良かったでゴザル
「まったく・・・何で、こんな子の世話を私がしなくてはならないのかしら」
目覚めたエレインが初めに見たのは、ブツブツと文句を
言いながら、何やら忙しなく動き回っているラシャーナの付き人だった。
「あの・・・ここは・・・」
エレインが声を掛けると、目を丸くして驚くが、直ぐに品定めをするような視線に変わる。
「ここはトルーナの宿です。
アナタは行き倒れていたのを助けられたんですよ」
「そ、そうなんですか・・・済みません。
ありがとうございました」
「アナタを救われたのは、この国の王女ラシャーナ様です。
ラシャーナ様がお出でになるまで、そのままでお待ちください」
そう言って付き人は部屋を出ていく。
エレインは言われた内容に驚きながらも周りを見渡した。
ナナマルは居ない。
それにしても、広い部屋だ。
トルーナの宿と言っていたが、エレインが知るどんな建物よりも立派な作りだった。
そうしていると再び扉が開き、ラシャーナとナナマルが入ってきた。
「あぁ、目覚めたのね。まさか、空腹で倒れていたとはね。
そんな理由だったらエレクシルを使う必要なんてなかったわ」
エレインは目を大きく見開かせた。
入ってきた人物の美しさに驚いたからだ。髪は艶やかに伸び、
着ている衣服は神々しい程に煌びやかだった。
そんな驚きに囚われているエレインにドタドタとナナマルが
駆け寄ってきた。
「あぁー!エレイン殿!良かったでゴザル!
拙者、エレイン殿がシンデルになると思ったでゴザルよ!」
「ありがとう。ナナマル。また、アナタに助けられちゃったのね」
エレインがナナマルに微笑みを返すとラシャーナが割って入った。
「助けたのは私。この国の王女ラシャーナよ。恩に着なさい?」
「あ・・・ありがとうございます」
「さぁ、どうやって恩を返してもらおうかしらね?」
「あ、わ、私・・・」
困惑するエレインに矢次ぎ早にラシャーナが続ける。
「その前に!このゴーレムについて聞かせてもらうわよ?
アナタが主人だそうね。まさか、アナタが作ったの?」
「・・・ゴーレム?」
「何よ。アナタ、まさかナナマルがゴーレムだという事すら知らなかったの?いや、ゴーレムなんていう単純なのものではないわね」
「拙者は魔導鉄器兵FZ70Ⅲ型でゴザル。
ゴーレムなどではゴザらん」
なにやらナナマルは得意げな様子だ。
「魔導鉄器兵・・・初めて聞くわ・・・。
喋ったり、自分で考えて動くゴーレムなんて私も聞いた事ないもの・・・。
本当に驚きだわ。天地がひっくり返ったような気分!
さぁ、エレイン!黙っていないで、アナタの知っている事を話しなさい」
戸惑いながらもエレインはナナマルとの出会いから、
ここまでの事情をラシャーナに話す。
「盗賊団を殲滅・・・。なるほど、戦力としても申し分ないという訳ね。エレイン!この話は他の人に話しては駄目よ?
ナナマルはアナタの騎士という事にしなさい。
勿論、人間のね。
・・・本当は私が貰い受けたいのだけど、いくら言ってもナナマルはアナタが主人だと聞かないから」
コクコクと頷くエレイン。
ナナマルは騎士と言う言葉が気に入ったようだ。
「あぁ、ここでは、これ以上の事は分かりそうもないわね。
エレイン?私と一緒に帝都に来てもらうわよ?いいわね?」
「わ、わかりました」
「そう、いい子ね。では、食事を運ばせるわ。ゆっくりして頂戴」
エレインとナナマルを残して部屋を出るラシャーナ。
外に控えていた騎士の一人に耳打ちする。
「ナウザ村の周辺を調査しなさい。
あのナナマルと言うゴーレムの他にも居るかもしれない。
そうだとしたら脅威だわ。
情報を持ち帰ることを最優先としなさい。
帝都から私の直属の部隊を呼び寄せるわ。
合流次第、調査を開始しなさい。くれぐれも内密にね」