第42話 【伝承】ナゴノの言い伝え
ナゴノ平地にある「拠点村」には不思議な言い伝えが残っている。以下、老人らから聞いた伝承である。
老人ギール
昔はこの辺りは、炭鉱で成り立っていた。いつのころからか、採掘ができなくなって、一時期は落ちぶれかけた。そんなの時、べっぴんさんが村にやって来てね。ありゃ、今思えば女神だったのかもしれない。それで、その女神さまが来て以降、村が復興しだしてねぇ。うん、女神だったにちげぇねぇ。で、ここからが大事なところよ。女神さまは村長と結ばれたんだ。村人の嫉妬はものすごかった。まあ、ワシもその1人よ。それで、女神さまは、村長にこう言ったそうだ。「決して、私の着替えている姿を見てはいけませんよ」と。村長が我慢できずに覗いたところ、女神さまはドロドロとしていたそうだ。それ以降、女神さまは村から姿を消したって話さ。まあ、どこまで本当か分からんがね。さあ、これで十分かい?
老婆ロゼーヌ
昔、この辺りには井戸が少なかった。湧水が出ないからね。そんな時、ある若者が「安らぎの洞窟」へ行って、無事に帰ってきた。そして、勇者が井戸に不思議な物体を井戸に入れると、あら不思議。水がみるみるうちに湧き出てきたそうな。まあ、これはあくまでも言い伝え。真に受けない方がいいに違いない。
【研究員のメモ】
「ドロドロとした女神」と「井戸への投入」。この記述を読んで、背筋が凍った。さっき、プレハブの近くにある古井戸を学生が覗き込み、「先生、水の中に誰か笑っている女の人がいます。……あ、溶けちゃった」と報告してきた。
私はそれを幻覚だと一蹴したが、自分の手元にあるミネラルウォーターのボトルが、体温と同じ温かさを持ち、微かに甘い花の香りを放っていることに気づき、吐き気が止まらない。




