魔法学校でゴザル
ラシャーナにつき従い、帝都までやってきたエレイン達。
そこで住居を与えられ、新しい生活が始まった。
従者が一人居て、望めばいつでも食事を用意してくれる、夢のような生活だった。
従者の名前はテミロと言って19歳の女性だ。
エレインにとても優しく接してくれて、まるで姉が出来たかのように感じていた。
新しい生活を初めて暫くは何事も無く経過する。
といっても、何事も無かったのはエレインだけで、ナナマルはと言うと調査と言う名目で何度も王女の元に呼び出されていた。
ナナマルは「くすぐったいので嫌でゴザル」と文句を言ったり、
「オウザ様の奇跡の業は、そう簡単には分からないでゴザルよ」
と得意げに話したりしている。
そうして一週間ほどが経つと、王女の使いがやってきて、エレインが呼び出された。
久しぶりに会うラシャーナはトルーナで見た時よりも、一層煌びやかに飾られていた。
その美しさに引き付けられていたエレインだったが、ふと、脇に控える一人の人物に目が行った。
すらりとした長身の女性だ。
凛とした雰囲気と鋭い眼光が印象的だった。
「久しぶりね、エレイン。体の具合はどう?」
「あ、えぇっと、すっかり良くなりました。あの、お陰様で・・・」
「そう!良かったわ。
それじゃぁ、アナタには明日から魔法学校に通ってもらうわ」
「えっ?」
「私の隣に居るのが、魔法学校の教官のセレスメイア・・・私が信頼する魔導師の一人よ。ナナマルの事も伝えてあるわ。
彼女に案内してもらいなさい」
「セレスメイアよ。宜しくね。エレインさん」
そう言ってエレインの直ぐ前に仁王立ちするセレスメイア。
エレインの目を覗き込むように顔を近づける。
「ふーん・・・。よく解らないわね・・・。
貴女が見立ててきたって訳じゃないんでしょ?ラシャーナ」
「そうよ。行きがかり上、拾ったの」
二人の間柄は随分と親しそうだ。
それにしてもラシャーナを呼び付けにするセレスメイアに
エレインは驚くばかりである。
そんなエレインを暫く眺めていたセレスメイアだったが、深いため息を付く。
「これは、ラシャーナ初めての見たて違いになりそうね」
二人の話の意味が読み取れず、困惑気味のエレインの様子を察してラシャーナが説明を始める。
「王女と言っても窮屈なものでね。
意外と勝手が効かないのよ。
でもね、私、魔法の才を見抜く事に関しては自信が有るのよ。
それで、各地を巡って魔法の才が有る人材を集めてるの。
今まで外れ無し!
だから、お父様も五月蠅い大臣たちも、私の自由をある程度、許してくれているってわけ。
エレイン・・・アナタに魔法の才が無ければ・・・」
急に神妙な顔になるラシャーナにエレインに緊張が走る。
「・・・大臣に嫌味くらいは言われるかもね」
冗談めかした言い方にエレインの肩の力も抜ける。
「でも・・・。そうなると、アナタを帝都に置いておく理由が無くなるわね」
それは困る。とエレインは思った。
「・・・で、そういうわけだから、万が一の時は、セレスメイア頼むわね」
「記録の改ざんって訳ね。私が一番嫌いな行為だわ。
この借りは大きいわよ?さし当たっては、例の精巧なゴーレムでも見せてもらおうかしら?」
「まだ駄目よ。今はね。まだ、何も分かっていないわ。
危ないかもしれない。そんな危険なものを貴女に近づけるわけにはいかないじゃない」
そう言いながら擦り寄るラシャーナをセレスメイアがあしらう。
「分かったわ。なら、もう少し待っていてあげる。でも、安全だと分かったら一番に見せてね」
その二人の様子をエレインは「仲の良い友人」
だと思って眺めていた。
実の所、二人の間柄は友人よりも深いものだったが、
エレインには知る由もない。
何かと、くっ付きたがるラシャーナを引き離すセレスメイア
「それじゃあ、私は行くわね。エレイン、付いてきなさい。
早速、魔法の適性を見てあげる。その後で入学の手続きね」
「もう行っちゃうの?」ラシャーナは名残惜しそうに言う。
「また、後で来るわ」と言い残し、エレインを連れたセレスメイアは部屋を出る。
「仲が・・・良いんですね」
魔法学校までの道すがら、エレインは何となく二人の間柄が気になって聞いてみた。
「ラシャーナと私?
そうね、幼馴染だもの・・・いいえ、それだけじゃないわ。
私とラシャーナは同志なのよ」
「同志・・・ですか?」
「そうよ。アナタも帝都で暮らすなら良く聞いておきなさい。
エレイン、アナタに王女になれたら幸せだと思う?」
「幸せですか・・・?よく解りません・・・」
エレインは幸せについてなんて考えた事もなかった。
でも、少なくとも今の自分よりは幸せなのではないかと考えつつ、答えを濁した。
「そうね。彼女、今でこそ魔導師として、才能ある者の発掘とか新しい術式の開発で名を馳せていなかったなら、今頃、どこかの誰かと結婚させられてたでしょうね。
政略結婚ってやつよ。
そうでないのは、政治の道具より、もっと役立つ使い道が有るからだわ。
貴族の子女である私もそう。
というよりも、この国の女は皆そう。
女を道具か何かと勘違いしている頭の腐った奴や頭の固い脳筋共が、この国を支配しているからね」
エレインは話の内容が全て理解できたわけではなかったが、セレスメイアが何かに憤慨しているのは伝わってきた。
その憎い何かと共に戦っているのが、ラシャーナとセレスメイアだという理解だった。
それならば、エレインは自分を救ってくれたラシャーナの為に共に戦えれば、どんなに良いか。
と、そう考えていた。
「さぁ、着いたわ。
ここがイリーナ魔法学校。
その昔、邪悪な魔導師を退けた聖女と同じ名を冠した由緒ある魔法学校よ」