バレたなら仕方がない。お前には死んでもら・・・嘘ですごめんなさい
"アゼリアがナイフで刺される"
どうする?
"撃ち落せ"
そんなこと無理。
"ならどうするの"
どうするの?
"加護がある。"
加護をどうするの?
"こうする"
その時鈴の左肩に投げナイフが刺さった。
「ああああ!」
"刺された"
何に?
"ナイフ"
どうして?
"アゼリアを庇ったから"
当然の結果でしょう?
"痛い"
当然でしょ?
"痛い痛い痛い痛い痛い"
どうしたの?
"血が、痛い、死ぬ、死ぬ?死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない"
死にたくないならどうするの?
"死にたくない、私は死なない私は死なない、死ぬのは"
死ぬのは?
"あいつだ!"
「死ね!」
周りには聞こえないほど小さい声でそうつぶやくと引き金を引いた。
「ん…。ここは…。」
鈴は体を起こすと寝ぼけ眼で当たりを見渡した。
そこは石レンガで出来た部屋だ。
ある程度の装飾がなされ客間といった感じだ。
寝ぼけ眼でぼーっとしているとドアが開いた。
入ってきたのはイルミスだ。
「鈴起きた―」
そういうとイルミスはドアを閉めて出て行ってしまった。
「??……?」
鈴が頭を下に下げると徐々に頭が冴えていく。
「…?あれ?なんで裸?ん~?イルミス?…あ。」
その時静かな城に悲鳴が響き渡った。
その悲鳴を聞いてイルミスはやっちまったっと言う表情で壁にもたれ掛かっている。
悲鳴を聞いてか兵士達が集まってきたが、イルミスが事情を説明して兵士たちを散らしていく。
しばらくしてイルミスは部屋のドアをノックした。
中から入出の許可が出るとイルミスは部屋の中へ入っていった。
中に入ると鈴が胸を押さえながら涙目になっていた。
「イルミスさんの変態!」
「あれは冤罪だ。いきなり入った俺が悪いが。」
「って、あれ私ナイフで刺されましたよね?」
「ああ、刺されたぞ。アイリスが魔法で直してくれたから良かったものを…」
「後でアイリスにお礼言わないとね。」
「そうだな…その前に一つ良いか?」
「なんですか?」
ムスッとした顔で鈴が答える。
「鈴、お前記憶喪失なんて嘘だろ。」
「えっ―。」
「お前の言動は不審点がありすぎる。」
「いや、本当に―。」
「本当のことを話してくれないか?こう見えても冒険者始めて大陸は一通り回った。お前の武器の事も黒髪の貴族も見たことがない。お前は何処の誰だ?」
鈴は俯いた。
黒髪が垂れ、表情が伺えなくなる。
「…。」
「…。」
そして顔を上げるとつまらなそうな表情を浮かべた。
「あーあ。もう少しバレずに行動すれば良かったかな。しょうが無い…。」
そう言うと鈴はプラスチックで構成されている銃を出現させた。
「どういうつも――」
「残念だよ。イルミスさん。」
鈴は喋り終わる前に引き金を引いた。
ポンっという音とともにイルミスに小石があたった程度の痛みが生じた。
「なーんてね。」
「は?」
「うそうそ。これは玩具。ただのドッキリだよ。」
「お前…。」
「…そうだね。私は記憶喪失なんかじゃない。」
「ならお前は誰だ?」
「名前は嘘じゃない。ただ世界そのものがわからない。」
「どういうことだ?それだと記憶喪失と変わらない。だがお前には記憶がある。これは矛盾するぞ。」
「ぶっちゃけると私この世界の人間じゃないんだわ。だからこの世界の常識とか分からない。」
「なんだと?ならこの世界の他にも世界が有ると言うのか?」
「うん。この世界の神と私の世界の神がなんか神様なんちゃらってやつで私とこの世界の誰かと交換したって話になるんだけど、信じる?」
「普通だったら信じないが、実際に鈴と合った日から有名な魔法使いが行方不明になっているんだ。」
「あー。多分その人だね。」
「しかし、お前はどんな世界から来たんだ?国王様の前で膝を着かない、城を珍しがる、それに始め剣や槍をまじまじと見ていた。後魔法だな。」
「どんな世界って言われてもなぁ。」
鈴は少し考えると答えた
「想像してみて、馬なしで走る鉄で出来ている馬車、鉄で出来て大勢を乗せて空を飛ぶ鳥、城より大きい建物が乱立し、そこを行き交う人々と馬なしの鉄馬車。そんな世界には剣も槍も弓もない。平和な世界。」
「…非常に想像しにくいのだが…。」
「とりあえず機械といわれる物が人間の代わりに作業をしたりしている。科学といわれる技術で出来ている世界と思ってくれればいいよ。」
「科学っつうとあれか一時期石ころを金に変えようとしていた学者が居たな。錬金術だっけか。」
「あ、その概念こっちにも有るんだ。科学は錬金術が化学になって発展したもので、そこからあらゆる原理、世界の法則が解き明かされていった。私の居た世界では仮想世界を作り出し、そこに意識を投影することも出来た。」
VRのことである。
0と1で構成された仮想の世界であることにはかわりはない。
「で、そこから来たと。」
「うん。」
「何故黙ってた?」
「その設定のほうが都合がよさそうだったから。」
「人の気持ちを突いたな?」
「うん。」
「お前なぁ…。」
「でもいきなり違う世界から来ました。助けてくださいって言って助けてくれる人なんている?」
「…居ないだろうな。」
「でっしょ~?だーからそこで私はそういう設定にしたんだよ。」
「自慢することではないぞ」
「まぁ、私にとっては剣も魔法も城も珍しいものなんだよ。私の世界では殆どコレですからね。」
そう言うと今度は本物の銃を出現させた。
「ハンドガン…拳銃が基本的武器。そしてアサルトライフルは一般的に戦争や紛争で使われる兵器。」
今度はアサルトライフルを出現させる。
「剣なんて殆ど使われないし、弓なんて民族が使う程度で後は競技用。それにこんなに大きな城…拠点は目立ちすぎる。あっという間に破壊されてオシマイ。私の世界には陸、海、空でも攻撃できる兵器が沢山有る。だからこの世界の武器、特に魔法には興味があったのです。」
「まあ、凄いことは分かった。これからは隠し事は無しだ。パーティに亀裂を入れかねない。で、能力は神から貰ったと言うことか。」
「はーい。わかりました、イルミスさん。能力はそうですよ。」
「で、この事だが余り周りに漏らさないほうがいい。鈴も見ていたと思うが、教皇派のやり方を。」
「身で覚えました。」
「そうか。教皇派はいわゆる神を信仰し、教皇が神の代理人として政治を神の代わりに行おうとしている。神の加護を受けた鈴が表に出てみろ。良いように利用されるのが目に見えている。そこでこのことはパーティ内だけの秘密とする。いいか?」
「はい。大丈夫です。」
「では俺は戻らせてもらう。目が覚めたかの確認だったからな。」
「イルミスさん?後言うことは無いんですか?」
「なんだ?」
「イルミスさん?」
「いや、だから何のことだ?」
「イルミス。」
「俺が何かしたか?」
「駄目だこいつ早く何とかしないと…ならこの銃で撃ちぬいて…ふふふふ。」
「おい、物騒なこと言うな。俺が何をした?」
「私の裸見た。」
「ああ、あの事か。良かったなアラスじゃなくて。」
「イルミスー!」
「ぬわー!!」
その頃客室では…
「リーダー遅いな。」
「そうだね。」
「…ハッ!まさか二人で…!クソ!こうして居られない!俺も直グフゥ。」
「ナイスだアイリス。」
「ぐぉぉ…腹が…。」
「それにしてもさっき鈴の悲鳴が聞こえたな。」
「そうだね。きっとリーダーが何かやらかしたんでしょ。」
「そうだな。」
二人は紅茶を啜りながらリーダーの帰りを待っていた。
一人はテーブルに突っ伏し、悶え苦しんでいるのであった。
「わかった!?」
「あ、あぁ。先程はすまなかったな。」
「最初からそういえばいいのに。」
「いや、何のことだかわからなかったんだ。許せ。」
「鈍感。」
「ん?何か言ったか?」
「なーんにも。用が終わったなら皆のところ行きましょう。アイリスにお礼をしたい。」
「そうだな。そうだ、服の穴空いた部分は城のメイドが直しておいてくれたぞ。」
「あ、そういえば…。」
刺された箇所は血で汚れておらず、元の色を保っている。
服の縫い目も綺麗に縫われ、遠くからでは気が付かないであろう。
「よし行くぞ。」
「はい。」
城の廊下へ出ると見張りの兵士二人が立っていた。
鈴はふっとあの時のことを思い出し、兵士に声を掛けた。
「すみません。少しいいですか?」
「何でしょうか。」
「弓で射られた兵士さんは大丈夫だったのでしょうか。」
「ああ、あの二人なら大丈夫です。魔法による治療で傷はふさがり、公務には支障は及ぼさないでしょう。」
「そうですか…良かったです。質問に答えてくれてありがとうございました。」
そう言うと鈴はイルミスに声をかけパーティの皆が待つ客室へ移動するのであった。
それと同時に見張りをしていた二人の兵士も何処かへ移動していく。
恐らくアゼリア、国王の元へ報告に行くのだろう。
イルミスと鈴は廊下をある程度進んでいくととあるドアの前で立ち止まった。
ドアノブをひねり中へ入るとアーム、アイリス、突っ伏しているアラスが居た。
「リーダー遅かったじゃないか。」
「すまん。ちょっとゴタゴタが有ってな。」
「ゴタゴタってなんですか!」
「鈴、もう肩は大丈夫?」
「あ、アイリス治してくれたんだって?ありがとね!」
「それが私の本職だからね。魔法なら任せなさい。」
「それで…アラスは…うん。見なかったことにしよう。」
「そ、そんなぁ~鈴ちゃ~ん…。」
「よし。それでは皆で国王様へ挨拶に行くとしよう。俺が喋るから皆半歩下がって待っててくれ。」
「了解。」
「わかった。」
「へぇーい」
「わかりました。」
皆がそう答えると部屋から出て行き、王座の間へ向かって移動を始めたのだった。
兵士が金と木で出来ている扉の前に立つとその扉をノックした。
中から声が聞こえてくる。
「入れ。」
「失礼致します!先ほど鈴様が目を覚まされました。今はパーティの方に行っていると思いますが、これからこちらに参ると思われます。」
「そうか、目を覚ましたか。下がって良いぞ。」
「ハッ!」
そう言うと兵士は扉から出て行った。
「ここに来るのであったな。そこの者、アゼリアを呼んできてはくれないか?」
「ただいまお待ちを。」
そう言うと王座の間にある扉に入っていった。
入って少し立つと先ほど入っていった兵士とアゼリアが出てきた。
「お父様、何か用があるの?」
「娘よ、鈴殿が目を覚ましたようだ。」
「本当か!今直ぐ―。」
「まぁ、まて。今こちらに向かっているはずだ。」
「そうか。」
そう言うとアゼリアは国王の隣にある椅子に座った。
「やはりこの椅子のほうが座り心地が良い。どうしてもお父様の様なゴテゴテしている者は硬くてかなわん。」
「娘よ…その堅い喋り方はどうにかならないのか…。」
「ならん。これが私の喋り方だ。」
そんな話をしていると扉がノックされた。
「入れ。」
兵士が扉を開け、そこからイルミス達が入ってくる。
「失礼致します。」
イルミス達は中ほどまで歩くと膝をついた。
鈴は周りを見て咄嗟に真似をしたのであった。
「この度はお部屋をお貸しいただき誠にありがとうございました。なんとお礼を言ったら良いか…。」
「良い。使っていない部屋などたくさんある。気にしなくても良いぞ。」
「ハッ。有難き幸せ。」
「さて、先日の事について話そうじゃないか。兵士からの報告によると教会門前で一回目の襲撃が合ったそうじゃないか。」
「はい。」
「その時に不審に思ったことはないか?」
「あります。」
「言ってみよ。」
イルミスはあの時の教皇の不審な動きを話す。
「暗殺が実行される前、教皇が私と兵士を遠ざけるように大きくルーツ姫様を捕まえるようにして掴みました。まるで教皇が自分をターゲットマーカーに、暗殺の標的を指示し逃がさないようにするかのようでした。」
「ふむ。娘よ、それで合っているか?」
「うむ。あの教皇が私に大きく手を回し、二人を遠ざけたのは事実だ。仮に矢が射られたり、ナイフを持ったものが来ていた場合逃げれなかっただろう。」
「次に暗殺者についてだが、あの暗殺者は自殺した。」
「やはりそうですか。」
「こちらとしても当てにしていなかった。」
アゼリアが鈴に声を掛けた。
「鈴、あの時何が見えた?」
「ひゃい!?」
鈴は話しかけられるとは思っても居らず違うことを考えていたため声が裏返り変な返事になってしまった。
アラスは笑うのを堪え、鈴は真っ赤になっている。
「…落ち着け。」
「…はい。あの時見えたのは弓矢と腕だけでした。残念ながらそれ以外には何も…。」
「ふむ…お父様。鈴は見張り台(塔)から教会の前にある宿屋まで狙撃したのだ。」
「なんだと?」
「鈴、もう一度あれを出してみよ。」
「はい。」
鈴はそう言われるとM24A3を手元に出現させた。
「でかいな…しかし、それだけであの距離を狙えるとは思わないのだが。」
「それには理由があります。」
鈴はM24A3に装着されているスコープを外すとM24A3を下に置き、スコープだけを国王に手渡しに行く。
「これは…。」
「覗いてみてください。」
「…!!なんと壁が目の前に!」
国王は本当に驚いているようだ。
「それはスコープと言います。主に遠くの標的を狙う時や遠くの物を見るときに使います。後者は双眼鏡と言うものになりますが原理は同じです。」
「なるほど。これで教会前まで視野を伸ばし、狙い撃ったと言うわけだな?」
「はい。」
鈴はM24A3を消すと国王の手にあったスコープも光の粒子となり消えていった。
そして元いた位置に戻って行く。
「次に我が兵士達が負傷した件だ。報告によると鎧を貫くボルトを使っていたそうだ。間違いないな?」
「はい。間違いありません。」
確かにあの時兵士達はフル装備で合ったがボルトに貫かれ負傷していた。
「…鎧を貫けるほどのクロスボウなど軍用しか販売、制作を許可していない。何故だ?」
「恐れ入りますが、推測があります。」
「申してみよ。」
「闇ギルドが関与している恐れがあります。」
「闇ギルドなら持っていてもおかしくはないか…。次に浮浪者に扮していた暗殺者についてだ。」
鈴は一瞬ピクッっと肩が反応する。
「はい。ナイフの投擲でルーツ姫様を狙ったようですが、あの動きは素人ではありません。恐らく浮浪者に扮して街や情勢を伺っていたスパイなのでしょう。」
「こちらも報告を受けている。兵士の一人が知り合いだったそうだ、それ故に油断を生んでしまったのだろう。」
「鈴、もう肩は大丈夫か?」
「はい。アイリスに魔法をかけてもらい助かりました。…少し貧血気味ですが。」
「そうか。あの節は助かった。礼を言う。」
「いやいやいや、別に当然のことをしたまでですよ!お礼なんていななないです。」
「鈴、お前すこし落ち着け。」
「…はい。」
「現在教皇の裏を調べている。そこで頼みたいのだが、裏が取れ次第教皇を拘束する予定だ。その際に立ち会って欲しいのだ。」
「ハッ!我々のパーティはその時に立ち会うことをお約束致します。」
「それは嬉しい事だ。時は追って知らせる。それまで客間を使うと良い。」
「ありがとうございます。」
「では下がって良いぞ。」
「あ、鈴は少し残れ。」
「え?は、はい。」
そう言われるとイルミス達は王座の間から出て行ってしまった。
鈴は一人だけその場に残り何を言われるかドキドキしながら待っているのであった。