星の守り手
『六花彩湯国』の第三の首都の『紫陽花』。
「一人の人間への付き纏い行為。エルフの土地への無断侵入。亡骸の窃盗。亡骸の窃盗の際の魔法の無断使用。転職判定の業務外の事で四つもの罪を犯してしまいました。申し訳ございません」
汐桜の三角建物の根城にて。
琥紺は相棒の竜である汐桜に土下座をした。
背もたれがなく脚の高い木の椅子に座って琥紺に向かい合っていた汐桜は、短い溜息を吐いてのち、土下座をしながらも床に伸ばした腕に乗せ続けている亡骸に視線を向けた。
「何でその亡骸を盗んだ?」
「エルフが亡骸を吸収しようとしていたからあんまりだと思って盗みました」
「エルフだろうが何だろうが結局亡骸ってのは何かに吸収されるだろうが」
「全く仰る通りなんですけど。仲間の元に返してあげたいと思いましたので盗みました」
「エルフが吸収しようとしていた獲物を盗んだ。つまりエルフを敵に回したって事だな」
ぴょこりぴょこり。
三角形の短い尻尾を左右にゆっくりと動かしていた汐桜は、最悪だなと言った。
「星の守り手である二種族の内の一種族、エルフを敵に回したのか?」
「ええ。ああ。えっと。う~ん。そうなるの、でしょうか?」
「その亡骸を蒲公英で綺麗に着飾らせてエルフに返してこい」
「汐桜」
「情けない声を出すな。それでも竜か? 麿たちは身体こそ小さいが、れっきとした竜なんだぞ。狼に似ている顔、大蛇に似ている胴体、鋭い爪を持つ四本の手足、雷の形に似た二本の角、愛らしく小さな二本の耳、自由意志を持つように厳かにゆったりと動き続ける二本の髭、三角形の短い尻尾、蝙蝠の翼に似た一対の、そちは紺色の翼を、麿は桜色の翼を持ち、全身硬い鱗に覆われている竜なんだぞ」
「………竜だったら星の守り手だろうが何だろうが怖がる必要なんてないべ」
「何か言ったか? 琥紺」
「いいえ何も言っておりません」
「分かったらさっさと返してこい」
「嫌です」
「返してこい」
「嫌です。こればっかりは嫌です。っつうか」
謝罪時間は終了したもう十分謝罪は果たしたと、琥紺はいつもの口調へと戻した。
「わたすはおめえがそんなに薄情な事も弱気な事も言うなんてびっくりだったんだが?」
「星の守り手は恐ろしいって真実を知っているからだ」
「わたすたち二匹と勇者一行が居れば恐くないべ」
「無知だからそんな阿呆な事しか言えないんだ」
「阿呆で結構だ。阿呆だから亡骸は返さない。そんで、亡骸を甦らせてくれ。汐桜。本をいっぱい読んでるから知ってるべ?」
「嫌だ」
「汐桜」
「話は以上だ。さっさと返してこい」
汐桜は椅子に座ったまま琥紺に背を向けると、テーブルに乗っていた一冊の本を手に取って読み始めた。
「わたす、返さないから」
ふよりふよふよ。
琥紺は奏斗をお姫様抱っこしては、二階へと飛翔していったのであった。
(2025.1.28)




