プロローグ
洞窟型ダンジョンからの帰り道。
「うっ!!」
岩に囲まれた山道を歩いていた冒険者の一人が、突然胸を押さえ膝をつく。
「どうした?」
「大丈夫?」
仲間二人が慌て声を掛ける。
その瞬間、彼の魔力が暴走した。
肉体が服を突き破り、筋肉の鎧を身に付け巨大化して二人を見下ろす。
「まっまさか堕人に!?」
「きゃあああっ!!」
仲間二人はパニックを起こして固まる。
堕人が右腕を振り上げ、凪払うように二人を吹っ飛ばすのだった。
冒険者達の街クロワッサン。
チビエマ王国の中でも、駆け出しの冒険者達が集まる始まりの街として有名だ。
そんなクロワッサンは、避難してきたチビエマ達や冒険者達で溢れ返っている。
「なんと言うことだ……このクロワッサンのシンボル、【ホットケーキ】の魔剣士が堕人になるなんて……悪夢だきゅ」
クロワッサンの町長は青ざめる。
「【ホットケーキ】はクロワッサン唯一のMランク冒険者きゅ。今ギルマスが相手してるけど、いくらギルマスのランクがKランクでもMランクの堕人は厳しいきゅ!!」
モノクル付けた副ギルマスが冷や汗混じりに言う。
「領主である子爵様には早馬と、チビエマうちわぶっ飛び便でお知らせしたきゃ。来るまでに数時間かかるっきゅ」
受付嬢が報告する。
混乱してるクロワッサンに、一台の王家の馬車と、馬車と並走していた騎馬が止まった。
「うきゅ!?この紋章は!?」
町長は慌て駆け寄る。
「町長、知らせもなしに突然の来訪申し訳無い。だが、緊急事態と判断して来た。……堕人のランクは?」
馬車の中にいる人物は町長に声を掛けた。
「Mランクですきゅ。今Kランクのギルマスが挑んでいますが……中々難しいきゅ」
町長は申し訳無なさそうに答える。
「ふむ、ならリーヤ。お前一人でも問題ないだろう」
「了解キシ」
馬車の人物に命じられ、リーヤと呼ばれた鎧姿のチビエマ騎士が馬から降りる。
「町長、我々以外街の人を避難させてくれ」
「分かりましたきゅ」
馬車の人物から言われ、慌て町長は走るのだった。
馬車と護衛達、堕人、ギルマス、立ち向かうチビエマ騎士を残して街の皆は離れた。
『グオオオオッ!!』
「くっ!!俺の刃が届かないきゅか!?やはり、ランク一つ違うだけで凄い力量差があるきゅな!!」
大剣を構えたギルマスは、ボロボロでも闘志を宿して向かい側で咆哮を上げる堕人を睨み付ける。
堕人は、チビエマの顔が筋肉の塊にめり込んだ形になって居た。
「早く倒してアイツを元に戻さないと!!」
ギルマスは焦りを隠せない。
「あんたがギルマスさんきゅか?」
「きゅ!?」
真後ろから声がして振り返ると、チビエマ騎士が居たのでびっくりする。
「後は俺に任せてギルマスも下がれきゅ」
チビエマ騎士は、右手に魔導ランチャーを召喚すると片手で構え歩き出す。
「まさか貴方は……元魔砲師団団長の……」
「昔の肩書ききゅ、今は冴えない護衛騎士だきゃ」
ギルマスにチビエマ騎士が答えると、その姿が掻き消えた。