転職判定竜
テレッテテッテテレテー。
奏斗の前に陽気なファンファーレと共に突如として出現したのは。
「おめえ、わたすを呼んだな。勇者から秘湯屋になりてえってか?」
転職判定竜、琥紺だった。
転職判定竜とは、転職を希望する者の前に突如として出現しては、転職の合格不合格を判定する竜の事であり、不合格を出されてしまったら一生その職業に就職する事ができないのである。
「ほれ。さっさと言え。合格か不合格か言ってやっからよ」
ふよりふよふよふよりふよ。
眼前に浮く琥紺、自分を囲む聖月、芽衣、箕柳の集中視線を一心に浴びた奏斗は、頭と手が取れるのではないかと危ぶまれるくらいに勢いよく頭と手を振った。
「いえいえいえいえ。僕は勇者だ。勇者一択です。勇者の人生しか考えられません。僕は勇者として魔王と一緒に秘湯に入るのです」
「おめえ。自分に嘘つぐんでねえ。本当は秘湯屋になって、秘湯を探し続ける人生を送りたいんだべ? 探し出した秘湯を求める生物に提供したいんだべ? ゆったりくったり癒されてほしいんだべ? 自分も癒されたいんだべ? 秘湯のあらゆる困り事を解決する覚悟もあるんだべ?」
「………」
「気持ちが大きく揺れ動いていますよ」
「心が繊細で、優柔不断なんだよな。奏斗」
「致し方あるまい。奏斗は疲弊しきった心身を秘湯で癒されるという事実を身をもって知ってしまったのだ。もう、後には戻れない」
「………いいぇ。僕は。勇者………うう。勇者」
(2024.12.19)