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魔法でゴザル


「では早速、魔法についての簡単な説明と適性判断を始めるわね」

魔法学校の一室にてセレスメイアによる初めての講義が始まった。エレインの適正によっては最初で最後になる訳だが。


「エレインは魔法は見た事ある?」


エレインは頷いた。

唯一見た事が有るのが、先日の盗賊オウルが放った火炎を発する魔法だ。


「へぇ・・・。それは、なかなか高位な魔法ね。

その魔法を使った奴は何か持っていなかった?」

「わ、分かりません。あっという間だったから」

「あら、そう。実はね・・・

魔法には触媒として必ず必要なものが有るわ」


そう言いながらセレスメイアはエレインの前で手を広げる。

掌の上には透き通った鉱石が乗っていた。


「それがこれ。鉱物よ。

これは水晶だけど、この世に存在するあらゆる鉱物が触媒となるわ。

・・・光よ!」


水晶から激しい光が発せられる。

薄暗かった部屋が照らされ、二人の影が壁に大きく写され、ユラユラと揺らめく。


「そして、鉱物の種類と使える魔法は密接に関係しているわ。

・・・んーと。

そうね、例えばエレインが見た炎を発する魔法にはルビーの様な貴石が向いているわね。

希少な鉱石ほど魔法が発現する効果は高いと言われているわ。

エレイン、ルビーは・・・知ってるわけないわね。

後で色々な貴石を見せてあげる。

えーと、エレインが知っていそうなのは・・・鉄とかね。

魔法を掛けて丈夫にした鉄で作った鎧は、普通の鎧よりも着ている者の命を守ることが出来るの。

・・・まぁ、この辺りは授業でも教えるわ。

少しずつ学んでいきましょうね」


真剣な眼差しで頷くエレイン。

それに満足したセレスメイアは次の説明に移る。


「じゃあ、今度は適正について説明するわ。

これからやってもらう検査に関係するから、良く聞いてね」


ついに適性検査だ。これがエレインの今後に関わってくるというのはエレイン自身も良く理解している。

真剣な面持ちでセレスメイアの次の言葉を待つエレイン。


「魔法は大きく四種類に分けられるわ。

火、水、風、土、と言う風にね。

その考え方の事を四大元素と言うのよ。

この言葉と、この四種類の要素については良く覚えておきなさい。それでね、普通の人は、火、水、風、土のどれか一つに適性が偏るのよ。人によって得意な魔法が違うという訳ね。

それを、これから調べるわ」


エレインに四つの水晶が渡される。


「その四つの水晶のの内、一つだけを握りしめて」


エレインは言われたようにする。


「水晶はね。四大元素のどれにも偏らない鉱石なの。

だから、適性検査の時は水晶を使うのよ。

それじゃあ、目をつぶって、これから言う事をイメージしてね。

・・・あなたの大事にしている人が煮え滾る溶岩の中で苦しんでいるわ

・・・その原因を作ったのは、アナタが最も憎み、さげすむ人間よ・・・アナタは胸の中に赤くて熱い怒りが充満するのが感じられるわ。

・・・それを手の中の水晶に込めなさい」


手の中の水晶に熱を帯びるのが感じられた。


「それじゃあ、目を開いて?」


エレインが大きく息を吐いて目を開く。


「手の中の水晶を私に見せて?」


エレインが水晶をセレスメイアに渡すと、彼女はそれをマジマジと見たあと、金属で作られた皿の上に乗せ、「発火せよ」と呟いた。水晶は一瞬、赤く光ったかと思うとボッという音と共に発火した。たき火・・・の種火になら辛うじて使えるかという位の、とても小さな火だ。


「火のエレメントには向かないみたいね。

何となく分かっていたけど。

火のエレメントに適性のある人は、怒りっぽかったり、直感的な人が多いのよ。

アナタは、そうは見えないものね。

・・・それじゃあ、次に行くわよ?

さっきと同じように水晶を一つだけ握りしめて」


少しだけ落胆したようなエレインが言われたとおりにすると、またセレスメイアが抑揚のない声で決められた言葉を紡ぐ。


「それじゃあ、目をつぶって、これから言う事をイメージしてね。目の前で戦争が起きているわ。

何万と言う騎馬が駆け、ぶつかり合い、多くの血が流れるわ。

アナタの大事な人も巻き込まれて死ぬかもしれない。

アナタは何としても、それを止めたい。

アナタは胸の中に青白く冷たい策略が浮かぶのが感じられるわ。

・・・それを手の中の水晶に込めなさい」


セレスメイアが先ほどと同じように水晶を皿の上に乗せ、「凍てつけ」と呟くと、皿の表面に僅かに白霜が付いた。

セレスメイアが溜息を付く。


「・・・これも駄目ね。気にせず次に行くわよ」


セレスメイアが気を使うが、エレインは気にした様子も無く、既に次の準備が出来ていた。


「じゃあ、いくわよ。

アナタは大怪我をしているわ。

その上、アナタの目の前には大事な人が死に至る病で倒れている。けれど、その時、緑色の風が吹いてアナタとアナタの大事な人の傷と病をすっかり癒してしまうわ。

アナタは安らかな気持ちに満たされる。

・・・それを手の中の水晶に込めなさい」


目を開けて手の中の水晶をセレスメイアに差し出すと

彼女は、それを枯れかけた植物の傍に置いて「癒しなさい」と呟いた。

すると、植物は僅かに緑を取り戻す。


「うーん・・・。風のエレメントが一番向いていると思ったけど、そうでもないわね。火や水よりは効果が出ているようだけど・・・そうなると、土のエレメントが向いてるのかもしれないわね。

さぁ、次に行くわよ」


少しばかり焦りを覚えながらエレインは目を瞑る。


「アナタは敵に囲まれているわ。

全身を鎧で包んだ屈強な軍隊よ。

アナタは石造りの家に立て籠もっている。

敵がアナタの家に侵入しようとしているけど、アナタの家はビクともしないわ。

アナタは大きな安心感に包まれる。

・・・それを手の中の水晶に込めなさい」


エレインが目を開けると、金槌を持ったセレスメイアが立っていた。

エレインから水晶を受け取ると、それを金槌で思い切り叩く。

金槌を持ち上げると、そこには粉々になった水晶が有った。


「あらら・・・。これも駄目ね・・・。

こうなると、一番の適性は風のエレメンタルって事かしら。

でも、合格点には程遠いわね・・・困ったわ・・・」


エレインは落胆のあまり、足から力が抜けていくのを感じた。

ここに居られなくなる・・・。


「大丈夫よ。もし、全ての検査で適正が無くても、私がなんとかして、ここに居られるようにしてあげるから。

・・・それに検査は、これで終わりじゃないのよ?」


驚きと僅かな期待と共にエレインは顔を上げる。


「あっ・・・。でも、あまり期待しないでね。

これからする検査は呪術の適性を計るためのものなの。

でも、呪術の適性が有る者は、数十年の間、一人も居ないのよ」


それを聞いて、再び肩を落とすエレイン。


「そ、それじゃあ、呪術の説明をするわね。

四大元素と大きく違うのは、呪術には触媒である鉱石の他に代償が必要なのよ」

「代償ですか?」

「そう。生贄とも言えるわね。とにかくやってみましょう。

さっきと同じように、これを握りしめて、目を瞑ってね」


渡されたのは、先ほどまでの無色透明な水晶ではなく、紫水晶だった。


「えーと、恨みなさい。憎しみなさい。

アナタの大事な者を奪ったものを。

アナタを蔑むものを。

それらを黒い霧が包み、命を奪う様を見たアナタは黒い喜びが胸に満ちる。

・・・それを手の中の水晶に込めなさい」


エレインは母親が死んだ夜の事を思い出していた。

しかし、その夜、どのような感情がエレインの胸の中にあったのか思い出せなかった。


「エレイン?」


セレスメイアの声で我に返ったエレインは紫水晶を渡した。

セレスメイアは、それを植物の入った瓶の中に入れ、

「腐れよ」

と呟いた。


「ほら、大抵は何も起きないわ。起きても、せいぜい植物がしおれるくらいで・・・」


と言いかけたセレスメイアが目を見張る。

植物は枯れ果て、細切れになって崩れ去る。

発言した呪術の効果は、それだけでは収まらず、瓶の底、瓶を置いていた机を溶かし、石造りの床に大穴を開け、ようやく落ち着いた。部屋に異臭が立ち込める。


「な、な・・・なによこれ・・・こんなことって・・・」


驚愕するセレスメイア。

その隣でエレインは意識を失い倒れたのだった。



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