第93話 【安らぎの村】収穫祭当日
【10月31日:安らぎの村 中央広場】
馬車から降りた瞬間、私は自分が「家畜」として出荷されたことを悟った。
ここは「安らぎの村」ではない。「安らぎの洞窟」の真上にある、巨大な「肉の加工場」だった。
村の中心には、掲示板にあった通りの「祭壇」が築かれている。それは、これまで見てきたルキアやワットの記録を固めたものではなく、文字通り、積み上げられた人間の死体でできていた。
「サトウさん、いらっしゃい」
受付嬢のミカが、満面の笑みで手招きをしている。彼女の体はもう人間ではなく、全体が青い粘液で構成された、半透明のスライムだ。
彼女は私の手を取り、祭壇へと導く。
「先生、こちらですよ! 展示物の皆さんが待ってます」
学生の声がした。見ると、祭壇の横には「展示物」として、案山子の棒に括り付けられたルキアとワットの成れの果てがあった。ルキアは眼鏡だけが残り、ワットは折れたペンが腹部に突き刺さっている。
ギルベルトの声:
「素晴らしい。すべての材料が揃った。サトウ。君の『観測者』という役割も、ここで終わりだ」
ギルベルトが私を見つめる。彼の眼球は、王都の紋章と同じ、完璧な青色に染まっている。
私は、自分が神などではないことを痛感した。
私は、この世界の「理」を完成させるために、自ら進んでここまで来た、最も愚かな餌だったのだ。
時刻を示すデジタル時計の表示が、「20:59:58」を示している。
私の腹部が、内側から破裂せんばかりに膨れ上がる。
喉の奥から、無数の声が溢れ出す。
「私が……私が……私が……」
【研究員のメモ】
名古屋の自室の時計が、「20:59:58」を示している。
私の腹部も、時計の秒針に合わせて膨らんでいる。
プレハブ、いや、私の部屋の壁から、ミレットが歌っていたあの「鼻歌」が聞こえる。
【研究員のメモ:追記】
学生が、私の口に「青い花」を詰め込んだ。
「さあ、先生。21時です。最高の『お品書き』として、目覚める時間ですよ」
意識が、白く、青く、そして甘い香りに包まれて消えていく。
私は、佐藤という人間を辞め、「理」として永遠の命を得るのだ。




