トカゲの夢
夢を見た。
何も知らずに暮らす人々の生活のすぐ側で怪異はうごめいている、そんなちょっと不思議系の夢だ。
少年に頼まれて、男は少年の家に来ていた。
居間のソファーに並んで座っている女性と足元の犬は彼の相棒。
お茶を運んできてくれた少女は、少年の姉。不意の来客を不振な目で警戒している。
男は一心不乱に絵を描いていた。
大振りのスケッチブックにクレパスのカラフルな色彩。
緑と青。混ざる茶と黒。
彼は、目に触れぬ怪異に姿を与える能力を持っているのだ。
描き上がろうとする絵が『何』であるかに気づいた男の手が、ギクリと止まり慌ててスケッチブックを閉じた。
「ムリ!ぜってームリ!」
犬を抱えて飛びずさる姿にぱちくりと、どうしたのさ?と仲間の女性がスケッチブックのページをめくろうとするのを見た男は、ヒッと情けない悲鳴を上げて、とうとう居間から廊下に逃げ出した。
開かれたページには色鮮やかなジャングルのような緑。
他には何も、何もいない。
ずり、ずり、ずりり。
不気味な這いずり回る音が響く。
「ゴメン!俺、それはマジで無理だからゴメン!」
「ああ、蛇」
女性は呆れたような諦めたような納得顔で頷いた。
誰にでも、本能で無理なものはある。
しかし、細長く蛇行する影は、怯える男を獲物と定めたようだ。
ひーっと抱えた犬を抱きしめて家の中を逃げる逃げる逃げる。
抱えていた犬はいつの間にかいなくなった。
と思ったら、庭の外にいた。
え、お前何でそんなところに。
窓の外を見る。
後ろから追いかけていたヘビも、なぜだかいつの間にか外にいた。
犬が食われるよヤバイよと庭に飛び出して、きちんと見えたヘビの姿はどちらかというと、これってツチノコ?
ちょっと大きすぎてちょっと細長すぎるけれど、不自然に四角い胴体からなんとなく。
でもダメ。小さい足が生えていようが無理なものは無理。
なんにしろ慌てて犬を抱えて、すたこらさっさ。
途中、相棒とか少年とかを囮にしたりダメな大人になったりしながら、逃げに逃げて、台所の、窓から玄関と表通りを伺っていたら声が上がった。
「うわっ、なんだこれ」
「えっ!先生!何でいるの!」
少年の声がした。
他にも何人かの子どもの声。
すわ、巻き込まれ被害が!
おっとり刀で玄関まで。
廊下を曲がる時に転びそうになって犬は先に駆け出して、靴をつっけて道に出ようとして、先生とやらののんびりした声が。
「こいつ、お前のペットか?かっこいいな!えーと、コモドオオトカゲだっけ?」
そこで、いつもお馴染み夢の中の急な場面転換。
というか、後日談。
先生が、少年の家の前を散歩している。
周りには子どもたちがいる。
先生はリードをひいていた。
その先には、あのツチノコ。
のしのしと歩いている。
ペットも飼い主もなんだかご満悦。
八方丸く収まったならまあいいか、とそんなふうに終わった夢だった。