何者でゴザルか?
12歳の少女エレインは森で独りぼっち。
エレインの村は貧しく、12歳の少女であっても立派な労働力である。
今日も焚き木を集める為に森に入ったのだ。
森に入った時は1人ではなかったが、不意に起きた大地震でパニックを起こし、一番年下のエレインを置いて、皆、村に走り去ってしまった。
取り残されたエレインは、まだ村までの帰り道を覚えおらず、あても無く彷徨うしかなかった。
途方に暮れながら俯いて歩く。
いつの間にか足元が見なれた地面ではなく石畳になっていたが、エレインがそれに気付くのには時間が掛かった。
気付いたエレインが「あれ?」と思った瞬間、足元の石畳が崩れ、ぽっかりと空いた暗闇に引き込まれるように落ちてしまった。
結構な高さから落ちたエレイン。せっかく集めた焚き木はすっかり失われてしまったが、命までは失わずに済んだようだ。
エレインが落ちてきた穴からは陽光が漏れているがそれは酷く遠く、エレインはもう二度と光の下に戻れないような気がした。
立ち上がろうとするも足がひどく痛み、立ち上がれない。
エレインは絶望した。ここで死ぬのだと。
身寄りのないエレインを村の人たちが探しに来ないという事をエレインは良く自覚していたからだ。
それからエレインが過ごした時間はどれほどのものだったのかは誰にも分からない。
エレインは夜と昼の移り変わりを数えたりしなかった。
ただ、ただ絶望の中をエレインは漂っていた。
・・・エレインの耳に何かの金属音が響くまでは。
それは足音だった。
その足音の主がエレインの前に立つまで、足音だとは信じられなかった。
信じたくなかった。真なる絶望の中の微かな希望は苦痛でしか無いからだ。
こんな所に誰かが居るはずがない
しかし、それは目の前に現れた。
それは全身を鎧に包んだ何者かだった。
「助けてください」
と声に出そうとしたが、掠れて言葉にならない。
必死に声を出そうとするエレインより先に謎の人物が声を上げた。
「何者でゴザルか?侵入者でゴザルか?
それならば排除せねばならぬでゴザル」
エレインには言葉の意味は良く解らなかったが、
急いで事情を説明しなければ良くない結果になるという事は理解できた。
まだ言葉は発せない。
焦ったエレインは自分が落ちてきた穴を指さした。
「あぁ~!あそこから落ちてきたでゴザルな?」
うんうん、と首を縦に振るエレイン。
「それならば侵入者とは違うでゴザルな。
では排除しなくて良いでゴザルな。
・・・しかし、どうすれば良いでゴザルかな?」
そこで、ようやくエレインが掠れた声を上げる。
「村・・・。村に帰りたいです」
ゴザル口調の騎士は「ふむ」と考える様子を見せるが、
一向に答えが出ない。
焦れたエレインが、もう一度、目の前の謎の人物に懇願する。
「村に帰してください・・・!」
その言葉に強く反応するゴザル口調の騎士。
「それは命令でゴザルか?命令でゴザルな!?」
「命令ってわけじゃ・・・」と口籠るエレインを無視して興奮した様子の鎧騎士。
「いやぁ!命令を受けるのは久しぶりでゴザルな!
本来なら主人であるオウザ様以外の
命令を受けてはいけないのでゴザルが、ご主人様は、
もうずっと口もきいてくれないのでゴザル。
拙者は・・・なんというか寂しいのでゴザル」
困惑するエレインを無視して喋り続ける。
「村に送り届けるでゴザルか・・・。
それくらいなら聞いてもよいかも・・・。
しかし、ご主人様が・・・うーん」
暫くエレインをチラチラ見ながら悩んでいたが、
意を決したようにゴザルは声を上げた。
「よしっ!その命令を受けるでゴザル!行くでゴザル!村に!」
エレインを抱き上げゴザル口調の男は歩き出した。
その歩調は真っ暗闇の中でも確かなものだった。