あやかしの夢
夢を見た。
街のそこかしに黒い霞のような悪いモノが溜まり、それを退治して歩くふたりの男の夢だった。
今の時代、見える人間も力ある人間も少ない。
黒い霞は増えるばかり。
男たちはそれでも各地を歩き、その地に住まうアヤカシに対価を与えて協力してもらい、黒い霞を退治し、その後の土地を守ってもらおうとしていた。
ちなみに、アヤカシの姿は小振りなカボチャやウリに落書きした手足が生えたようなモノだったと記しておこう。
その、小さき力のアヤカシたちにいつまでどこまで土地の守りをお願いできるのか。
黒い霞は増え続け、しかしそれは人の目に見えない。
いつか崩壊するだろう。焼け石に水と分かってはいた。
ある日、線路脇に残る竹林の中。
手伝ってくれるアヤカシのために、竹の花を咲かせようとしていた。普通ではない竹に咲く、普通ではない花だ。
まず、その竹を見つけるのに苦労した。
高架橋に貼りつくような狭い竹林のはずが随分と歩いて、やっと竹を見つける。
すぐそばを列車が通り過ぎてゆき、見下ろすように黒い霞が広がっていた。
男のひとりは竹の前にしゃがみこんで、竹の花を咲かせようとしていた。
ぼんやりとした小さな光が手のひらの間に。
そして、小さくて固いつぼみがついた時、男は倒れた。
対価に、力を使いすぎたのだ。
倒れた男は街を離れることになった。
残されたもうひとりの男は、急いで竹の花を咲かせようとしていた。
ほとんど見る力しかないくせに霊力の代わりに生命力を削って、アヤカシたちと生きようとしていたあの男が、帰る列車の中からでもいい、この花を見ることができますようにと祈りながら。
きっと優しくも悲しい明かりを、男は列車の窓から見たはずだ。
そんな、忘れられていくアヤカシの世界の夢だった。