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第四話

キラキラと輝いてみえるお弁当に、使用人から拍手が沸き起こる。

ふんわり広がる香りに色とりどりに並ぶおかずは、わたし一人では出来なかった完成度だ。

自分で作りたいと言いながらも、手際が悪すぎて手伝ってもらったのだ。


「美味しそうです、お嬢さま!」

「立派なお弁当になりましたね!」


みんな、忙しいだろうに協力してくれて本当に感謝しかない。

わっと湧き上がる歓声に、恥ずかしさもありつつ素直に受け止める。


「みんな…ありがとう。久世さん、喜んでくれるといいな」


ポツリと呟いたつもりなのに、意外にも返事が届く。


「お嬢さま…きっと、お喜びになれますよ」


根拠のない女中の言葉に、少し安堵を覚えて、わたしはヘラっと笑ってみせた。




久世さんが帰ってきて、また再度出発すると執事に聞いて、わたしはバタバタと急ぐ。

握りしめたお弁当が、崩れない速度に注意して走るので変な姿勢だが気にしてはいられない。


「…久世さん!」


誰かと話しているところをお邪魔してしまったようで一瞬躊躇う。

でも、ここまで来てしまったし渡さなければ使用人たちも浮かばれない。


「あの、お弁当を作ってみたんです。よろしければ」


こちらなんですが、とお弁当を差し出してみれば作ったの?と聞かれる。

コクコクと赤べこよろしく頷いた。


「その、実は女中さんにも手伝ってもらったんです。だから、味の保証はされてます!」

「ふぅん…。ありがとう。じゃあ、頂こうかな」


(う、受け取ってもらえる…!!)


良かった、やっぱり消え物が正解だった。

渡すだけでもと思っていたのに、感謝までされるなんて思いもしなかった。

興奮なのか緊張なのかブルブルと手が震えしまう。


(…あれ?)


手渡しで受け取ってもらえる違和感を抱く。

触れるな、と久世さんはキツく言っていたのに、お弁当は手渡しでも大丈夫なのだろうか。

震える手を押さえつけながら、わたしは差し出された手に触れないよう慎重にお弁当を乗せる。

しかし、久世さんの手は広げたままで、お弁当を掴むことはなさそうだった。

まるで、最初から受け取るつもりはないように見えてしまう。


(あ、落ちる)


お弁当がクルクルと回ってスローモーションのように落ちた。

ガッシャーンと大きな音が鳴る。


「えっ…?」


(…いま、笑った…?)


口元は笑ってみえるのに、その奥にある感情は読み取れない。なにかが複雑に絡まっているかのような…。

どうしてそんな顔をするんですか…?

わたしは呆然と床に落ちたお弁当を見つめる。甘い匂いやしょっぱい匂いなど、様々な匂いが混じって吐き気が込み上げる。

久世さんの視線を感じて顔をあげた。

その目にわたしが映されているはずなのに、まるでいないかのようで、ゾッとする。


(この人は、わたしを見ていない…)


わたしじゃない、誰かを見ている。

そう直感した。


「ゴミ、片付けておいてよね」


「ゴミ」と言われたはずなのに、「君」とダブって聞こえる。

…ううん。気付いたらおしまいだ。

久世さんの瞳に情けない顔をしているわたしが映る。

揺らりと一瞬視線が揺れ、一瞥し、ヒラリとマントが翻った。

足音が遠ざかって消えていく。

最初からなにもなかったかのように。


(ゴミ…ゴミかぁ…)


しゃがみこんで、散らばった食材をお弁当に入れ直す。

ポイポイと手が勝手に動いてしまう。

動かしていないと、余計なことを考えそうで怖かった。


「…お嬢さま、お手伝いいたします」


そうっと申し込んでくれた使用人にわたしはヘラっと笑い返す。


「ううん。大丈夫!これくらい一人で片付けるから」

「ですが…」

「大丈夫だよ、心配しないで」


みんなは忙しいんだし、仕事に戻ってねと声をかけると、心配そうな顔をしながら、使用人たちはバラバラと仕事へ戻っていく。

喜んでくれたのにごめんねとは謝れなかった。

少し浮かれてしまった自分が恥ずかしかった。

あの時、分かっていたはずなのに、それでも期待してしまった。


(大丈夫、元の場所に戻すだけ)


手が震えているせいで、落としては拾ってを繰り返してようやく床が綺麗になる。

落ちたおかずはグチャグチャになりながらもお弁当に戻っていく。


(さすがに落ちたものは、食べれないしなぁ…)


ぼんやり、このままゴミにしてもいいのかなと悩む。

あの時のわたしの気持ちをこのままにするのは可哀想な気がしてきた。

それに、使用人たちも手伝ってくれたので、落ちて、ぐちゃぐちゃになっても美味しいかもしれない。

ゴミと決めつけるにはまだ早いのでは?

ゴクリと唾を飲み込み、覚悟を決めてえい、と一口だけ落ちたおかずを食べてみる。

色々な味が入り交じって、残念ながら食べられたものではなかった。


(ゴミだなぁ…)


気持ちが沈みかけてハっとする。

ブルブルと勢いよく首を横に振って雑念を消す。

これで料理の腕は少し上がったし、悪いことばかりじゃなかった。

それに、久世さんは「頂こう」とは言ってくださった。

わたしの気持ちは届いていると信じるしかない。


「…支えるってやっぱり大変だなぁ」


うすら寒くなった気がして、わたしは腕をさすった。

お読みいただきありがとうございました。

感想、評価いただけると嬉しいです。

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