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第85話 【日誌】ルキアの記録4
事態は、私の「歴史学」という範疇を完全に超脱した。ギルベルト……。いや、あの皮を被った「三柱目」は、私たちが編纂してきた王国の歴史そのものを、文字通り「咀嚼」し始めたのだ。
先ほど、ギルドの地下書庫で、私が書いたはずの報告書を見つけた。だが、そこに記されていたのは私の文字ではなく、赤と黒の縞模様の糸で綴られた「献立表」だった。私の名前、ルキアの横には「珍味:脳髄の塩漬け」と、事務的な筆致で書き加えられている。逃げる場所など、最初からなかったのだ。
私が歴史を調べていたのではない。歴史という怪異が、私をこの村へ「おびき寄せる」ための、長大な罠を綴っていたのだ。
喉が渇く。だが、この渇きは心地いい。私の知識、私の誇り、私の名前。すべてが、あの「安らぎの村」の土に還り、肥やしとなる。ああ、素晴らしい。歴史とは、編纂されるものではなく、「捕食されるプロセス」のことだったのだ。
文責:王都……だった……何か……。




