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第八話 「中身のある男」



 アンセスは扉を開き、押収品を保管している建物から外へ出る。

 町の中は相変わらず、複数人の兵士たちがゴーレムを引き連れながら巡回していた。


 アンセスは背筋を伸ばして胸を張り、堂々とした態度で前を歩いている。


 様になっている。

 騎士というのはこういう歩き方の訓練もするのだろうか?

 ピシッとしすぎて少し浮いているような気がしないでもないが、責務を全うする一兵士の雰囲気がうまく作り出せている。


 これなら疑われる心配はないだろう。


 問題はやはり私のほうだが、大丈夫だろうか。

 今になって不安になってきた。

 しかし、いまさらやっぱり無理!という訳にはいかない。


 私も意を決して、彼に続いて外へ足を踏み出す。


 ガシャン


 金属の擦れる音があたりに響く。

 周りを歩いていた兵士たちが一斉にこちらに視線を向けてきた。


 お、思ったより足音が大きい……


 周囲から視線を突き刺されながらアンセスの後ろに並んで歩く。

 金属の鎧は歩くたびにガシャガシャとうるさい音を立てた。


 兵士たちは皆、遠まきに不思議そうな顔で見てくるが、それ以上踏み込んではこなかった。


 上手くいっているのだろうか?


 周りをちらりと確認する。


 遠くのほうに高い壁が見える。

 おそらく町を囲んでいる外壁だろう。

 あれを登って外へ出ることもできそうだが、すこし高すぎる。

 途中で見つかって四方から石銃でハチの巣にされてしまうのが容易に想像できた。

 やはり、北門を通るしか脱出の手は無さそうだ。


「なあ、そこのお前」


 二人で南町を進んでいると一人の男がアンセスに声を掛けてきた。

 後ろには数人の兵士たちを引き連れている。


 ……マズい、ばれたか?


 背中を冷たい汗が流れるのが感じられた。


「……なにか?」


 アンセスは一切動じず冷静に対応する。

 すごい。


「その後ろの奴ってなんだ?」

「新型のゴーレムです。」

「へえー……」


 兵士は触れるほど近くに寄って鎧をじろじろと眺めてくる。


 私は呼吸音がばれないように息を止めた。


「カルッゾ様が作ったものか?」


 カルッゾ?誰だそれは。


「そうです。いま動作確認を行おうしているところですが、どうかしましたか?」


 アンセスは表情を変えずに言葉を発する。


「ふーん、魔術師って変なセンスしてるよな。正直ダサいぜ、この新型」


 兵士はニヤと口角を上げる。


 どうやらカルッゾというのは魔術師の名前らしい。

 この町にいるのだろうか?できれば会いたくは無いが……


 兵士はさらに話を続ける。


「いま使われてる土人形のゴーレムも不気味だけどよ、コイツは無いだろ。なあ?」

「魔術師殿の事です。何か考えがあっての事でしょう」

「なんだよ、硬いなお前。……まあいい、引き留めて悪かったな」

「いえ、失礼します」


 アンセスは軽く会釈して大橋のほうに歩き出す。

 上手くやり過ごせたようだ。


 私も彼に続いて歩こうとしたとき、

「おいおい、ちょっと待て」と引き留められる。


「まだ何かあるのでしょうか?」

「いやあ、俺ここら辺の警備任されてるからよ、その新型ゴーレム少し調べさせてもらうぜ」


 なんと!?


 そう言うと兵士は私の兜に手を伸ばしてくる。


 うああ、これはもう!もうやるしかない!!


 私は目の前の男を殴りつけるため腕に力を込める。


 兵士の手がもうすぐ鎧に触れそうになるその時、


「お待ちください!」


 アンセスが私と兵士の間に身体を割り込ませてくる。


「何だ?」


「先ほども申し上げた通り、このゴーレムはまだ動作確認の途中です。不用意に近づけば……腕を噛み千切られるかもしれません」


「か、噛み……!?」


「それを留意した上でご確認ください」


 兵士は私の兜に伸ばした手をサッと引っ込めた。

 青ざめた顔で、アンセスと私の兜の出っ張った口元を何度か交互に見る。


「や、やっぱりいい。通れ」


 彼はそう言うと、部下を引き連れて足早に去っていった。


 あ、危なかった……さすがはアンセス。


 アンセスの機転で難を逃れた私達は、そのまま南町を通りぬけ、南北を繋ぐ大橋の前までたどり着いた。


 その名の通り大きな橋で、十人ほど横で列になってたとしてもまだ余裕のある幅をしており、向こうの町までの長さはざっと百メートル近くある。


 石で作られた立派な橋だ。かつてはこの橋を様々なひとが通っていたと考えると感慨深いものがある。


 下は谷になっており、岩が削られたような崖が向かい合っていた。

 底には急流が流れ、落っこちてきたものを、その流れの速さと硬い岩肌をもって砕いてやろうと意気込んでいるような、自然の息吹を感じさせた。


 当然ながら、落ちたら助からないだろう。

 まあ、この幅広の橋から足を滑らせるという事は無いだろうが。


 アンセスと共に歩き始め、橋の中間に差し掛かろうというとき、反対側の北町の方から一つの馬車がこちらへ向けて走ってきた。


 馬車の荷台には兵士が六人とゴーレムが二体乗っていた。

 なんとなく漁村での出来事を思い出す。


 馬車を引く馬は私達の五メートルほど手前で止まり、ブルンブルンと鼻を鳴らし始めた。


 私達は左端、馬車は右端を通ろうとしており、問題なくすれ違えるほどの空間はあるはずなのだが、馬は興奮した様子で前足を地面に擦るのみで、鞭を握った御者は困惑しているようだった。


 御者はこちらへ手を振って話しかけてくる。


「おおーい、なんだかわからねえが、コイツあんたらにビビっちまってるみてえだ。先に通ってくれねえか」


 アンセスは御者に従い、馬車の横をすれ違おうとする。

 私も彼の後ろから続く。

 ちょうど私が馬の真横を通ろうとしたとき、


 ヒヒーン!


 馬が大きくいななき、暴れ始めた。

 首を振り回し、四本の足でこれでもかと跳ねまわる。


 馬の跳ね上げられた後ろ足が私の兜を直撃する。


 あ。


 しまった、と思ったときにはもう遅かった。

 衝撃で兜が吹っ飛び、谷底へ落ちていく。


 激流は待ってましたとばかりに兜を白い波のなかに吸い込んだ。


 顔があらわになる。


 荷台に乗っていた兵士たちの表情が変わる。


「侵入者だ!!!」


 兵士の一人が金属製の角笛を吹いた。

 それは遠くまで響き渡るような鋭い音だった。


「ぐっ……すみません!」

「結局こうなるのか……!」


 アンセスは剣を鞘から引き抜き、腰を落として構えるのだった。




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