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勇者から秘湯屋に転職します  作者: 藤泉都理
肆 第二の首都の蓬篇
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80/199

嬌笑




 勇者として何も果たせなかった。

 何が起こったのかも理解できず。

 何の対応も取れず。

 己の力量も見誤り。

 仲間に何かをくれてやる事も遺す事もできず。

 抵抗もできないままに敵に命を削られて。

 死亡。




『弟を助けぬのか? このままでは、数分も経たずして息絶えるぞ』

『助けませんよ。ここで死ぬ。それだけの男だっただけです』

『意外ですか? 兄の俺が弟の奏斗かなとを助けない事が? 俺は魔王様の忠実なるしもべですよ。弟とはいえ、勇者を助ける義務はありませんよ』




 憧れの人と慕い追いかけ続けていた兄の裏切りを知ってのちに。

 死亡。




(どうせなら何も知らずに死にたかったよ)











 『六花彩湯国りっかのさいゆこく』のどこか。


(ええええ、どうせこの行為も織り込み済みなんでしょうよ。わらわたちエルフ全員が星の唄を奏でて、奏斗を甦らせる。一度死んだ事により、レベルアップする事を期待しているんでしょうよ。ええええ。してあげるわよその通りに奏斗を見殺しになんて………今なら吸収できるわね。抵抗なんてできない。だって、死んでるんだから………どうせ奏斗は奏斗を有効活用できないわ。生来のガラスハートで、どうしたって実力を出し切れない。このまま甦らせてレベルアップしたとしてもたかが知れている。なら。わらわたちが奏斗を吸収して有意義に使った方がいい。ふふ。朝陽あさひのやつ。どんな反応を示すかしら? お気に入りの奏斗がまさか本当に死ぬなんて思いもしないはず。あいつの絶望した顔を見たら少しはすっきりしそう)




 黄、白、桃、橙の花と、純白の冠毛の蒲公英が咲き乱れる、完熟した山葡萄色の祭壇の上に仰向けで寝かされた奏斗の顔を見下ろしながら、理瑚りこは嬌笑したのであった。











(2025.1.27)




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