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第二話

決意新たにしたものの、結婚してから1ヶ月久世さんの姿はなかった。


(まあ、お忙しいんだろうしなぁ…)


父も1ヶ月帰ってこないことはままあった。

寂しくはない…はず。

窓から見える人の往来が激しいので、恐らく軍で何かが起こっているか民衆側で小競り合いが多発しているのだろう。

外の様子はわたしには分からないのだ。

…久世さんから外出禁止令が出されてしまったから。

距離を縮めようと、お気に入りのデザートを買いに行こうとしたところ、使用人に止められて禁止令が出されていることを知った。

外出禁止令とは言われていないが、言伝が「お外に出られることを快く思っていない」とのことだったので実質禁止に近い。

わたしがそこのデザートが好きなことは邸宅の使用人たちにも知られているため、買えなくてガッカリするだろうと、言葉を和らげてくれたのだ…と思う。

執事や使用人は父の頃から変わっていないため、いつもわたしに寄り添ってくれる。

その温かさは有難いが、わたしは外に出なくても全く問題なく生きてしまえたので不自由はしなかった。

買いたいものがあってもお願いすれば良いだけだし。


(うーん、我ながら適応能力は高い!)


えらい!と自分を褒め、自己肯定感を無理やりあげる。

これは母がなくなってから始めたクセのようなものだ。父は忙しく寂しさを埋めるために始めたことなのかもしれない。


(お父さん…)


親子で仲良く出かけたことはないが、父はわたしを気にかけてくれていたし、わたしも父に対して気にかけていた。

わたしたちの間には確かに親子の絆があった。

物思いにふけているとコンコンとノックが聞こえ、使用人が久世さんからの手紙を届けてくれた。


(どれどれ…)


1ヶ月も放置されたのだ。干渉するなとは言われた手前、こちらから連絡をするわけにもいかず、モヤモヤを溜めていたものの、ついに久世さんから連絡が!

ひょっとすると歩み寄りを始めてくれたのかも!とわたしは少し浮き足立っていた。


「相談があるので本日帰る…?」


いや、もうこれ言伝でも良かったレベルでは…。

ハハと乾いた笑いがこぼれるが、忙しいなか手紙を書いてくれた手間に感謝する。


(久世さんって字が綺麗なんだなあ…)


こうやって少しずつお互いが歩み寄れば、政略結婚とはいえ良い家族として絆が芽生えそうである。

愛でなくてもいい。

ただ、寄り添っていたい。

久世月人…と綺麗に書かれた文字をなぞる。


(そうだ!月人さんとお呼びするのはどうかな?)


結婚したのだし、わたしも灯と呼んでいただいたらより家族として距離が近くなれそうだ。

距離も縮まるだろうし妙案かもと思い、わたしは久世さんの帰りをウキウキと待っていた。

…ウキウキ、待っていたのだ。


(…まあ、夜も更けましたがね!)


アハハと誤魔化すように笑いながらいつでもお出迎え出来るように着崩れを正す。

邸宅が慌ただしい雰囲気に包まれ、チリン、と鈴が鳴り久世さんが帰ってきたんだろうなと予想する。

走りもしないが歩きでもない絶妙な速度でわたしは玄関へ向かった。


(あ…!)


1ヶ月前と変わらぬ、夜でも映える美しい金髪をなびかせ…ゾッとするほど整った顔が目に入る。

その顔の持ち主の久世さんは執事となにか話していた。

わたしは執事との会話が終わることを待ちながら密かに息を整える。

執事が久世さんに一礼して去ったのを確認し、久世さんに顔を向けると目が合った。

澄み渡るような青い瞳にわたしは吸い込まれそうになる。

久世さんはわたしを見ると少しだけ眉を上げ、驚いた様子だ。


「…いたの」


ポツリと呟かれた声にコクコクと頷く。

お話があると伺ったのでと控えめに声を出す。


「月人さん、おかえりなさい」

「…!名前で呼ぶな…!!」

「ヒっ…!」


絞るような切実さと怒りが混ざったような声だった。

わたしを見つめる目は結婚初日のあの存在を否定するような、射殺すような瞳だ。

距離を縮めたかっただけなのに。

そのことすら否定されてしまう。

謝らなければ。


(この人に嫌われてしまったら…)


わたしは目の前が真っ暗になる感覚を踏ん張って押しとどめる。


「す、すみません。どうかご容赦ください」


できるだけ腰が直角になるように曲げカタカタと震える手を固く握りしめる。

久世さんが息を大きく飲んで、ふぅと吐いたのが聞こえた。


「いや、ボクこそ…悪かった…」


取り敢えず名前呼びはやめてくれと呟いたような声は思っていたよりも静かで、疲れが混じったようだった。

慌てて腰をより深く折り曲げる。


「お、お疲れなのにすみません…!」

「いや…」


それきり言葉が切れてしまい、痺れを切らしてわたしは表をあげる。


(あ、また…)


あの澄み渡る青い瞳だ。

その瞳の中にわたしがいる。

ざわりと胸が波打つ。


「君は…久世、…灯」

「は、はいっ!久世灯です!」


そうです、わたしも久世なんですよ…と頭の中で久世さんに突っ込む。

低すぎないのにひどく落ち着く声に続きひっくり返りながら答えると、久世さんがクっと少し口角を上げた。


(わら…!?い、今笑った…!?)


やらかしてばかりだけど、少しずつ前進はしている気がした。

お読みいただきありがとうございました。

評価、感想いただけると嬉しいです。

夜更新予定

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