命令でゴザルか?
「困ったでゴザル。困ったでゴザル」
そう言いながら村に帰るエレインの後を付いてくるナナマル。
すっかり日が陰っている事に気付かなかったエレインは少し慌てながら村に向かって早足で歩いていた。
まだ今日の分の仕事も終わってないし、帰りが遅くなると叔父に折檻されてしまう。
村が近くなってくるにつれて大きくなる違和感に気付かなかったのは急いでいたためだろう。
空が赤い。
夕暮れの空の赤さでは説明が付かない程に・・・
村が燃えていた。
村が盗賊の襲撃を受けるのは、もう何度目だろうか・・・?
エレインの叔父は、そんな事を考えていた。
一昨年は妹・・・エレインの母親の命を奪っていった盗賊たち。
どうやら同じ連中が今日も村から何かを奪う為にやってきたようだ。
それは自分の命でありませんように。と頭を抱えながら祈るばかりであった。
その頭の中には昼頃から姿の見えなかったエレインの事は欠片も無い。
エレインが村に着くと、そこには凄惨な光景が広がっていた。
エレインは後ろを振り返りナナマルに向かって叫ぶ。
「村を・・・村を助けて下さい!」
エレインを助け、コボルトを撃退したナナマルなら願いを聞き届けてくれると信じていたが、ナナマルからは望んでいた答えは返ってこなかった。
「何故でゴザルか?」
呆気に取られるエレイン。何故?盗賊に襲われる哀れな村人達を助けるのに理由が居るとは思ってもみなかった。
そういえば何故だろう?何故、自分はここに返ってきたのだろう。
自分の住む場所を守るため?
・・・いや、盗賊たちは全てを焼き尽くす事はしないのは分かっていた。
前に来た時もそうだったからだ。
守りたい人が居る?
・・・居ない。肉親は大嫌いな叔父だけ。友達も・・・居ない。
立ち尽くしているエレインとナナマルを数人の盗賊たちが取り囲む。
「なんだ?こいつ・・・大層な鎧を着てやがる」
「帝国の兵じゃねぇな・・・?傭兵か何かか?」
「とりあえず、そこの小娘はなかなかの器量だ。
・・・売れば金貨3枚くらいか?」
エレインの顔が恐怖に歪む。
全身を鎧で包んだ謎の男は気になったが、多勢に無勢だ。
何も出来ないだろうと盗賊の1人がエレインに近づいた。
「おい!小娘!こっちにこい!」
エレインの腕を掴んだ瞬間、ナナマルが盗賊の顔を殴っていた。
「何しやがる!こいつ!」
続いて襲い掛かる盗賊たちも叩きのめすナナマル。
「どうして・・・?」
ナナマルが自分を助けてくれた理由が分からないエレインは不思議そうにナナマルを見つめる。
「さぁ?どうしてか自分でも分からないでゴザル。
自分がどうしていいか分からないのでゴザル。
オウザ様は、もう何も言ってくれないのでゴザルから・・・」
「だったら、この盗賊たちをやっつけて!
私からお母さんを奪った盗賊たちを!一人残らず!」
じぃっとエレインの顔を見つめ、何やら考えている様子のナナマル。
それを睨み返すエレイン。
「・・・それは。それは命令でゴザルか?」
エレインに命令という言葉の意味は解らなかったが、本能的に肯定を示すように首を大きく縦に振っていた。
「・・・では、今よりエレイン殿が我が主人でゴザル」
そう言ってナナマルは村の中心に向かって歩いて行った。