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お断りするでゴザル

「お頭!何やら妙な奴が!」

「あぁー?こんなちんけな村に妙な奴だと?」

「それが凄ぇ強い奴で、歯がたたねぇんで」

「へぇ?用心棒でも雇ったか?

こんな村に、そんな奴を雇うだけの蓄えがあるとは思えないが・・・。

まぁ、見てやろうじゃないか。おい、オウル付いてこい」


その命令に反応したのは脇に控えていた長身の男である。

他の盗賊とは雰囲気の違う、言うなれば訓練された兵士の様な出で立ちの者だった。


「そこの人、あっ!あと、あそこの人も!」


逃げ惑う盗賊たち。

盗賊と村人の区別のつかないナナマルにエレインが指示を出す。

エレインが指差した場所に居る人物は、即座にナナマルに叩き伏せられる。

その動きは、鎧を着こんだ人間とは思えない俊敏な動きだった。


「あっ!そこの人・・・は違った。ゴメンナサイ」


薄暗いせいで正解率は8割程度だが、順調に盗賊たちを無力化していく。

そこに盗賊の頭目とオウルたちがやってきた。


「こいつか?妙な奴ってのは。こんな場所でフルプレートアーマーを装備している奴なんて珍しいな。

けど、武器を持ってないじゃないか。

まさか、こいつらを素手でやったのか?

確かにただモノじゃなさそうだな」


べらべらと喋る頭目の脇を無言でオウルが通り過ぎ、

ナナマルの前に立ち塞がる。

「瞬殺」とボソリと呟く。

と、同時にナナマルの喉元に刀の切っ先が付きつけられていた。

刀はナナマルが2本の指で掴んでおり、ピタリと止まっている。

「不可解な・・・」と呟き、首を傾げるオウル。

微動だにしない刀を放棄して後ろに飛び跳ね、ナナマルに向けて掌をかざす。

そして「炎殺」と呟く。

すると、掌から火炎が吹き出し、ナナマルを包んだ。

満足そうに笑みを浮かべるオウルだったが、何事も無いように歩を進めるナナマルに驚きの表情を浮かべる。

そして、オウルは成す術無くナナマルに壁に叩きつけられて昏倒した。

続いてナナマルは、「おいおい!何だコイツ!」と喚きながら逃げ出そうとする盗賊の頭目の腕を掴みオウルと同じように壁に叩きつけた。


無力化した盗賊たちは広場に集められた。

その盗賊たちの今後の扱いについて、村人たちは決めかねていた。

意見は大きく2つ「役人に引き渡すべきだ」という者と、「即刻、死刑に処するべきだ」という者だ。

後者は盗賊団に深い恨みが有る者たちで、その意見は容易には曲げられそうもない。

だが、この国の法に寄れば私刑は違法である。

「埋めちまえばいいんだ!」

と言うのは妻を奪われた男の意見である。

「そうだ、ここには盗賊団なんて来なかった。

今夜の出来事は、ただの火事。役人には、そう言えばいい」

と続けて別の男が言う。

その様子をエレインは怯えた様子で眺めていた。

本来、エレインの様な子供は、この会合に出席するべきではないが、謎の人物ナナマルに深い関係が有りそうなエレインも立ち会うように言いつけられていた。


「皆の意見は良く解った。

確かに役人はあてにならん。皆の言うとおり、この者たちには然るべき報いを受けさせようと思う」


盗賊たちは口々に恨み言や命乞いを叫ぶ。

そんな中、笑い声を上げるものが有った。盗賊の頭目である。


「何が可笑しい!?」と不快感を露わに村人が詰め寄る。

「お前らごとき下人がオレ様の命をどうこう出来ると思ってるのが可笑しいのさ」

「なんだと!?貴様!自分の置かれてる状況が分かってないのか?それとも気が違ったか?」

「分かっているさ。お前たちが下人でオレが貴族の者だって事がな」

「な・・・に?」


村人だけでなく盗賊の間にも驚きの声が上がる。


「オレの名前はラウル・イバンス。イバンス家の三男だ」

「う、う、嘘だ!大貴族のイバンス家の者が盗賊なんてやってるわけがない!助かりたくて出鱈目な事を言ってるんだろう?」


イバンスという名を知っているのは、ごく少数のようだった。

しかし、このような辺境の村に、その名を知る者が居るというのは並大抵の貴族ではない。


「本当さ。イバンス家の者である証拠の品もある。

ネックレスだ。見てみな」


確かめ者が先ほど以上の驚きの声を上げる。


「・・・本物だ」

「これで解っただろう?

お前らごときがオレ様に手を出せないって事が!」


言葉を失う村人たち。

やっとの事で一人の老人が声を発する。


「な、なんで、貴族様が、このような真似を・・・?」

「ふん。オレ様はな。

安穏とした日々を送るお前らと違って、いずれ兵を率いて戦場に出る身だ。

これは演習だよ。

このオレの練度が上がれば、それだけ、お前らの生活を脅かす共和国の奴らを打ち倒すことが出来るという事だ。

お前らの村は!必要な犠牲を払ったに過ぎないんだよ!」


「ふざけるなぁぁぁ!」


叫び声を上げたのは妻を失った男だ。

殴りかかろうとする、その男を他の村人が押さえつける。


「駄目だ!手を出せば村ごと消される!」


その言葉に殴りかかろうと勇んだ男もガックリと項垂れる。

別の男がラウルを縛っていたロープを解くと、

ラウルは、まだ項垂れたままの男の後頭部を踏みつけた。


「これこれ、こういう事だよ。これがお前らとオレとの正しい位置関係なんだよ!」

「どうしたの?どうして、アイツを自由にするの?」


事態が飲み込めないエレインは近くの村人に説明を求めるが、答える者は誰も居ない。

そうしているとラウルがエレインの方に歩み寄ってきた。

いや、目当てはエレインの隣に立っているナナマルだった。


「お前!何者だ? ・・・いや、何者だとかはどうでもいい。

オレの手下になれ。聞いてただろ?オレは貴族だ。

お前ほどの奴なら騎士に取り立ててやってもいいぞ?」

「お断りするでゴザル」

「は?何でだよ?既に誰かに仕えてるのか?」

「そうでゴザル。我が主人は隣に居るエレイン殿でゴザル」

「はぁ!?冗談だろ?

こんなチンチクリンが?からかってんのか?」

「我が主人に対する狼藉は許せないでゴザル。エレイン殿、如何するでゴザルか?」

「イカガスルって?」

「この男をどうするのかはエレイン殿が決めて良いって事でゴザル」

「アタシが・・・どうしたいかって事・・・?」

「そうでゴザル」

「おい!ふざけんな。こんなガキ・・・」


ナナマルが威圧すると、ラウルは口をつぐんだ。

そして、エレインが代わりに言葉を発する。


「アタシ・・・この人の顔は二度と見たくない・・・」

「では、殺すでゴザル」

「ひっ!」「ま、まって!」


あっさり結論を出すナナマルにラウルとエレインが同時に声を上げる。


「殺したりするのは・・・ちょっと・・・」


12歳の少女に人の命をどうこうする決断は下せない。


「そうでゴザルか。ならば、こうするでゴザル」


ナナマルがラウルに向き直ると、ラウルは背を向けて逃げ出した。

それを事もなしにナナマルが捕獲し、胸ぐらを掴んでラウルの顔目掛けて拳を振るう。

二度、三度と拳が振り下ろされる。


「ナナマル!止めて!死んじゃう!」

「大丈夫でゴザル。死なないでゴザル。今度はこっち、あー。こっちの方も、もう少し」


なにやらブツブツと言いながらラウルを叩き続ける。


「できたでゴザル!」


そう言ってラウルの顔をエレインの方に向ける。ラウルの顔は原形を留めていない。


「わ・・・」絶句するエレイン。

「ほら、違う顔になったでゴザル。

これで如何でゴザルか?

もう少し叩いてみるでゴザルか?」

「・・・も、もういいよ。ナナマル」

「お気に召して良かったでゴザル。

我ながら、なかなかの傑作でゴザル」


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