ミステリーの夢
青年が故郷に帰ってきた。
10年に1人という「帝医」の資格を取り、しかしその職には就かず、従兄弟と同じ軍人になるために。
駅に迎えに来たのは、その従兄弟と友人である。
両親も兄も数年前に他界していた。
いまや戻るべき家もなく、伯父の住まいに厄介になる。
深夜、電話の音に呼ばれた気がした。
起き出して、一階の廊下へ続く戸を開けようとした時。
リーン!という、耳をつんざく音。そして微かに聞こえたのは「ヘルプ」と言うくぐもった声。
戸の向こうに誰か居る?
一気に覚める目。
蹴り開けた戸口の向こう。まず見えたのは、ナイフ!
斬りかかるナイフをぎりぎりで避けて、みぞおちに叩き込むこぶし。
取り押さえた賊を従兄弟に任せ――あのくぐもった声は従兄弟のものだったのだ――警察に通報するために、廊下の壁にかけられた電話に向かう。
受話器を耳に当てた途端。
「――――」
声が聞こえた。聞こえたはずなのに、なんと言ったのか。何故だかまったく分からなかった。
直ぐに、ツーツーという音に切り替わってしまった。
あれは。
……死んだ兄の声?
いや、そんなはずはないと、軽く頭を振りながら警察にコールした。
無事に終わって、その頃には家のものは皆起き出していた。
「――助かった」
安堵の息を吐きながら、礼を言う従兄弟。
「よく気づいてくれた」
ぽんと肩を叩いて言われた言葉。
「電話が鳴っていたおかげだよ」
そう答えたが、誰も電話のベルなど聞いていないという返事。
電話は鳴らなかった――。
兄さん!
時代も街並も軍人も、古い時代のそんな夢。