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初詣

作者: 水城

世間は健康志向で、寝正月を決め込むのも罪悪感が募る。母と私が、習慣にもない初詣に元日早々出かけたのは、運動不足解消が目的だった。となると近所では意味がない。駅に行く途中の丘に鳥居があったわね、と母が思いつき、ならばと道もろくに調べずに家を出た。だが、道程は思ったより遠く、次第に日は蔭り、小雪までちらつき始めた。もう引き返そうかと、どちらともなく口にしかかった時、やっと神社の入口らしきものが見えてきた。崖沿いに細く続く古びた石段の手すりに、妙に真新しい幟が何本も立っている。あまりに急勾配の階段に一瞬怯んだが、何とか最後まで登りきった。すると、そこにはトタン屋根の小屋が一つきりあるだけで、鳥居も賽銭箱もない。人気のない小屋の脇には粗大ゴミが転がり、一匹の犬が繋がれていた。剥製の様に痩せこけ、吠えもせず、じっとこちらを見ている。折角来て柏手の一つも打たずに帰るのでは釈然としない。周囲に目をやると、木々の間から灰色の鳥居が垣間見えた。そこまで行っては見たものの、あまりにも小さな鳥居。賽銭箱のつもりなのか、蜘蛛の巣だらけの木箱が置かれ、空き瓶に雑草が一本投げ入れてあった。その中の水が汲みたてで透明なのが、酷く奇妙な感じがする。はて、ここでお参りをしたものかと戸惑っていると、母がまた思いついた。もっと上に本殿があるんじゃない? では上がってみるかと、足を踏み出そうとした瞬間、背後から銅鑼と太鼓が大音量で鳴り出した。無人の小屋の中から響くその音は、明らかにカセットか何かの再生だと分かる類のものだった。上っても何もないかもねと急に母が云いだすと、私も初詣など、もうどうでも良くなってしまった。母と私は、いつの間にか本降りとなった雪の中、疲れた足を引きずり帰っていった。家でネットの地図を調べると、あの辺りに確かに神社が表示された。ただ、その名前は階段の幟に書いてあったものとは、全く違っていた。

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