心晴
十二歳の時に藤色の温泉を浴びてしまい、骸骨になってしまった心晴。
それから八十三年間。
寿命を迎える九十五歳までの間、ずっと、骸骨の姿で生きて来た。
骸骨になって隠れて生きるわけでもなく、堂々とこれまで通り温泉屋を手伝い、温泉屋を継いで、後継者に引き継いだ後も手伝い続けた。
ずっとずっとずっと。
本人の希望通り、温泉に密接に関わり続けた人生であった。
憎くないのか。
三樹矢は心晴に尋ねた事がある。
一度だけ。
肉体を持っている時の素晴らしい笑顔を知っていたから。
骸骨になってその素晴らしい笑顔がなくなった事に、いや、笑顔だけではない。多くのものを失っただろうに、笑顔を、明るい声を絶やさない心晴に疑問を抱いたのだ。
ああ、分かっている。
見栄を張っているわけでもないのだろう。
分かる。
あれは本当に心の底から笑っている顔だった。
肉体を失う前と変わらず。
憎いって何が。
心晴は笑っていた。
温泉が憎くないのか。
温泉が憎いってどうして。
おめえ様をそんな姿に変えちまっただろ。
あんただって同じ姿じゃない。
おいらは好きでこの姿になったんだ、でも、心晴は違うだろ。
違うけど、どうでもいい、動く身体があるならどうでもいい。
心晴は笑っていた。
眩すぎて近寄れないと思っていたけれど、なんて事はない。呆気なく近寄れた。
疎外する笑顔ではなかった。
みんなを幸せにする笑顔だった。
ああ。ああ、そうか。
骸骨になればみんな幸せになれるんじゃないか。
(2025.1.19)




