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夢を見た。  作者: 雪月
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青い波の夢



夢を見た。


まずは、見たこともない駅から始まった夢だった。

巨大な卵が建築物になったような立体的な駅で、いくつもの階段が折れ曲がり、エスカレーターが無数に交差して伸びていた。

階段の踊り場にコジャレたファーストフードコーナーがあるかと思えば、朝市のように屋台が並び、迷路のような人混みをすり抜ければならないお土産物売り場が並ぶ。

目的の切符売り場、改札の駅員、どこか分からない吹き抜け、いくつもの乗り換え案内。

ようやく辿り着いたホームは、武骨なコンクリートの長方形が3つ並んでいるだけで。

過ぎていく列車も様々。

新しいもの、古びたもの。

座席は革張りのソファもあれば、木のベンチもある。

未来の列車は鋭角。レトロな汽車は停車もせずに、煙をはいたまま通り過ぎようとした。乗客は慣れた様子で、汽車の手すりを掴んで飛び乗り、ひょいと飛び降りる。

トロッコのような、背もたれのない座席がむき出しの1両車両も通っていく。

やっと、いつもの見慣れた電車を見つけた。

半世紀ほど古びた気配があるが、それでも“いつもの”電車だ。

警笛を鳴らして今にも発車しようとしている様に、慌てて飛び乗った。

そして、乗り間違いに気がついた。

見慣れぬ風景が窓の外を流れているじゃないか。

しかし、ここで慌てて電車を降りてしまうと、よろしくないことを経験則で知っている。見知らぬ無人駅に立ち往生する羽目になるとか。反対側の電車は1時間後の予定、急行列車が無情にも通りすぎていくのを見送るばかりとなってしまうのだ。

大きな駅に着くまでと思っていたはずなのに、いつの間にやら古びた木造の列車に乗っていて、終点、海に着いた。

そして、気付いたら多くの人たちと共に、砂浜に座っていた。

私たちは波に洗われる貝殻だった。

三方をコンクリの堤防に囲まれた箱庭のような湾で高波が起こった。

四角い青空を埋め尽くす碧い、波。

ざぶぶんと頭上から押し寄せる大きな波。

壁際に逃れれば波に押し潰される恐怖。壁を離れれば波に浚われる恐怖。

しかしそれでもなお、ああ、そのいくつもの透明を重ねて不透明になった碧の美しさに、絵を描かなくてはと思った。


今、この瞬間を切り取るための絵筆を、私に。


これは日本に多くの被害をもたらしたもの。

憧憬を抱くなど不謹慎であると頭の片隅で考えながらも惹かれてやまない、美しい波の夢だった。



そんな夢だった。




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