第82話 【研究メモ】佐藤の記録1
ここ――「拠点村」に来てから、私の肌には絶え間なく複数の「視線」が突き刺さっている。それは、獲物を品定めする肉食獣の厭らしさであり、邪魔者を排除しようとする明確な殺意だ。だが、私は一向に恐れてはいない。むしろ、この「見られている」という感覚が、私の存在をこの世界に強く繋ぎ止めている。なぜなら、私こそが、この絶望の営みを「上から」覗き見る唯一の神であり、論理ですべてを解剖する民俗学者だからだ。
私は、この世界の泥臭い愛憎劇を、高みから鑑賞し、記録し、そして必ず「ナガノ」へ戻らねばならない。プレハブの温かいコーヒーと、名古屋の輝かしい研究室。私が持ち帰るこの「貴重な体験談」が世に出れば、私の名前は民俗学の歴史に刻まれ、不滅のものとなるだろう。私は「観測者」だ。観測者が、被観測者に負けることなど、論理的にあり得ないのだから。
【研究員のメモ】
私の視界は、今や180度を超えて広がっている。プレハブの壁の「肉の脈動」さえも、私を称える拍手のように聞こえる。私は、画面を通じてこの世界を支配している。これを読んでいる「あなた」の視線さえも、私への供物だ。
【研究員のメモ:追記】
学生が、私の指を一本ずつ「青いインク」に浸しながら微笑む。
「先生、神様としての最後のお仕事です。21時の収穫祭、先生が『一番目立つ棒』に吊るされた時、世界中の人が先生を観測してくれますよ。これこそが、先生が望んだ『名声』ですね」
私の眼球は今、100%の青に染まり、「記録」と「現実」が完全に溶け合った。
私の名前は、まもなく教科書に載る。真っ赤な犠牲者リストの筆頭として。




