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夢を見た。  作者: 雪月
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夜明けの夢





夢を見た。


ヒーローの夢だった。


彼は誰かを守るために強くなり、誰かを助けるために戦いボロボロになって、今は平凡な生活をしていた。


ぬるま湯のような日々は情熱の炎を消し、感情のさざ波も随分とゆるやかになってしまった自分は、まるで立ち枯れていく古木のようだと、窓から庭を眺めて過ごす。




夢独特の時間経過と場面転換があり、彼は凍った夜の戦場にいた。


彼の目の前には、友人がいた。


敵だった気がする。


羽はなかった気がする。


そんな古い友は、白い翼で空を飛び、神殺しに挑もうとしていた。


神はいたか?


居はしなかった。


つまり、それほど無謀な戦い。


戦いの中で生きてきた彼には、平和な時代に今更戦いなど無意味だと止めることはできない。


それにこの戦いが、避けられない因果であり、果たすべき復讐であるとも理解していた。


しかし、彼はなぜこの場に呼ばれたのか。


共に戦うためなのか。


それはできない。


伝えなければならない事実。


自分にはもう戦う力がなくなっている。なんの手助けにもなりはしないと、歯痒く告げた。


友はからりと笑う。


「やだなあ、そんな無粋なものはいらないよ。ただ、君に見届けて欲しかっただけさ」


ただ見ていろとは、それはそれで、なんて残酷な願い。




もし生き延びたなら、喜びの歌をください。そうでなければ、弔いの鐘を。


何もないまま死んでいくのは辛いから。




夜が終わる頃、朝が始まる前。羽根が黒く染まって散っていく。




夜明け前の、夜の深さを知っているだろうか。


星が輝く夜は深い藍色。


闇に塗りつぶされることなくどこまでもどこまでも透き通って、宇宙の果てを覗きこんでいるかのような深み。もしくは、触れたら割れてしまうガラスのような脆さ。


そんな夜も、東の空から徐々に白く淡く色を失いはじめ、日が昇りはじめると今度はじわりじわりと暁に染まりながら明けていくのだ。


張り裂けんばかりの慟哭を飲み込んで、夜は明けていく。


空にきらきらと舞い上がった羽根が、朝の日差しの眩しさに溶けていく。




ああ、自然のなんて雄大なことか。神の筆による芸術の美しさに圧倒されながら、夢もまた醒めていく。




哀しみも朝日に押し流されて目が覚めて、思う。


あの、夜と朝の狭間の二色の空は何を表していたのか。


善と悪か、生と死か。


それとも死にゆくものを天国と地獄に振り分ける審判の門か。




きっと朝日に溶けた羽根の色は、白でも黒でもなく灰色だった。





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