鈴は意識してアシストをもとに戻すと持っている剣に違和感を感じた。
先ほどまでは手に馴染まなかった剣が今では手に馴染むような感覚になっているのだ。
「お?お?銃意外にも適応される?あれ?あの時なんて言ったっけ?」
鈴は神と会った時の事を思い出していた。
"もちろんシステムアシストも必須だからね。新人なんかが銃火器を扱えるわけがないからね。"
更にもう一つ思い出した。
"うーん。これはどう考えてもゲームの知識が入ってると思える…。もちろん使えるんだろうなぁ。"
「(あれ?これってもしかしてアシストって私がやってたVRMMOのも入ってる?)」
VRMMOではのほほんとした生活を送っていた鈴だったが、時には動物などを狩りに行っていた。
その時に剣を使っていた事を思い出した。
VRFPSもさながらVRMMOでも鈴は廃人と呼ばれる領域に至っていた。
「(これならいける!)」
鈴はそう確信し、イルミスへ振り返る。
「よし!イルミスやろう!」
「構えが独特だが、我流か?」
「これもアシスト!」
鈴はイルミスに斬りかかるが現実そんなに甘くなかった。
アシストが入るのはあくまでも構え方、斬り方であり、動物相手にしか使っていなかった剣はイルミスに容易く受け流され逆にやられたのだった。
「勢いだけは良かったが弱すぎるぞ。」
「だってぇ~アシストがあるから行けると思ったんだもん。」
「太刀筋だけは良かったな。だが、あんな素直で直線的な攻撃なんて人間には通用しないぞ。」
「そうですか…。(スローライフなゲームじゃなくて普通のVRMMORPGやっておけばよかった…!)」
結局のところアシストはあくまでもアシストだけであり、経験までもアシストされるものではないのだ。
この世界では銃を撃てば標的を倒せ、VRFPSしか経験がない鈴でも生きていけるが、仮に銃が普及した世界であった場合はそうではなかっただろう。
鈴は訓練場を後に、客室へ戻っていた。
「で、結局訓練も出来ず、イルミスに剣で挑んで返り討ちにされたのね。」
「あははは…。暇だなぁ。」
「私はまだ瞑想中だから。」
「はーい。」
鈴は客室のベッドに横になるとそのまま寝入ってしまったのだった。
「どうだ?そっちの様子は。」
「んー。刺されたりしてたけど元気にやってるよ。」
「おいおい、俺が選んだ人間が早速怪我か?」
「そうなんだけど、そうしなかったらお姫様が刺されてたよ。」
「ふーん。あいつはあいつなりに頑張ったってことだな。」
「それで、こっちが送った人は何してる?」
「ああ、それなら見てもらったほうが早いな。」
「さて、世界最強の魔法使いは魔法の使えない世界でどのように生きてるのかな?」
「ありがとうございましたー。」
「おい新入りさん!もう上がってもいいぞー。」
「はい!先輩お疲れ様です。」
この世界にきてから数日。
俺は…コンビニの店員をしていた。
いきなり神に呼び出されこちらの世界に放り出された。
そう、今日のような雲ひとつ無いあの日に。
「君技術世界に行ってもらうから」
「はい?」
「何かほしい情報とか有る?」
「…その前に説明を求めます。」
「あ、そうだね。隣の世界の神と神様企画って言うものを考えていてね、世界から一人を選んで永久交換留学生みたいな感じのことをやろうと思ったんだよ。」
「永久って死ぬまでで?」
「うん。」
「ちょ、ちょっとまってくださいよ!明日―」
「明日ドラゴンを倒しに行く予定だって?うーん。他のパーティに任せればいいんじゃないかな。」
「ほかのって…あいつはっ!」
「そうだね。並大抵…いや、普通じゃ…まあどうでもいいや。」
「どうでもって…もしその時になったら責任とってくださいね。」
「大丈夫。きっとどうにかなるよ。」
「…。」
「で、技術世界にいくのに何がほしい?」
「向こうの世界の知識と金です。」
「いいよ~。知識はっと。」
「うっ!?」
「どう?どんな感じ?」
「これは…。」
「君たちからしてみたら未知の世界だ。面白いだろうね。お金はダラケないように3ヶ月分渡しておくから。」
「ちょ、ちょっと待て!浮浪者になるということは就職も出来ないみたいだぞ!」
「あー。じゃ、こうしよう。向こうの世界で抜ける人の枠に君が最初から居たように組み込んであげよう。これそこの家族の知識ね。」
「…っ!」
「矛盾は世界が解決してくれるから問題ないよ。部屋の物は少し消しておくから頑張ってね。」
「あ、ちょ―」
「いってらっしゃーい」
そう言うと男の意識は暗転したのだった。
「ここは…。」
知識からこの場所を引っ張りだす。
どうやらここは向こうの世界に送られた人の部屋らしい。
部屋の中には知識だけで実際に見たこと無い物の数々が並んでいる。
不自然に何も無いところは神が消したのだろう。
ふっと、目に入ったものが有った。
それは四角い板のような物だ。
知識では液晶テレビとでてくる。
映像を受信する機械ということらしい。
「どれどれ…。」
スイッチを押してみるとテレビの電源が入りお笑い番組が映った。
「うわ!板に人が!…って知識があっても驚くな…。」
男は窓から外を眺めると辺り一面が光っている光景が目に飛び込んできた。
下に動くは鉄で出来た馬車…車。
立ち並ぶは大きな城壁…ビル群。
そして馬のようなもの…自転車。
それが男の見た初めての技術世界だった。
男は来ていたローブや服を脱ぐとクローゼットの中に押し込み世界によって修正された衣装棚を開けた。
そこには男物の洋服が入っている。
男はそれに着替えると部屋の電気を付けようとした。
「えっと?電気を付けなければ…このスイッチか。」
スイッチを入れると部屋の照明が光を放った。
「おぉ!明るいな!魔道具でもこんな明るさは確保出来ないぞ。」
男は一つの違和感を覚えた。
「魔道具…?魔力が感じられない…?」
男は世界から魔力を感じないことに気がついた。
「どういうことだ…<光よ。ライト。>」
その言葉だけが虚しく木霊した。
「うん?<光よ。ライト>…発動しない?」
男は考え込んだどうして魔法が発動しないのか。
そして一つの考えに至った。
「そうか。魔力を感じない…つまりこの世界に魔法の概念は存在しないのか。」
その時扉の外から声が掛けられた。
「正明、ご飯よ。」
「正明?…あ、俺か。今行くよ!」
そして男は倉木 正明としてこの技術世界で生きていくこととなったのだった。
そんなこともあって元魔法使いの正明くんはコンビニで働き始めたのだった。