なんちゃって
チャリンコを漕ぐ正午、さんさんな太陽光降り注ぐ真夏の帰り道。赤信号に阻まれチャリを止める。
バド部で酷使した汗まみれの体は、舌と共に爽やかさの一点を求めていた。梅干しやレモン、疲労回復には持って来いな食材を使った、疲れた俺の体でも作れる料理。冷やし茶漬け?そうめん?そば?否ッ!そんなものは求めてはいない!仮にも高校生男子。もっと量とおいしいものが食べたい。そう俺が求めているのは……
「梅じそらーめん!」
青信号の変わり目、俺はそう口に出しギアを上げて漕ぎ出した。
母方の祖母の家の近所にある海岸沿いにあるラーメン屋「灯台らーめん」の看板メニュー灯台らーめんの陰に隠れた俺的人気メニュー梅じそらーめん。久方食べていないその味を再現したあの料理を作ろうと俺の胃袋のスパコンがはじき出した。
真夏の気温と湿度でねっとりとしたそよ風に当てられながら俺は家までの道を爆走した。もう俺の頭の中は梅じそらーめんでいっぱいだった。通りにある「かつや」や「すき家」の普段なら鼻をくすぐるにおいをかき消すほどに俺は求めていた。
「ただいまー!」
チャリを停め、玄関に部活用品を放り投げて真っ先にキッチンに向かい、あるものを探して戸棚を開けて中を物色した。
「あった……最後の一食分!」
戸棚の奥、最後の一つだけ残っていたチキンラーメンの袋を手に取り、俺は静かな歓喜の声を上げた。して、早速俺はなんちゃって梅じらーめんの調理を開始した。
とはいえ、調理自体は簡単だ。かつお節と梅と青じそを刻んで練り合わせた梅ペーストを用意し、チキンラーメンを丼に入れ、その上にアチアチの湯を注ぎ、そこに大匙1のレモンと醤油、先に入れた梅ペーストを入れて混ぜる。三分心して待った後、梅干しを一つ麺の山の頂に鎮座させる。
「できた……」
溢れ出る固唾を飲み、湯気と共に充満する梅とかつおの香りを堪能し、俺は出来上がったラーメンに匙を入れ白濁した薄い茶色のスープを掬い口に運ぶ。
「ん!」
開口一番酸っぱさがこんにちは。挨拶してきやがった。そして口の中に溢れんあかりの濃い梅の味。チキンラーメンの味に負けないパンチの効いた梅の味は、まるでプロボクサーの右ストレート。暴力的にも研鑽を重ねた努力の結晶。立て続けにかつお節の左フック。極めつけにチキンラーメンの「焦がし醤油×鶏の旨味×甘味」の腹に響くトリプルコンボ。これには安藤百福もニッコリ笑顔で手を振っている。だが、それの前に浮かんでくるのは家族と共に食べに行った灯台らーめんの記憶。潮風に靡かれる広告旗と道路沿いの店の佇まい。ああ、次はいつ行くのだろう。このなんちゃって再現の味を覚えている間に食べ比べをしてみたいな。
そう様々な思いにふけって麵を啜っている時だった。ピッっと通知オンが鳴った。スマホを取り出して確認してみるとそこには母からこうあった。
「明日おばあちゃんの家に行くからね」
どうやら早めに食べ比べできそうだ。




