表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者から秘湯屋に転職します  作者: 藤泉都理
壱 自己紹介篇
7/199

つもつも




「もう僕は剣も言葉も交わさずに、乱斗らんとと秘湯に入るよ。ただ秘湯に入るだけ。きっと乱斗もさ。言葉と力に振り回されてきたんだと思うよ。だから、秘湯を吸ったんだ。ほら。さっきまで満ちていた秘湯が空になっているだろ。満たされない心を秘湯で満たそうとしているんだ。勿論、乱斗のこれまでの悪逆非道な行いを赦すわけにはいかない。だけど。ずっと憎み続けるのかい? 闘い続けるのかい? いやいや、違うだろう。そんなのは嫌だ。それに、これから乱斗に悪逆非道な行いをさせない為にも。一刻も早く、一緒に秘湯に入って癒されて、ちゃんと自分の罪と向き合ってほしいと強く願うんだ」


 奏斗かなとは仰々しく両腕を中途半端な高さまで上げながら、目を細めては僅かに顎を上げ、昂る感情を敢えて抑えつけるように言った。


「奏斗さん。影が薄くなっていますよ」

「いや、後光が差しているから身体の輪郭が朧げなんじゃないか?」

「殴って見たら、存在が薄くなっているのかいないのか分かるんじゃないか?」


 聖月せいげつ箕柳みやぎの言葉を受けて、満面の笑みを浮かべた芽衣めいは思いっきり奏斗の頭を拳で叩こうとした。奏斗は避けた。芽衣は拳を振るった。奏斗は避けた。芽衣は拳を振るった。奏斗は避けた。芽衣は目を眇めた。


「よっし。奏斗。その窪地から出て、俺と本気で闘おう」

「芽衣の闘い好きを否定はしないよ。ただ僕はもう、闘わないよ」

「闘いをわたくしたちに押し付ける気ですね。最低ですね。奏斗さん」

「いや。仕方がない。もう、闘いに明け暮れる日々から解放されたくて、秘湯にしか目を向けられなくなってしまったのだ。寛大な心でゆるしてやろう」

「………ごめんなさい」


 闘気に満ち満ちた芽衣の目、蔑みに満ち満ちた聖月の目、労りに満ち満ちた箕柳の目を一身に受けた奏斗は、下唇をこれでもかと突き出しては項垂れてしまったのであった。











(2024.11.29)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ