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勇者から秘湯屋に転職します  作者: 藤泉都理
玖 創星の蒲公英篇
181/199

三十二歳




 『六花彩湯国りっかのさいゆこく』の王都の『水仙』。




箕柳みやぎにも謝ったんだろ。泣きついたんだろ。それで終いにできなかったのか? 俺に謝る必要はないって、奏斗かなと。分かってただろ。兄貴は自分で決めた。俺たちともう闘う事ができない姿に変えるって決めた。それだけだ」


 ジャンピング・ネックブリーカー・ドロップを芽衣めいが奏斗にかます事はなく。

 芽衣は奏斗の首に片腕を回して、もう片方の手を軽く奏斗の背中に添えた。


「だって。芽衣。兄ちゃんの事、大好きだっただろ。もう闘えなくて悲しいだろ」

「俺は、多分。奏斗みたいに情はそこまで多くないんだと思う。大体の事は割り切れちまうんだ。兄貴との事は悲しくない。わけじゃないけど。割り切れる。もう闘えないって。いつかまた闘うって約束はした。だからそれまで待とうって。割り切れる。兄貴と闘えない間、ほかのやつと闘うだけだって。てめえの事もそうだ。死んだって聞かされた時も。悲しいって思うより、ここまでの人間だったんだって。そう。う~ん。いややっぱ悲しかったのか? ここまでの人間だったのかって。少し、力が抜けちまった。ここまでの人間だったのかって。少し、怒っちまった。けど多分。それだけだ。そこで割り切れちまう。ここまでの人間だったんだって。奏斗は死んだ。もう闘えない。それだけだ。俺は薄情な人間だ。だから、奏斗が兄貴の事で俺に謝罪する事はない。そんでさ。俺は箕柳みたいに悲しみを共有する事はできないけど」


 芽衣は奏斗の背中に添えていた手を強く押し当てては、奏斗を強く抱きしめた。


「よし。肩は貸す。思い切り泣け」

「………ごめん。芽衣」


 奏斗は芽衣の肩に強く目を押し付けた。

 瞬く間に芽衣の着物に奏斗の涙が吸い込まれていく。


「うん。あのさ。奏斗」

「う゛ん」

「生き返ってくれてありがとな。あと。色々。うん。本当に色々頑張ってすごいぞ」

「う゛う゛う゛う゛う゛~~~」


 三十二歳。奏斗と同じ年になった芽衣の肉体はさらに逞しくなっていた。

 そう思った奏斗の涙はさらに勢いを増すのであった。











(2025.2.12)




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