5/31
鬼子母神の夢
夢を見ていた。
江戸の長屋、病んだ女がやつれた顔で乳飲み子を抱いていた。
この子に生きてほしいと泣いていた。
別の場所、一人の男が文机に向かい、写本を作っていた。
男はこの世の不思議に少しばかり足を突っ込んでいた。
特殊な薄い墨で、赤子を喰らう妖怪が、情に絆され業に逆らい、人の子を育てようとしている話を綴っていた。その墨には様々な願いが籠められていた。
賑やかな通り。
男は女と擦れ違う。
女は若々しく病みの影もなく、こざっぱりとした身なりで、擦れ違う男に会釈して通りすぎた。
子どもを連れている気配はなかった。
そんな、悲しい夢を見ていた。