第0話 【証拠物件:1042】再生の代償
2024年12月1日 長野県旧・安良木村跡地
県立大学 民俗学研究室 非常勤講師:佐藤
それは、崩落した土蔵の地下、粘土質の土に深く埋もれていた。一見すれば、掌に収まる程度の、不規則な形をした「青い石」だ。
当初、発掘に当たった学生たちは、それをただのガラス片か何かだと思っていた。しかし、石の表面には、現代の刻印技術では不可能なほど微細な、しかし確かに「RECORD」という文字が刻まれていた。
私がその石に触れた瞬間、指先から脳へ、直接「声」と「映像」が流れ込んできた。
『おい、これ映ってるか?』
驚いて石を落としたが、一度始まった「再生」は止まらない。信じがたいことに、この石は録音媒体だ。しかも、スピーカーも電源もないのに、周囲の空気を振動させて音を鳴らしている。
解析を進める中で、私たちはこの石を【音録石】、記録された場所を【安らぎの洞窟】と仮称することにした。だが、問題は内容ではない。この石を触ってから、明らかに「何か」が起きている。
まず、周囲の湿度が異常に上がった。次に、学生の1人が、食事を一切受け付けなくなった。
「先生、お腹の中に、何か……ブニュブニュしたものがいるんです」
そう言って笑った彼の瞳は、白目の部分が、あの石と同じ透明な青色に染まっていた。
これから掲載するのは、その石から「復元」された音声の書き起こしである。
もし、これを読み進める中で、あなたの周囲で「水の弾けるような音」や「腐った肉の匂い」がし始めたら、直ちに読むのをやめてほしい。
扉は、もう開いているのだから。




